第25話 今夜は眠れなさそうです

 テトラが割とゆっくり目に飛んでくれたお陰で、身体は大丈夫なんですけど、首が・・・・。

 前を向くとレイジアさんのお尻がそこにあったので、ずっと横を向いていたら寝違えたみたいに固まっちゃいました。

 僕って何かしら身体が固まっちゃう運命なんでしょうか。

 

 テトラは30分程でクルルス村の近くに降り立った。流石に近づきすぎると、住民にバレちゃいますからね。そんな危険は犯しません。

 

「ありがとう、ここまで来れたなら後は歩いて行けるわ。」

 

 レイジアさんはそう言いますが、少し離れたところに降りたのでここから歩いて10分くらいかかります。腕を負傷している彼女がもし魔物に襲われたら大変ですよね。

 

「いえ、村までついて行きますよ。この辺りは少ないとはいえ、夜は魔物が活発になってます。

 もしもの事があったら行けませんからね。テトラ、何かあったらお願いしてもいいかな?」

 

 僕なんて力になりませんから、テトラにお願いするんですけどね。

 

「まぁ、それは構わんが。もし襲われたらダンジョンに落としてしまえばいいのではないか?」

 

 少女なテトラは答えます。確かに、そう出来れば魔物の補充にもなってちょうどいいですね。ただ、そんなにうまく行くでしょうか?

 

「テトが扉を開けば、我が中に押し込んでやろう。」

 

「じゃあそうするよ、よろしくね。」

 

 頼りになります!僕なんかとは大違い。と、言うことで、レイジアさんを村まで送ります。

 

「ありがとう。なら、お言葉に甘えちゃおうかな。ドラゴンさんも、よろしくお願いしむす。」

 

 レイジアさんはぺこりと頭を下げる。ちょっとの時間でしたけど、テトラにも少しは慣れてくれたようで良かったです。

  

「それにしても驚いたわ。テト君がドラゴンと友達だったなんて。ダンジョンでも助けられちゃったし、もしかしてすんごく強いの?」

 

 村に向かっている道中、レイジアさんは思い出したように話し始めました。テトラとは友達ですけど、全く吊り合わないほどの実力差です。

 まさに村人とドラゴンの差。下手したらそれ以上です。

 

「まさか、僕は全然強くないですよ。村で僕に喧嘩して負ける人なんていないくらいです。」

 

 なんてったって僕は、みんなから見て引き篭もりですからね。ザ・インドアです。それは現在進行形ですけど。

 

「そうなの?でも、ダンジョンで助けてくれたのは貴方よね?

 多分、貴方は自分が思ってるよりずっと強いと思うわよ。」

 

 前を歩いていたレイジアさんは、振り返って優しく笑ってくれました。女性の笑顔って素敵ですね。

 でも、僕は弱いです。それは間違い無いと思います。ダンジョンでは夢中でしたけど、あんな事が出来たのはおそらくダンジョンの中だから。

 外では何にも出来ないと思います。

 

「そうだな、テトは弱くは無い。少なくとも、強い心を持っているさ。」

 

 テトラも後ろから肩を叩いてくれますけど、なんか僕が慰められてる雰囲気になってないですか?

 僕が落ち込むような話をしてました?ちょっとよくわかりませんけど、自信持てって言われてる気がします。悪い事じゃないんですけど、複雑な気分ですね。

 

「僕の事はどうでもいいんだよ、それよりレイジアさんの腕は大丈夫なんですか!?」

 

 話題を変えないと、話がだんだんおかしな事になって行きそうだ。

 

「こんなもの、ただのかすり傷よ。今は少し痛むから無茶は出来ないけど、薬草を使えばすぐに良くなるわよ。」

 

 両腕をだらんと下げながら、少し顔を顰める。テトラにしがみついてここまで来ましたけど、かなり無理していたのかもしれません。

 なんだかちょっと悪い事をしましたかね・・・。

 

「しかし、キラードッグの傷をあまり簡単に考えない方が良いぞ?あの魔物もアンデッドの端くれだ。

 攻撃を受けた場所が呪いを帯びる事もある。聖水などでもなんとかなるだろうが、傷も含めて月の雫を使ってやったほうが良いぞ?

