第22話 理由を知りたいです
「っ!?キラードッグは!?
・・・あ、あれ・・・・・・?」
レイジアさんは起き上がりましたが、状況を飲み込めていない様です。勝手に運んじゃいましたし、無理もないですけど。
「よかった。気がついたんですね。」
テトラのお陰で身体が軽い。僕はレイジアさんの方へ向かいながら声を掛けた。
「先ほどテトが話していた者か、目が覚めたのだな。」
テトラも後から付いてきます。何だかんだ言っても優しいので、心配なんでしょう。
「あ、貴方たちは?」
「僕はテト、貴方がキラードッグに襲われて倒れてしまったので、ここまで運ばせて貰いました。勝手な事をしてごめんなさい。
あと、こっちはテトラです。」
まずは自己紹介。変な警戒をされると嫌ですしね。
「あ、君。思い出したわ。
確かダンジョンで・・・。君が助けてくれたの?
っ・・・・・・。」
どうやら怪我した腕が痛む様です。レイジアさんは腕を重たそうにぶら下げています。
治療が先ですね。
「テトラ、もう一粒を彼女にあげてもいいかな?」
「構わぬよ。お人好しのお前の事だ、ダメと言っても聞かぬだろう?」
テトラは薄っすらと笑みを浮かべて、月の雫を僕に差し出してくれた。テトラはよくわかってくれてる。良いと言ってくれるまで粘るつもりだった。
「ありがとう、テトラ。」
最後の一粒を受け取って、レイジアさんへ渡す。
「はい、これを飲んで下さい。腕の怪我も回復しますよ。」
「これは・・・?」
彼女は直ぐには受け取らず、月の雫を眺めました。そりゃあ見知らぬ人からいきなり飲めと渡されても、警戒しちゃいますかね。
「月の雫って言う回復アイテムです。大抵の病気や怪我は回復できるらしいですよ。」
「つ、月の雫!?」
レイジアは目を開いて驚いた。本来このアイテムは、市販されている回復ポーションとは桁違いの回復力を持っている。更には回復ポーションで補うことのできない病気や呪いにも効果を発揮するのだ。
元々取れる量も少なく、市場に出回る事も稀だ。その為かなりの高額で取引されているアイテムだった。
切り傷程度の回復のために渡される様な物ではないので、レイジアは驚愕したのだ。
そして、理由はそれだけではなかった。
「ほ、本当に月の雫なの!?」
「本当に月の雫ですよ。ですよね?」
テトラに確認する。僕はそもそもこのアイテムを知りませんでしたので、あまり問い詰められても答えられません。
「間違いなく月の雫だ。どうした、使わないのか?」
テトラは少し不満げな表情を浮かべて首を傾げた。せっかくの好意を踏みにじって欲しくないんでしょう。
「も、もしよければ。私にこの月の雫を貰えないかしら!」
「あ、あげますって。使ってくださいって言ってるじゃないですか。」
彼女が物凄い見幕で迫るので、慌てて一歩後ずさっちゃいました。やっぱり、正面から魔物に向かって行く人は迫力が違います。
「そ、そうじゃない。私の弟に・・・使わせて貰えないだろうか。」
弟?どう言う事でしょう。自分の回復より優先するほど深刻なのでしょうか?
「それは、どう言う事ですか?」
レイジアは力なく手をぶら下げて、顔を落とした。少し躊躇って、レイジアは口を開く。
「私は、この月の雫を買うお金を稼ぐ為に、ダンジョンに入ったの。
この前、私の村が魔物に襲われたんだけど、冒険者達のお陰でなんとか難を逃れたわ。でも数日後、魔物が倒れされた場所に瘴気溜まりが現れてた。
私の弟はそれに気づかず、瘴気に当てられて強い呪いに掛かってしまったの。瘴気溜まりは教会の司祭によって取り除かれたけど、弟の呪いは解けなかった。
だから、万能薬とも呼ばれる月の雫がどうしても欲しいの。」
レイジアさんが危険を冒してまで、ダンジョンに挑んだのはそう言う理由だったんですね。すごく真剣で、切ない顔をしています。
しかし、教会の司祭が祓えなかった呪いって相当強力なモノなのでしょうか?大抵の呪いはお布施を支払えば祓って貰えます。
「その倒された魔物とはなんだったのだ?」
テトラは腕を組んでレイジアを見た。テトラは物知りですから、月の雫が効くかどうか知ってるんですかね?
「確か、大きな髑髏を持った首無しの騎士だったと聞いています。」
何ですかその魔物。想像しただけで怖いです。首がないのに動いてるんですか?
気味が悪いです。
「それはディユラハーンだな。アンデットの中でも上位の魔物だ。
それを倒した冒険者はかなりの強者だと思うが、後処理を怠ったのだな。何とも嘆かわしい。
普通アンデットを倒した後は、周囲に何かしらの影響を与える魔力がその場に残る。大抵の場合は呪いだな。
それを防ぐために、魔力が一点に集まる前に聖水や浄化魔法を使用するのだが。
知識がなかったのか、ワザとしなかったのか。どちらにしても酷い話だ。」
へー。アンデットって、そんな厄介な落し物をして行くんですか。
勉強になります。まぁ、僕がアンデットなんかと関わることなんて無いですけど。
「テトラ、その呪いに月の雫は効果があるの?」
そこ、肝心ですよ。
「安心しろ、月の雫なら治すことも出来るはずだ。しかし、腕は良いのか?もう一日待てばもう一粒渡すことも出来るが。」
良かった。月の雫は効果があるんですね。
「私の傷はどうでもいい、こんなもの数日で治るだろう。それよりも、弟を早く治したいんだ!」
凄いです。弟の為に頑張るお姉さん。僕には兄弟がいないので、こう言う気持ちはよくわかりませんが、素晴らしいと思います。
「お前の村までここからどれほどかかるのだ?」
「走って1週間よ。弟は2週間前に呪いにかかった。司祭は弟の命は持って一ヶ月だと言っていたから、早く帰らないと取り返しが付かなくなる!!」
あと2週間もすれば弟さんは死んじゃうって事ですか!?そんな、早く返してあげなくちゃ!
「テトラ、のんびりしてる場合じゃ無さそうだよ!?」
「まぁ待て、ここから走って1週間と言うことは、クルルス村か?」
クルルス村?
「えぇ、その通りよ。」
レイジアさんは頷きますが、ちょっと待ってください。クルルス村って・・・。
「えぇ!?まさか、そんな・・・。」
僕はこれ程になく驚きました。
だって、クルルス村って。
「どうしたのだ?」
そりゃあ驚いたのは僕だけですよね。そりゃそうです。
「そこ、僕の故郷。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます