第12話 在り来たりですけど

 騎士団の人達は全員帰って行きました。しばらく5階層でウロウロしてましたけど、どうやらストーンタートルの事は諦めた様です。

 僕はそれを見届けて、今はテトラと一緒にストーンタートルを置いた部屋にいます。

 僕一人ではおそらく素材をとることなんて出来ないので、テトラに手伝って貰うんです。


「テトラ、ストーンタートルって何処が素材になるの?」

 

 兎に角大きいですけど、引っ込めていた首や手足を外郭から外へと出しています。

 それに、真っ二つですしね。見るのが気持ち悪いですけど、多少素材を取りやすい様な気がします。

 

「実はストーンタートルにはあまり素材となる箇所がないのだ。手足の爪や、心臓くらいだな。」

 

 げっ!こんなに大きいのにそれだけしか無いんですか!?

 

「そんな、苦労して捕まえたのに・・・。」

 

 落とし穴作っただけですけど。

 

「そもそも殆どが岩だからな。

 身体も大部分が流砂が固まって出来た様なものだ。しかし爪はその中でも固く頑丈で、核となる心臓は膨大な魔力を含んでいる。

 取れる量は少ないが、質はいいものだよ。高く売れるはずだ。」

 

 流砂が固まったもの?

 だって内蔵とか飛び出て・・・!?

 あれ?さっきまで酷い有り様だったところが、砂で埋まってます。

 と言うか、岩と砂しか残ってません。

 

「さっきまでこんな砂無かったのに!」

 

「ストーンタートルの体を巡っていた魔力が、完全に失われたのだろう。今は核となる心臓が魔力の発散を止めたのだ。

 生命としての活動を停止した為、機能を失って元の砂へと戻ったのだ。」

 

「と、言う事は?」

 

「テトは一人でも、十分素材の回収は可能だ。ただ、大きいからな。

 我が運ぶのを手伝ってやろう。」

 

 テトラに言われて先ずは大きな爪を運び出します。

 四角い爪が一つの足に対して3つも付いてます。試しに持ち上げてみましたが・・・。

 お、重たいです。岩の様な見た目に比べると軽いのかも知れませんが、それでも30キロくらいはあると思います・・・。


「もう、無理・・・。」

 

 10メートルほど持ち運ぶと、重たさに耐えかねました。僕って非力です・・・。

 テトラはそんな爪を片手で一つずつ持って運んでいきます。


「何処へ運べばいい?」

「と、とりあえずこっちの倉庫に。」

 

 テトは慌てて倉庫への入り口を作ってテトラを招き入れた。

 普段の食糧倉庫だったが、広さは十分。スペースもかなり余っているので、空いている一角に爪を置いて貰う。

 

「ぼ、僕だって一つくらいは!」

 

 そう気合いを入れて、運ぶ途中だった爪を再び持ち上げた。

 やっぱり重い!!


 しかしテトラに無様な姿を見て見せたく無かったため、テトは休みながらも必死に爪を倉庫へと運んだ。

 テトラはその間に残りの爪を淡々と運び入れる。

 

「我がいるのだから、あまり無理せずとも良いぞ?」

 

 テトラが気を使ってくれますけど、甘えてばっかりもいられません。僕にだって意地はあります。

 

「も、もうちょっと・・・。」

 

 顔を真っ赤に染め上げて、よろよろとテトは進む。やがて爪を運び終えると、その場へぐったりと倒れ込んだ。

 

「見ましたか?ぼ、僕だって、やれば、出来るんですよ。」

 

 かっこ悪い姿を見せたく無かったですけど、これはこれでかっこ悪い気がしてきました。ちょっと、動けないです・・・。

 昨日の夜間飛行に引き続き、情けないですね。

 

「また動けなくなったのか?よく頑張ったのは認めるが、もう少し我を頼ったらどうだ?