 明日にでも届けてやったらどうだ?」

 

 テトラが怖い事を言いだしました。キラードッグってアンデッドだったんですか?それに攻撃をを受けただけで呪いの効果があるなんて、物凄く厄介者じゃないですか。

 改めて、スライムやゴブリンとの格の違いを思い知りますね。


「それなら、明日の夜にでも月の雫を持っていきます。何処か人目につかない場所でで待っていて貰えれば、そこまで持っていきますよ。」

 

 乗り掛かった船ですし、最後まで手を貸しましょう。

 

「そんな、貴重な物をホイホと貰うわけには・・・。」

 

 レイジアさんは少し申し訳なさそうですが、僕からすれば毎日手に入るものですしね。


「気にしないでください。テトラのおかげで、いつでも取れますから。」

  

 レイジアさんは渋りながらも、ありがとうと笑ってくれました。

 そんな話をしていると、懐かしいクルルス村が見えてきました。夜も遅いので、殆どの家の明かりは消えています。

 ここまでくればもう大丈夫でしょう。


「じゃあ、明日は村の南にあるアストルの丘に来てください。あそこなら魔物も出ないでしょうし。」

 

「アストルの丘ね、子供の頃に行って以来だわ。時間は今くらいの時間でいいの?」

 

 アストルの丘は岩場の多いところです。子供の遊び場になっているくらいで、特に何にもありません。

 僕も小さい頃にはよく遊びに行ってました。まぁ大抵一人でしたけどね。夜は人も来ないので、星を眺めてた記憶があります。

 

「じゃあ、今くらいの時間に。」

 

 レイジアさんが帰っていくのを見届けてから、扉を作っておく為にアストルの丘に向かいました。

 

「昔と変わらないなぁ。」

 

 そこにはなんら変わらない岩場に、上を見上げると綺麗な星空が広がっています。村の明かりも届かないので、澄んだ夜空を見ることができます。

 

「いいところだな。」

 

 テトラも並んで、そこから見える景色を眺めています。小高い丘の上、大きめの岩によじ登り寝転んでみました。

 昔からの特等席、これも変わらず残っています。

 

「ここから星を見るのが最高なんだ。」

 

 テトラはヒョイッとジャンプして、僕の隣にやってきました。そしてそのまま寝転んで、同じ様に空を見上げます。

 

「綺麗な星空だ。確かに最高だな。だが、我の住んでいたヴォルガ山脈からの眺めもなかなかのものだったぞ?今度一緒に行ってみるか?」

 

「いいね。行ってみようよ。」

 

 今日も一日色々あったけど、こうしてのんびりと空を見上げていると、なんだか疲れが取れていく気がします。

 テトラが横にいるからですかね?ドラゴンだけど、女の子と並んで空を見上げる日が来るなんて思ってもみませんでした。

 

 指先に、テトラの手が触れました。びっくりしてさっと手を引きましたが、その手をテトラが握りしめます。

 

「暖かいな、テトの手は。」

 

 夜の風が少し冷たく吹いていましたが、僕は顔から火を吹き出しそうです。テトラって、急に恥ずかしげもなくこういう事するんですよね。

 

 おんぶとか、抱っことか。

 突拍子がなさ過ぎてドキドキさせられっぱなしです。隣を見ると、可憐な少女の横顔があります。

 ドラゴンとしてなんて、見れないですよ・・・。

  

 しばらくそのまま固まってしまい、結局ダンジョンに帰ったのはそれから30分以上後のことだった。テトラはいい夜だと言ってたけど、どんな気持ちで言ったんだろう?

 

 ドキドキしすぎて、今夜はなかなか眠れなさそうです。

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