第20話 間一髪でした
レイジアの振るった剣は、キラードッグの襲いかかってくる軌道を捉えていた。
右下から斜め上に振り上げた剣はしっかりと握りしめられている。
が、キラードッグはそれを紙一重の所で左へと進路を変えて躱した。そのままサイドからステップして方向を切り替えて、その爪をレイジアへ振りかざした。
〓〓〓
危ない!!
僕は目を丸くして、心臓が飛び出しそうな思いで見ていました。
レイジアさんの剣はキラードッグに当たったかに見えたんですが、敵はそれを上回る速度で躱したようです。
レイジアさんはキラードッグの爪で身体を攻撃されて、そのままよろけて倒れこみました。
鎧を着ていたから、まだ酷いダメージは負っていないと思いますけど、不味いです。間違いなくキラードッグの方が強い!
『ぐ、まだまだ!!』
それでも、レイジアさんは諦めていないようです。これは、助けに行かなくちゃ!
でも、どうやって?
僕なんかが一人で出て行っても、加勢なんて出来ません。でも、このまま彼女を見殺しになんて出来ない。
「う・・・・痛い・・・・。」
僕は身体の痛みを堪えて立ち上がりましたが、本当にどうしたらいいのか・・・。
《グルゥゥゥ》
キラードッグも態勢を立て直し、再びレイジアさんに攻撃する姿勢です。対する彼女はまだ座り込んでます。
僕の心配したとおり、彼女が起き上がる前に、キラードッグはその鋭い牙を剥き出しにして彼女へとびかかりました。
噛みつかれる!!
レイジアさんは飛びかかってくるキラードッグを見て、咄嗟に腰につけていた袋を外して身構えました。
袋をキラードッグの口に押し込み、自らが噛みつかれるのを間一髪で防いでます。でも、両手がふさがって次の動作に移ることが出来ないみたいです!
彼女の力では、キラードッグを片手で抑えるなんて無理ですよ!!
『きゃあ!?』
レイジアさんはそのまま後ろに抑え込まれて、仰向けの状態になりながらもなんとかキラードッグの牙を押し止めています。
不味いです!悠長なことは言ってられません!!
なんとかしないと!!
僕はモニターを見るのをやめて、扉を開いて彼女の元へ向かいました。何ができるかなんて分からないですけど、何もしないなんて事は出来ません。
筋肉が固まり、動かす毎に全身が痛いです。僕は本当に弱いですよね。ちょっと重たい物を運んだだけなのに。
頑張って立ち上がりましたが、無様にも足を引き摺ってしか歩けません・・・。
扉を開けて、レイジアさんの後方まできましたけど、なにができる?なにをしたらいい?どうする!?
必死に頭を動かして考える。僕ができる事はクリエイトだけ、なにか作れるのか?何を!?
そうだ!!
「クリエイト!!」
スキルを発動すると、僕の想像通りにダンジョンの壁が高速で形を変えた。
ダンジョンの壁から横に向かって、四角い柱が伸びていく。伸びた柱は真っ直ぐにキラードッグへと向かっていき、その横っ面に襲いかかった。
ブシュッ!!
ボゴォォォ!!!
壁と壁とがぶつかり合う大きな音と共に、物が押しつぶされた嫌な音が小さく響いた。
馬乗りになって襲いかかっていたキラードッグが、壁挟まれて潰れたのだ。攻撃が終わると、壁は元の形に戻っていく。レイジアさんは突然起きた出来事に困惑している様だった。
「な、何が起こったの!?」
理解できない現象を前に、レイジアさんは仰向けのままあたりを見渡しました。そして見上げるように後ろを向いて、僕と目を合わせます。
「よかった。無事でしたね。」
間一髪でした。流石にこれ以上戦ってたら危なかったと思います。それに、クリエイトが思った通りに発動してくれて助かりましたよ。
もしダメだったら、目の前で彼女が殺されてもおかしくありませんでした。
レイジアさんをよく見ると、牙を防いではいたようですが切り傷が彼方此方に見受けられます。恐らく爪によって引き裂かれたのでしょう。
皮の鎧をつけている部分は無事だと思いますが、腕をひどく怪我しているようです。
「き、君は?」
レイジアさんは仰向けの状態から起き上がりながら、此方を見つめてきます。そしてボロボロになった腕を庇いながらヨロヨロと立ち上がりました。
なんて言えばいいんでしょう?偶然通りかかったって言っても、こんな満身の状態じゃあ怪しまれますよね。でも、本当のことを言うとどうなるかわかったもんじゃありません。
いい言葉が見つからないですね。
「大丈夫です。貴方の敵ではないですよ。」
なんとかはぐらかせないでしょうか。
こんな答えは、流石に無理がありますかね?
「そ・・・うか・・・。」
パタッ。
レイジアは緊張の糸が切れて、その場で気を失った。実際彼女はキラードッグに勝てると思っていなかったし、死ぬ覚悟をしてダンジョンに入っていたのだ。
大切なものの為に。
それが叶わぬと、死ぬかもしれぬと思って必死に足掻いていた。偶然でも掴んだ生を認識し、安堵した事によって意識を手放した。
「ちょ、ちょっと!!レイジアさん!?」
テトは慌ててレイジアの元へと駆け寄った。しかし、身体の痛みが大きくその足取りはおぼつかない。
レイジアの息がある事を確認すると、大きな息を吐いて安堵した。
よかった。気を失っただけみたいだ。
この状態なら、安全な管理室に連れて行っても経緯はバレないだろう。とりあえず、彼女の傷を見よう。
僕は地面に扉を開き、レイジアさんを管理室へ連れ帰った。
テトラが帰ってくるまでは、もう暫くかかりそうだ。
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