第37話 サン・サンクロスへ行こう その6

 買ってしまった。大量に・・・。

 ついつい大金が手に入ったので、あれもこれもとカゴに入れていたら20冊を超えてしまった。

 買いすぎて持てなかったので、袋を二つに分けてもらってテトラにも持ってもらっている。

 ファンタジーとかミステリーとか、知らない間に面白そうな本がたくさん出ていましたから、これから暇な時間は読み耽る事が出来そうです。

 テトラにもいくつか簡単な本を選んであげましたが、文字を覚えたら僕の買った本も読んだりするかもしれません。

 でも、最後に持ってきた本はどう言う事でしょうか?本に描いてあったドラゴンに目がいったらしいのですが、『ドラゴンの僕が君を幸せに出来るまで』って、何の冗談でしょう?

 文字読めなくても、見るからに背表紙からピンク色した恋愛ものでしたよ?

 ドラゴンでも、女の子はやっぱりピンクに惹かれるんでしょうかね?

 

「沢山買ったわね。」

 

 テトラは軽々と本の袋を持って歩いていますが、僕はそうもいきません。半分ずつ分けましたけど、かなり重たいです。

 

「ちょっと買いすぎちゃったね。ちょっと置いてこようよ。重たい・・・。」

 

 テトラと路地に入り、管理室への扉を開いて本を置いた。ちらっとモニターに目をやったけど、来客はまだ来ていないようです。

 少し安心しました。

 テトラの持っている本も移動させて、これで元通り手ぶらになりました。あと欲しいのは食料とかベッド、それから衣類ですけど。いっぺんに買っちゃっていいんでしょうか?

 

「テトラ、大きな物も買っちゃっていいかな?運ぶのお願いしたいんだけど。」

 

「構わないわよ?」

 

 ん〜、だんだん言葉がスムーズに女の子っぽくなってますけど、何ででしょう?なんか違う人と話をしてるみたいです。

 テトラっぽくないですよね。これは慣れるしか無いんでしょうか?僕が押し付けちゃったみたいなものですし・・・。

 

「じゃあ、ベッドを買おうと思うんだけど、いい?」

「ベッド?」

 

 あ、ベットって知らないですかね?そりゃあ魔物は使うことなんて無いですか。

 テトラなんて僕に会うまで殆どドラゴンの姿だったんですもんね。ベッドなんて無縁なものかも知れません。

 

「寝るための寝具だよ。硬い床の上よりフカフカのベッドで寝たいんだよね。」


「フカフカのベッド?どんなものかわからないけど。よし、買いに行きましょう!」

 

 そんなこんなで寝具店を探し出してへと突入し、ベッド選びを開始した。

 

「お客様、こちらのクイーンサイズのベッドはいかがですか?決算セールで金貨4枚とお安くなっておりますよ?」

 

 店員のおばさんに勧められたけど、こんなもの二つも買えません・・・。

 なんならその横にあるシングルベッド二つで金貨2万じゃないですか。そっちで充分なんですけど。

 

「いいなぁテト!ベッドとは気持ちがいい!」

 

 テトラは珍しくはしゃいでいて、勧められたクイーンサイズのベッドに寝転がっている。


「テトラ、そのベッドはすごく良さそうなんだけど、そんなもの二人分買えないよ。

 お金がなくなっちゃう。」

 

「ん?この大きさなら二人で寝れるじゃない!」

 

 ゴロゴロと転がりながら、テトラは予想もしなかった事を言いだしました。そ、そんな事・・・・いいんですか!?


「い、一緒に寝るの?」

 

 僕が声を上げるとテトラは転がるのをやめてベッドに座った。そして眉を寄せて首を傾げながら言う。


「今までくっついて寝ていた事もあったじゃない。それとも、私と一緒に寝たくなかった?」

 

 なんでちょっと頬を膨らましてるんですか。そんな仕草どこで覚えたんです!?確かに最初の頃はドラゴンのテトラにくっついて寝てましたけど、それはドラゴンだったからであって少女なテトラにくっついていたわけじゃないです。

 でも、そんな顔で言われたら僕も嫌とは言えないじゃないですか!

 

「じゃ、じゃあ。これください。」


「かしこまりました。お二人とも、とってもお似合いですよ!」

 

 この店員さん、絶対カップルか何かだと勘違いしてます。でも、よくよく考えると男女で寝具を買いに来るなんて普通ないですよね。勘違いされても仕方ないですか・・・。

 嬉しいですけど!!

 

 

「お届け先はどちらへお持ちいたしましょう?」

 

 満面の笑顔で言われたが、流石にここで扉を開くことは出来ない。テトラに運んでもらうのが一番だよね。

 それはそれで驚かれるとは思うけど。スキルを見せるよりはよっぽどいい。

 

「あ、このまま持って帰ります。」

 

「え?」

 

 店員さんはそれを聞いて驚いていたが、在庫の置いてある倉庫からベッドを出してきてくれた。どうやら組み立て式のようだけど、僕のスキルを使えば簡単に組み立てられそうだ。

 マットレスや布団と一緒に、丸ごとテトラに持ってもらった。

 ベッドの購入に上機嫌なテトラは、るんるんと足足取りが軽い。持ってるものは人を潰せるほど重たいのに、流石というしか無いですね。

 

 そんなテトラに唖然とする店員さんを置き去りに、僕らは一度ベスティさんのお店に戻った。


「一旦ここに置いておこう。あとは食料とか、衣服を買っておきたいんだ。」

 

 ベッドに思ったより高額なお金を支払ってしまったが、まだ金貨10枚+α残っている。少しくらい贅沢したってバチは当たらないよね?

 

「お、もう戻ってきたのか?私はもう少しだけ時間が欲しいのだが。」

 

 隣の部屋からベスティさんが顔を出したけど、どうやら準備はまだの様だ。でも僕らもまだ買い物をしたいので丁度いい。

 

「一旦荷物を置きにきたんですよ。あとでいっぺんに運びますんで、もう一度買い物に行ってきます。」

 

 テトラと二人で買い物、本屋さんと寝具店へ行っただけですがとても楽しいです。

 あと少しでこんな時間も終わっちゃいますけど、早く買ってダンジョンにも戻りたいです。

 今夜からテトラとおんなじベッドで寝るのかぁ。

 そう思うと気分が高揚するけど、一つ思い当たる。


 ね、眠れるんでしょうか・・・?

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