第15話 一体何だったんでしょう

 剣を地面から引き抜いたは女性は、それを鞘へと戻した。腰に手を当てて、満足そうな笑みを浮かべている。

 

『スライムじゃあ、話にならないわね。』

 

 そして、ダンジョンの更に奥へと向けて歩みを進める。すると、すぐに別の魔物が目の前に立ちふさがった。

 

「今度はゴブリンです!あの人、大丈夫なんでしょうか!?」

 

 さっきのスライムを倒した姿は、何度考えても強さと言うものを感じられませんでした。ゴブリンも弱い魔物だけど、スライムと違って少なからず知恵があります。

 ゴブリンは棍棒みたいな武器を持っていますし、心配で見ているこっちがハラハラしてます。

 

「まぁ、ゴブリンにいきなり殺されるような事は無いだろう。さっきの戦いを見ると、ゴブリンに勝てるのかは微妙だがな。」

 

 テトラも僕の不安を余計に煽ってきます。どうなってしまうんでしょうか!?

 

 テトはいつでも扉を開けるように準備して、モニターを食い入る様に見つめた。

 

『って!!いつの間にゴブリンが!?

 私に気付かれずにここまで近づいてくるなんて、ただのゴブリンじゃないわね!!』

 

 女性は剣を引き抜き身構える。


『ギギギギ・・・・・。』

 

 それを見て、対するゴブリンも臨戦態勢に入った。女性を眉を寄せてゴブリンを見つめているが、その表情は真剣そのものだった。

 

『ギィィィーーーーーー!!』

 

 ゴブリンがガニ股で勢いよく走り始めた。女性は剣を八相に構えて、ゴブリンを迎え撃つ。

 

『でりゃぁあ!!』

 

 彼女はスライムの時と同様に、敵に向かって一直線に突き進んで行く。その距離をお互いが一気に詰め寄り、女性がその剣を振り下ろした。

 背の低いゴブリンよりも、リーチに若干の有利がある。普通に見れば、女性の剣先がゴブリンへと先に届きそうだった。

 

『あわわわわわわ!』


 ドス・・・。

 しかし、剣を振り下ろすと同時に女性は態勢を崩して、前のめりに倒れ込んだ。剣を振り下ろす事に意識を集中し、その両手を握りしめていた彼女は受け身も取れずに地面に激突する。

 

「あちゃー!」

 

 テトは顔を手で押さえて声をあげた。見ているだけなのに、なんだか自分がカッコ悪くて恥ずかしい気持ちになってしまっていた。

 

 何やってるんですか!!さっきに引き続きなんて鈍臭い人なんだ。やっぱりさっき、スライムを倒したのも偶然なんじゃないだろうか?

 

『ギィャァァアアア!!』

 

 直ぐにゴブリンの雄叫びの様な叫び声がダンジョンに木霊した。

 僕はその声にびっくりして、逸らしていた目をもう一度モニターに向けた。

 

 モニターの中で女性はうつ伏せで倒れており、またその先にゴブリンが仰向けで寝転がっている。

 

「何があったの!?」

「見ていなかったのか?転んだ彼女の持っていた剣の柄頭が、ゴブリンの額に直撃したのだ・・・。

 あまりの出来事に驚いて、ゴブリンも回避する事は出来なかった様だな。」

 

 テトラが少しめんどくさそうな声色で教えてくれました。聞いてると馬鹿らしいですが、なんて幸運続きの人なんでしょうか?

 そもそも、何でダンジョンに来たの?

 

『いたたたた。

 あれ?ゴブリン倒れてる・・・・・・?』

 

 膝や顔を庇いながら、女性は起き上がってゴブリンを見つめた。やっぱり偶然的に倒しただけみたいです。

 そりゃそうですよね、流石にあんな戦術は通用するはずありません。


「テトラ、僕は何かわかった気がするよ。

 彼女、無駄に運がいいんじゃない!?」

 

 普通あんな事二回続けて起こったりしません。ダンジョンに挑んだのも運試しとかじゃないんですか?

 

「いや、そうでもない様だぞ?」

 

 モニターをずっと見ていたテトラがそれを否定します。それを聞いて同じくモニターを確認してみました。

 一体何なんでしょう?

  

『ギギギギギ・・・。』

『ギギ・・・。』

 

 画面のあちこちにゴブリンが姿を見せ始めました。その数は10匹近くになりそうです。これは、確かに運は無さそうですね。

 

『な、いきなりなんて数!?

 この私、レイジア・ラス・コリンズの力を恐れて群れを成してきたのね!

 私は、お前たち程度には負けないわよ!!』

 

 聞いてもないのに名乗り始めました!?

 レイジアさんですか、一体何者なんでしょう?テトラに教えてもらわなくても、すでに弱そうな事は十分伝わってますよ!!

 

 それなのに、10匹近くいるゴブリンを相手取るなんて無謀にも程があります!

 あ、でも。なんか後退りしてます。


『残念ね、私も用事を思い出したわ。

 今日のところはここまでにしておいてあげるわ!命拾いしたわね!!』

 

 そう言い残して、レイジアさんはダンジョンから走って出て行ってしまいました。

 

 一体、彼女は何だったんでしょうか?

 

「ねぇ、テトラ・・・。」

「言っておくが、我にもレイジアとやらの事は分からんぞ・・・。」

 

 聞こうとしたの、分かっちゃいました?

 ですよね、僕にもさっぱり分かりません。ただ言えるのは、今日も今のところで死人は出なかったという事。

 取り越し苦労は僕がするだけなんですけど、世の中不思議な人がいるんですね。

 

 彼女は去って行きましたが、またご来場されるんでしょうか?

 

 兎に角、今日の収穫はストーンタートルの素材が入りました。少しずつ、売りに行くタイミングを見つけないといけませんね。

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