第45話 嫌な予感がよぎります

「レイジアさーん。」

 

 アストルの丘へ移動して声を上げましたが、返事が返ってきません。少し早かったですかね?


「レイジアさーん!」

 

 待ってみますけど、やはり返事は帰ってきませんでした。すっかり夜になって、昨日レイジアさんと約束したくらいの時間はすぐそこです。

 少ししてから出直してみよう。テトラと魔王のやりとりが終わったら、やらなければならない事もあるんだし。

 先走りました。

 

 一旦管理室へと戻ると、ベスティさんに呼ばれました。

 

「テトラが魔王を連れて此方へ帰りたいそうだ。とりあえずテトラの監視の元では悪さはしないらしいぞ。」

 

 魔王に来てもらうのは予定通りですけど、本当に面と向かうとなると緊張しますね。何しろ人の敵なわけですから。

 

「わかりました。じゃあ、扉を開けます。」

 

 僕はテトラの元へと扉を作った。扉は直ぐに開かれて、テトラと魔王が入ってくる。


「お前がテトラ殿の言っていたダンジョンの主か。まさかお前の様に弱そうな人間だとバッ・・・。」

 

 魔王が喋り終わる前に、テトラの鉄拳がその土手っ腹をぶち抜いた。

 

「まだ立場がわからないかしら?私の下に付くという事は、テトの配下であると同義よ?」

 

 魔王はテトラに殴られた衝撃で、管理室の壁まで吹き飛んだが、頑丈な壁はビクともせず魔王をはじき返した。

 流石はテトラが壊せなかった壁。ダンジョンの壁に貼り付けた岩とは違います。めり込む事も許さないなんて・・・。

 

「テトラ、そこまでやらなくても。」

 

「いや、こういう事は初めが肝心よ。しっかりと主従関係を教えておかないと。」

 

 テトラの言い分はわからなくもないですが、なんか僕には性に合わないというか・・・。

 でも、これならテトラがいれば大丈夫そうですね。僕はレイジアさんの所へ行っても良さそうですね。

 

「わかった。それよりテトラ、月の雫を取ってくれないかな?そろそろ持って行かなきゃ行けないんだ。」

 

 テトラも思い出した様に、そそくさと月の雫を回収してくれた。

 どうやら魔力を加える事で、昨日使ったようなアイテムとして回収できるようだった。つまり、僕一人だと取れないという事です。

 

「ありがとう、テトラは魔王を見てて?直ぐに戻るから。」

 

 レイジアさんにこちらへ来てもらうつもりでしたけど、その必要も無かったようです。兎に角これを持ってアストルの丘へ行きましょう。

 レイジアさん、待ってるかな?

 

 テトラも一緒に行きたそうにしてましたけど、魔王の手綱を握っておいてもらわないと大変ですし、今回は一人で出かけます。

 再び扉をアストルの丘へと繋げて、一人で扉を潜りました。ベスティさんは研究室を仕上げてしまう様です。



 

「レイジアさーん!」

 

 再び戻った丘の岩の上で、レイジアさんの名前を叫びました。けどまだ彼女は来ていないようで、僕の声が小さく木霊するだけです。

 仕方ない、少し待っていましょうか。

 

 それから10分、20分と待ちましたが、中々レイジアさんは現れません。もしかして、約束を忘れちゃったんでしょうか?

 でも、自分の為の約束を忘れるなんてあるんでしょうか?よっぽど外せない用事でもあったのかな?

 もうしばらく待ってみましょうか・・・。

 

 そうして一人で星を眺めながら彼女の事を待っていましたが、全然現れません。こうなると嫌な予感が頭によぎります。

 まさか、状態が悪化して動けなくなったとか?それとも村が魔物にでも襲われた?

 

 そう思い始めると居ても立っても居られなくなり、僕は村の方へと歩き始めました。

 岩の多い丘の上から少し下ると、細い獣道がまっすぐ村へと伸びています。僕はその道を通って村へ向かいました。

 昨日はテトラと一緒に通った道も、一人だとなんだか心細いです。特に魔物もでない通い慣れた道なのに、変な想像をしたせいか妙に気味が悪いです。

 何もなければいいんですけど・・・。

 

 不安な気持ちを抱えたまま、僕は村へとたどり着いた。村は変わらず静かな夜を迎えており、点々と家の明かりが窓から漏れているだけ。

 どうやら魔物に襲われたって事はなさそうです。不安が一つ消えましね。

 えっと、レイジアさんとポルテの家はあっちでしたね。とりあえずそこまで行ってみましょう。

 

 村の南側にある家は、僕の家とは村の中心を挟んで反対にある。家は明かりが点いていて、まだ人は起きている様だ。

 どうしよう、ノックしてみるべきか。しかし、村の人たちにはあまり見つかりたくはない。変に僕の家族の耳に入るのも嫌だ。

 

「レイジアは一体どこへいったんだ?」

 

 微かに開いた窓の隙間から、会話が聞こえてきた。僕は足音を小さくしてそこまで近づく。

 

「たしかレグラスの丘に行くって言ってたけど、なかなか帰ってこないね。」

 

 ポルテの声が聞こえた。しっかり回復できたのか、声を聞く限り元気そうだった。

 でも今、レグラスの丘って言った?僕が約束したのはアストルの丘であって、レグラスの丘は村から全く正反対の方向だ。

 

 それに、あちらは景色はいいが魔物がいるはず。レイジアさん、まさか待ち合わせ場所を間違えてたなんて・・・。

 ここからまっすぐ走って15分ほどで着く距離だ。心配だから急いで行ってみよう。

 

 全く、どこか抜けてるんですね・・・。心配な反面呆れます。魔物に襲われてたりしませんよね?

 

 僕は足音を立てないように、そっと村を後にした。

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