 仕方がない。心臓は我がとってきてやろう。」

 

 テトラはそう言って、ストーンタートルの下へと向かった。テトラが見えなくなって、テトは一人決意を固めていた。

 

 筋力も体力も、もっと付けていかないと・・・。

 テトラにばかり、申し訳ないです。

 

 これからのトレーニングに思考を巡らせ、倒れたままの姿勢でテトは拳を握りしめる。

 その後テトラは直ぐに帰ってきた。その右手には人間大程もある大きな緑色の結晶を抱えていた。

 

「それが、ストーンタートルの心臓?」

 

 そのサイズは、どの道今の僕では運べないですよ・・・。

 

「あぁ、元々はただの岩だがな。魔力が凝縮して結晶化している。

 これが、ストーンタートルの心臓だよ。」

 

 岩から出来たとは思えないほど澄んでいて綺麗です。まるで緑色の宝石ですね。

 

「爪も元々は岩なの?」

「そうだが?」

 

 岩、ですか。それにしては大きさに比べて軽かった気がします。

 それに、触った感触は岩というより金属に近い気がしました。

 

「てっきり特殊な金属か何かだと思ったけど、素材としては岩になるの?」

「ほう、もしや触った感触でわかったのか?

 あの爪はメタルクォーツ。お前の言う通り、鉱物がその特性を有したまま魔力によって金属に変化したものだ。

 その為、精錬すれば剣にも鎧にも仕立てることができる。それに、普通の鉄とは比べ物にならん強度を誇っているぞ。」

 

 そんな凄いものだったんですね!?

 鉄なんかでも結構な値段がするのに、一体いくらで売れるんでしょう?

 

「ちなみに、その心臓はどういう用途で使えるの?」

 

「この心臓はこのままでは使えないな。手頃な大きさに切り取って、杖などの魔道具に使用することができる。

 このまま使用するより、20センチ四方くらいに分けた方が売りやすいだろう。」

 

 テトラ物知り過ぎますね、流石は1000年生きてると知識は豊富です。

 でも、せっかく大きいのにちっちゃくするんですね。

 そのまま売るより儲けが出るなら仕方ないですか・・・。

 

 そういえば、テトラって正確には何歳なんでしょう?

 でもこれ、女の子に聞くのは失礼ですよね。知りたいですが、どうすればいいでしょうか・・・


「テトラって・・・。」

 

 続き、なんて聞けばいいんでしょう。

 

「ん?」

 

 少女なテトラは僕の顔を見て首を傾けます。


「テトラって、誕生日はいつですか?」

 

 やっぱり聞けないですよ!!

 

「誕生日か、特に気にしたことはないな。我は1076年生きているが、それ以外にはあまり暦を気にしたことは無いのでな。」

 

 1076歳!?予期せぬ形で聞いちゃいました!!あんまり気にしてないのですか!?

 

「そ、そうなんだ。じゃあさ、僕らが出会った日を誕生日にしたらどうかな?名前をつけた日。」

 

 なんか在り来たりですけど、やっぱり記念日は欲しいですよね。一緒に祝いたいです。

 

「人間はそういう物に拘りがあるのか?まぁ、構わんが。」

 

 魔物は拘りとか無いんですね。

 そういうのも、勉強になります。

 

「それなら、ちょっと日にちが経っちゃったけど、僕から誕生日プレゼントをあげるよ!」


「誕生日プレゼント?」

 

 僕は《クリエイト》のスキルを使って、テトラの持ってきた心臓を小さく丸く切り取った。そして、爪の一部を小さな鎖状に作り変えて、丸い受け皿を作る。

 そこに切り取った丸い結晶をはめ込んで、受け皿を少し折り返す。

 

「はい。有り合わせで作ったから、ちょっと味気ないかもしれないけど、ペンダント。」

 

 作ったペンダントをテトラへと手渡した。有り合わせで、あまり上手く作れなかったかも知れないけど、テトからの心だけは込もった贈り物。

 テトラはそれを受け取ると、目の前にぶら下げてマジマジと眺めた。

 ドラゴンとして生きてきたテトラは、他人から贈り物を貰ったことはなかった。

 その昔人々が彼女を恐れて祀っていた時、捧げ物を貰った程度だ。

 その小さなプレゼントは、彼女の心に大きな衝撃を与えた。

 

「あ、ありがとう。こんな・・・。

 こんなに嬉しい、プレゼントは初めてだよ。

 大切にさせてもらう。」

 

 初めての感情に、テトラは動揺していた。嬉しさから目に浮かんでくる涙も、ドラゴンの誇りにかけて他人に見せる事は無かった。

 精一杯の笑顔をもって、テトの気持ちを受け取った。

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