第51話 勇者様御一行再び その4

 ラッツさん達御一行はまっすぐマッドアントの待つ七階層へと降りて行きました。

 速いです。

 ここまでほぼノンストップ。とうとう前回リタイアしたマッドアントの巣窟ですよ?


 あ、早々に数匹現れましたね。巣は出口付近にあるのに、どうやら徘徊している個体もいるみたいです。


『でやがったなアリども。今回は、この前の様にはいかんぞ。』

 

 ルーモスさんが背中に付けていた斧を手にとって、マッドアントに宣言しました。リネルさんとレネルさんは相変わらずの虫嫌いで、その後ろに隠れています。

 

『はやくやっちゃって!!ムシは嫌なのよ!!』

 

 リネルさんがルーモスさんの後ろから声をあげます。

 

『んじゃ、この階層をさっさと突き進むぞ!落とし穴に気をつけろよ!』

  

 ルーモスさんが走り出します。それを追う様にラッツさん、ロズさん、リネルさんとレネルさんの順番で、残りの四人が続きます。

 しかし一箇所に固まらずに間隔を開けて進んでいます。おそらく前回落とし穴にはまった事を警戒しての陣形でしょう。

 一番大きなルーモスさんを先頭で、残りが落とし穴を警戒しながら進む。

 

 これなら一箇所に重さが加わる事もないので、落ちるとしてもルーモスさんだけになりそうです。

 ただ、落とし穴はもう無いんですけどね。

 

『どぉりゃああああああああ!!!』

 

 先頭を走るルーモスさんが豪快に斧を振り回すと、床や壁から地面や岩が盛り上がりながら割れていきます。

 そのままそれらはマッドアントを巻き込んで攻撃している様ですね。案外落とし穴を発動させる事にも一役買っているのかも知れません。

 もう無いんですけどね。

  

「相変わらず豪快ですねぇ!」

「そうね、彼は豪快だけど、思ったよりも繊細な攻撃もできるみたい。」

 

 テトラもそれを見ながら解説します。

 

「そうだな。確かに攻撃の軌道は見事なものだ。

 だが、まだまだ荒いな。」

 

 ノルマーも頷きます。


「何処らへんが繊細なの?」

 

 見ているこっちは豪快に壁や床を抉って攻撃している様にしか見えません。

 

「ほら、マッドアントがほぼ全て一撃で倒されてるほど力を入れてるのに、走る為の通路はちゃんと確保されてるでしょ?」

 

 テトラがそこを指差して言います。

 

「確かに。」

 

 ルーモスさんの攻撃した先は漏れなくボコボコに抉られていますが、通路もしっかりと作られています。

 繊細とはこう言う事を言うんですね。

 

 凄いです。皆さんペースを落とさずどんどん進んでいってます。

 

『いやぁ〜〜〜!!!』

『きゃぁぁぁぁ〜〜〜!!!』

 

 しかし、マッドアントの横を通るたびにリネルさん姉妹が奇声を上げています。本当にお嫌いなんですね。

 やけくそになってる様な気もしますが、嫌な事にも立ち向かう勇気には感服します。

  

『五月蝿い!!黙って走れないのか!!』

 

 ロズさんから厳しい一言も飛んでいますが、どうやら二人の耳には入っていない様です。

 

 奥に進むにつれて、出てくるマッドアントの量が増えてきました。出口が近いのでしょう。

 マッドアントの巣も目の前です。

 

『ぶちかますぞ〜!!

 ギガントブレイク!!』

 

 ルーモスさんが叫びを上げて、手に持った斧を横に薙ぎ払いました。するとそこからマッドアントの群れめがけて青光りする大きなエネルギーの様なモノが飛んでいきます。

 それは衝撃波を生みながら群の中へと駆け抜けていき、切り裂き押し潰す様にマッドアントを一掃しました。

 

「凄い!!一気に視界がひらけた!!」

 

『がっはっはっは!この間の借りは返させて貰うぞ!!』

 

 ルーモスさんが大きな口を開けて笑っています。清々しい笑顔です。

 パーティのムードメーカーですね。

 

『馬鹿が、さっさと行くぞ。』

 

 ロズさんはクールにそれをスルーして、ルーモスさんの背中を叩きます。


『わかっとるわ!』

 

 再び一行は出口へと突き進みます。


『あれが巣穴か、行くぞラッツ!』

『よし!』

 

 先頭のルーモスさんを追い抜き、ラッツさんとロズさんが飛び出しました。

 そこにはマッドアントの巣穴が見えますが、二人で何をするつもりでしょう。

 どんどん巣穴からマッドアントが出てきます。

 

『気持ち悪い〜〜!!!!』

『きゃぁぁぁぁ〜!!!!』

 

 それを見た姉妹の悲鳴は一層激しさを増してきました。

 うん、凄い悲鳴です。でも、叫びたくなる気持ちは分かりますよ。


「うぅ…………。あんなに出てこられたら私なら気絶しちゃうわ…………。」

 

 レイジアさんがフォークに刺したチョコケーキを食べ損ねた様に、突き刺したままの姿勢で固まってモニターを見ています。

 

「確かに気持ち悪いですよね。」

「「「そうか(な)?」」」


 わー、三人揃って疑問形ですか。テトラやノルマーは分かりますが、ベスティさんも大丈夫なんですか?

 やっぱり魔物の研究をしてるだけあって、気持ち悪いとかって思わないんですかね。

 

『『飛燕!』』

  

 と、そんな隙にロズさんとラッツさんが二人揃って攻撃を繰り出した様です。

 巣穴から出てくるマッドアントごと凍らせて、巣穴の入り口をあっという間に塞いでしまいました。

 

『雷牙!』

 

 続け様にロズさんが技を放ちました。目にも止まらぬスピードで残ったマッドアントを打ち倒していきます。

 気付けば七階層に溢れかえっていたマッドアントの群れが全滅していました。

 

 モニターにはもう動く敵は一匹も映っていません。


『はやく次の階層へ行きましょ〜よ〜!!』

 

 リネルさんの一声で、皆さんは先へと進み始めました。敵を全滅させたのに、ルーモスさんを先頭にして落とし穴への警戒は忘れていません。

 やっぱり、流石です!落とし穴はないですけどね!!

  

 そしてとうとう、八階層のお目見えの時ですね!

 

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