第44話 鯖を読むどころの騒ぎじゃありません

「テトラって、何歳でしたっけ?」

 

 帰ってきたテトラへの第一声は気遣いの言葉には出来なかった。その桁違いな強さがそれをさせないという事もあるが、それ以上に気になって仕方がなかった。

 現在魔王はダンジョン内で奪った魔力を、あるべき場所へと戻すべく19階から浅い階層へ向けて大移動の真っ最中だ。

 

「なんの話だ?我の年は前にも言わなかったか?」

 

 テトラは何を焦っているのか、口調が前と同じに戻ってます。テトラって、隠し事出来ないタイプでしたっけ?

 あまりに動揺しすぎだと思うんですけど。


「まぁいいからいいから。で、何歳だっけ?」

 

 嘘をつく理由も必要もわかりませんが、それでもテトラが嘘なんてついていないと信じたいです。

 

「1054歳よ。前にもいったでしょ?」

 

 あれ?少し違いますけど・・・。でも年齢的には許容範囲のズレでしょうかね?

 少し葉っぱをかけてみましょうか。


「そっかそっか、そう言えばそうでした。でもびっくりしましたよ、魔王ガイザックと知り合いだったんですね。その魔王はさっきのノルマーより強かったんですか?」


 さて、どう答えるでしょうか?流石にはぐらかしてくるでしょうね。

 

「ガイザックか、あいつはノルマーと比べ物にならない程強かったわ。人々には最強にして最悪と恐れられ、正に支配する事を己が生きがいとしていたわね。」

 

 それを聞いて、僕はチラリとベスティさんを見た。2700年前の魔王と言うのは間違いないですよね?と視線を送ると、察した様にベスティさんが頷きました。

 テトラさん、完全にアウトですよ・・・。

 

「テトラ、魔王ガイザックって、2700年も昔に滅びてますよね?」

 

「あ・・・・・・。」

  

 やっべー、口滑らせちった!みたいな顔はやめてください!!テヘペロじゃぁ僕は騙されませんよ!?多分・・・。

 しかし、まさかドラゴンが年齢詐称するだなんて・・・。2700年前という事は少なくとも倍以上は鯖を読んだという事ですよね。

 

「で、何歳なんですか?」


「・・・・・・。

 約、さんぜんななひゃく・・・。」


 テトラは明後日の方向を向きながら言いました。なんて事でしょうか!まさかですよ!?

 鯖を読むどころの騒ぎじゃありません。

 30代の女性が10歳です!なんて言ってる様なもんですよ?そもそもドラゴンの年齢に関する基準がさっぱりなので、人間に例える事自体が当てはまらないかもしれませんけど。流石にやり過ぎな気がします。

 

「それって、なんか意味あったの?」

 

「いやー、出来心出来心!」

 

 特に意味なんてなかったんですか・・・。まぁ別にいいですけどね。

 テトラの何が変わるわけでもないですから。でも、嘘をついた事は許しちゃダメですよね?

 

『おぉい、テトラ殿!全ての魔力を戻しましたぞ!!』

 

 テトラに何か嘘をついたお仕置きをと考えているところに、モニターの中から呼び声が聞こえました。

 魔王ノルマーが魔物から奪った魔力を返し終わったようです。

 

「テト、奴の配置はどの辺りにする?」

 

 テトラは完全に話題を変えてしまうつもりのようですね。僕はしっかりと覚えておかかますからね!

 とりあえず今は魔王の配置でしたね・・・。魔王の配置かぁ。

 今日の今日までそんな存在のボスを配置するなんて思っても見なかったので、どうしようかなんてすぐにでてきません。

 

「ん〜、どうしよう?」

 

 とりあえずってことで深い階層に置いておいても良いけど、どうしたもんですかね?

 

「テトは好きにダンジョンを作れるのだよな?」

 

 ベスティさんが横から何かを考えながら声をかけてきました。

 

「ある程度自由には作れますよ?」

 

 それしか取り柄はないんですけどね。


「それなら、例えば5階くらいから枝分かれで魔王用にダンジョンを作ればどうだろうか?

 通常と違う隠しルートの様なモノだ。

 それなら今の階層を下手にいじる事も無いだろうし、魔王の好きにさせられるんじゃないか?」

 

 なるほど、隠しルートですか 。そう言うのは全く作ってませんでした。

 5階層のストーンタートル部屋に隠し扉とか面白そうですね。

 魔王にはバレない様に出入りできるルートを提供しておきましょうか。

 魔王専用通路って奴です。

 

「いいですね。一度ダンジョンを作っておけば、後から繋げる場所や階層は変更出来ます。

 とりあえずで配置するにも有りかもしれませんね!」

 

 テトラに一度ダンジョンへと戻ってもらい、魔王ノルマーを迎えに行ってもらった。僕らに手を出さぬ様に釘を刺しておいて貰うためだ。

 テトラがある程度魔王に説明して、ダンジョンが完成するまで管理室へ招きいれる事になった。

 

 僕はあまり呼びたくはなかったんだけど、ベスティさんがどうしてもと言うので仕方なく了承した。だってベスティさんの迫力が凄いんですもん。

 魔王とドラゴンをいっぺんに研究できるって張り切っていました。

 

 まさか、二日で三人も管理室への関係者が出来てさしまうなんて思ってもいませんでした。

 ベスティさんに魔王ノルマー、そして昨日会ったレイジアさん。

 いつの間にか日も沈んで、管理室に新たに置かれたマザームーンの大きな花びらに、キラリと光る雫が見えています。

 

「あぁ!忘れてた!!」

 

 そう言えば今夜はレイジアさんに月の雫を届けなきゃいけないんでした。そろそろ約束した時間になっちゃいそうです。

 テトラは魔王を迎えに行ったけど、まだ帰ってこない。モニターを見ると魔王へ話をしている途中の様だ。

 ベスティさんは自分の部屋を作ってくると言い残して去って行ったし、テトラが帰るまで月の雫の回収方法がわからない。

 

 こんな事なら早めに聞いとけばよかったです。でも、もしかしたらレイジアさんがもう待っているかも知れません。

 もし待たせてるとしたら忍びないですねぇ。

 

「来てもらいましょう!」

 

 そうですよ、別に彼女はここの事を知っているんだから、連れてきても問題ないはずです。

 人が沢山で混乱するかもしれませんけど、何とかなりますよね?

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