第50話 勇者様御一行再び その3

 リアクションをスルーされてしまいましたが、気を取り直してラッツさん達一行をモニタリングです。

 

 ラッツさんはテラードッグと向かい合っています。五対一、これなら強いと言っても負けませんよね。魔物の進化という予想外の事態がありましたが、難なく突破してくれそうです。


『ラッツ、手を貸すか?』

 

 ロズさんはラッツさんへ投げかけます。勿論、安全に勝つにはその方がいいでしょう。


『いや、いいよ。すぐ終わる。』

 

 ラッツさんがまさかの応戦拒否です。さっきまで強いって言ってたじゃないですか!なんで!?

 

「テラードッグって、どのくらい強いんです?」

 

 誰に言うでもなく、レイジアさんを除く三人に質問してみます。

 

「そうね、テトの知ってるところで言えば十階層の大イノシシ、ベアーズボアより強いわよ?」

  

 テトラがすかさず教えてくれます。あのデッカいイノシシですか、ベアーズボアって言うんですね。それより強いのか……でも戦ってるトコ見てないから全く強さがわかりません。

 

 とりあえず、強いんですね。でも、そんな相手を一人で?

 ラッツさん大丈夫でしょうか?


双燕そうえん!』

 

 テラードッグから少し距離を取ったラッツさんが剣を振るいます。振り下ろした刀身から青白い光が二つ飛び出して、一つは天井を、もう一つは低空に地を這いながらテラードッグへと飛んでいきます。

 ロズさんの時の様に目で追えない事は無いですが、それでも物凄く早いです。

 

 青白い光はそれぞれ壁と地面に切れ込みを入れながら疾っていき、テラードッグに命中しました。

 

『よし!』

 

 ロズさん同様斬撃に魔力を乗せて飛ばしたんでしょうか?命中した青白い光は強い光となって、あたりに衝撃波を撒き散らして砂煙をあげました。

 

 ラッツさんも拳を握って手応えを感じている様です。


「まだだ。」

「へ?」


 倒したと思って安心しきっていた僕に、ノルマーが机の向かいから言いました。

 

《グルォオオオオオオオオ!!》

 

 洞窟内を震わす様な大きな叫びと共に、テラードッグが煙から飛び出しました。

 身体の一部が凍りついた様になっていてあちこちダメージを追っていますが、まだ倒れたわけではない様です。

 

「うわぁ!?まだ生きてる!?」

『何だと!?』

 

 僕とラッツさんの驚いた声はほぼ同時でした。ラッツさんも倒したと思い込んでいた様です。

 しかし、流石は勇者さま。驚愕しながらもテラードッグの攻撃を躱しつつ、剣を振ってしっかりと反撃をしています。

 

 キラードッグの攻撃を弾き、怯んだ所に突っ込んでいきます。素早い攻防ですが、ラッツさんは全く攻撃を受けていない様です。

 あの速度を見切っているんですね。凄いです!

 

《ドゴォォォオオオオオオ!!》

 

 地響きを立てて突然ダンジョンの床から岩が盛り上がりました。テラードッグの真下から突き上げる様に岩が伸びて、テラードッグを襲います。

 

「なに!?」

 

 いつ攻撃を仕掛けたのか分かりませんでしたが、ラッツさんの攻撃?

 岩はそのまま物凄い速度で伸びていき、天井へとぶつかって衝撃音を響かせます。

 

 テラードッグはあっさりと潰されてしまいました。あたりに静けさが戻ります。

  

『ルーモス、邪魔するなよ。

 良いところだったのに……。』

 

 ラッツさんが振り返ってルーモスさんを見ました。

 

『さっさと倒さんお前が悪い。それに、こんな浅い階層で足踏みしてる暇なんてないだろうが。

 がっはっはっはっは!!』

 

 ルーモスさんが相変わらずの豪快な笑い声を響かせます。そう言えば前にもヘルダイバーを地面ごと割って倒してましたっけ?

 ラッツさんは少し不満そうですが、戦闘中の仲間にぶつける事なく技を使ったルーモスさん。

 見かけによらず繊細なんでしょうか?

 

 ともあれ、御一行は四階層にテラードッグが現れるというアクシデントを無事乗り越えてくれました。

  

 続くはストーンタートルの待つ五階層。でも、ここは前回も難なく突破しました。なんて事ないでしょう。

 

 僕の期待通り、五階層の亀さんをリネルさんが魔法で撃破し六階層。

 前回同様ルーモスさんが豪快に突破するかと思いきや、ロズさんとラッツさんがまるごとヘルダイバーを凍らせてすぐに終了。

 ルーモスさんが割った地面が直っていた事に首を傾げていましたが、答えが出る事はなく一行は前回リタイアした七階層へと進んでいきます。

 

 氷漬けになったヘルダイバーですが、ベスティさんが研究したいと言っていたので後で一株持って帰る予定です。

 ノルマーが手伝ってくれるので、僕が取りに行かなくても良いみたい。

 

 何やらこの二人、仲がいいんですよね。魔物の研究をしているベスティさんと、魔王の組み合わせ。

 僕にはよくわかりませんが、何か通ずるものがあったんですかね?

 

 はむっ。あ、このケーキ美味しい。

 

 さて、落とし穴は無くなったとは言え七階層のマッドアントは強敵です。数も多ければ硬い。リネルさんとレネルさんの虫嫌い。

 どうやって攻略していくんでしょうか?

 全部凍らせて終わっちゃうんでしょうかね?でも、それだと面白くないです。

 カッコいいところ、期待してます!

 

 それに、そろそろ先の階層も楽しんで頂きたいです。

 宝箱とか置いてないのは、物凄く申し訳ないと思いますけど……。

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