第38話 魔王さんがやって来た その1

「テト、これは何?それからこっちは!?」

 

 二人分の服をいくつか買ったあと、テトラと食料を買いに来ている。今は大きな倉庫の様なお店で食べ物を物色しているところです。

 が、テトラのテンションがとてつもない急上昇を見せています。元々は食べなくても問題ないって言っていたのに、試食品を食べた途端に人間の食べ物に興味を持ち始めたのだ。

 

「それはショートケーキ。甘いお菓子だよ。それからそっちはシュークリームだね。中にクリームが入ってて美味しいんだ。」

 

 肉類から野菜、魚を経て現在はスイーツコーナーを歩いている。すでに買い物かご二つ分では入り切らず、大きなカートに入れ替えた所だ。

 

「これも食べてみたいし、こっちもほしいな。あっ!この黒いものは何!?」

 

 テトラはチョコレートを指差して、とても楽しそうに笑っている。

 ベッドを買った時もそうでさしたけど、テトラってこんなにはしゃいだりするんですね。ちょっと意外です。

 

「チョコレート、これも甘くて美味しいよ。」

「食べたい!」

 

 テトラはガサッとチョコレートの包みをカートに突っ込んだ。一体どれほど食べるんでしょうか。

 というか、全部食べる前に消費期限来ちゃうんじゃないですか?相当な量がありますよ?

 

「テトラ、あまり買い込みすぎたらダメだよ。スイーツは日持ちが悪いものが多いから、数日経つと美味しくなくなっちゃうよ?」

 

 ここらで歯止めをかけておかないと行けませんよね。別に、欲しければまた買いにくれば良いんですから。

 

「そうなの・・・。じゃあ、これくらいでやめておきましょうか。また連れてきてね!」

 

「勿論だよ。」

 

 少女なテトラに頼まれたら断れません。というか、またデート出来るなら寧ろ望む所ですよ。



 ようやく、ある程度の買い物が終わった。日用品なんかも置いてあったので、いくつか必要そうな物は買っておきました。

 買い物なんて久しぶりですけど、前とは使うお金の量が桁違いですね。

 銀貨1枚をケチっていたのに、今日だけで金貨を6枚分も使っちゃいましたよ。既に金銭感覚が麻痺してしまってます。

 ホント、買いすぎました。


 短い時間でしたけど、とっても楽しかったです。ダンジョンの事もありますから、そろそろ戻りましょう。



 テトラとのデートに浮かれていた僕は、この時ダンジョンでとんでもない事が起こっているなんて、知る由もありませんでした。





 

 〓〓〓

 

 


 

「帰りました〜。」

 

 大量の荷物を持って、ベスティさんのお店に戻ってきました。そろそろ移動する準備は出来たんでしょうか?

 

「帰ったか。丁度準備も粗方終わった所だよ。君たちは、買い物はもう良いのか?」

 

 ベスティさんが隣の部屋から出てきました。


「もう十分過ぎる程買いましたよ。」

 

 テトラと二人で買ってきた荷物を一箇所にまとめて、ベスティさんへと向き直る。

 

「それじゃ、移動しましょうか。でも、ホントにお店の方は空けちゃって良いんですか?」


「それなら心配ない、店は休業中としておいたからな。」


 ベスティさんは腰に手を当ててそう言いましたけど、それで良いんですか?まぁ、本人が良いなら特に何も言いませんけど。

 

「テト、私は早くスイーツが食べたい。」

 

 テトラが買い物袋を見ながらソワソワしてます。そう言えば、スイーツの試食なんてありませんでしたもんね。

 思ったより時間がかかっちゃいましたから、早いことダンジョンに戻りましょう。

 

「よし、じゃあ颯と移動しようか。ベスティさんの荷物は隣ですか?」

「あぁ、部屋の中の物をまるごと持っていきたいのだが、本当に出来るのか?」

 

 部屋の中全部ですか。相当な量があるんでしょうね。でも、新たに部屋を作ればなんとかなるでしょう。

 

「多分大丈夫だと思いますよ。まずは僕らの荷物を運んで、その足で新しい部屋を作っておきます。

 ちょっと待ってて下さいね。

 テトラ、こっちを運んじゃおう!」

 

「わかったわ。」

 

 大きめの扉を開けて、テトラに運び入れて貰う。軽いものは僕も手伝いながらささっと運び入れた。

 

「あ、ランプが点いてる。」

 

 管理室に戻ると来客を示す赤いランプが点灯していたが、兎に角荷物を運び入れてしまおうと思ってモニターは後回しにした。

 

 新しい部屋を作って、そこからベスティさんのお店に戻る。ベスティさんの荷物を確認して全てを運び入れた。

 かなりの量が有ったが、机や棚、布団なんかも全部運び入れた。

 途中から少し面倒くさくなったので、壊れない様なものは落とし穴方式でどんどん投げ入れた。

 

「よし!終わり!!早くモニタリングしないと!!」

 

 来客も気になりますから、急いでダンジョンに戻ります。

 

「ベスティさん、適当に整理しててください!!僕はやる事がありますんで!」

「わかった。しかし凄いな!ここが仮想空間というやつか!」

 

 ベスティさんも興味深々に部屋を散策し始めました。管理室から行ける部屋は倉庫とベスティさんのために作った部屋だけです。好きに移動してもらって構いません。

 

 僕はモニターに真っしぐらです。

 一体いつの間にいらしたのか・・・。


「ご来場、ありがとうございます!!」

 

 モニターの前に到着し、反射的にお辞儀をしました。お客さまは神様です!

 テトラとのデートの為にも、僕を裕福にしてください!

 

「あれ?」

 

 ふとモニターを見つめた僕でしたが、見慣れない景色を前に頭にハテナが浮かび上がりました。

 

「どうしたの?」

 

 ヒュッとものすごいスピードで、テトラも隣にやってきました。移動し終わるなりスイーツの入った買い物袋を漁っていたのに、やっぱりモニターは気になってるんですね。

 

「あぁ、見慣れない景色だったから。」

  

 さっき買い物の途中で見たときは、ランプは点いていませんでした。あれから二時間も経っていませんけど、洞窟エリアは抜けてますね。という事は、マッドアントの群れも倒してしまったのでしょうか?

 モニターに映っているのはマントを羽織った男の人が一人だけ、ものすごいスピードで草原を駆け抜けています。

 

「草原エリアって事は、15階〜20階層の間だ!この短時間でそんな所まで行くなんて、一体この人は何者なんだ!?」

 

 鋭い牙を持ったどう猛な巨大な猫の魔物が襲ってきたけど、持っている黒い剣でひと薙ぎにして突き進んでいきます。

 あの猫、すごく強そうだったのに・・・配置をまちがえたんでしょうか・・・?

 

「この魔力の流れは、コイツは魔王種みたいね。ボリボリ・・・ボリ・・・・。美味しい!!」

 

 テトラは先ほど買ったチョコレートを頬張りながら、モニターを眺めてポツリと呟きました。

 聞き間違いでしょうか・・・・。


「魔王種って、魔王?」


「ボリボリ・・・ごくん。そうね。」

 

 テトラさん?平然と見てますけど、それってとんでもないお客さまなんじゃないでしょうか!?

 

 なんで魔王なんかが来てるんですか!!?

 

 

 助けてください勇者様!!!

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