第1章
第2話 ご来場、ありがとうございます
とうとう僕のダンジョンがオープンしました。
とは言っても今日はもう夜。
誰も来ることはないでしょう。
とりあえず、もう眠って明日の来客に備えるとします。
あ、その前に
「ドラゴンさん、お名前ってあるんですか?」
これから毎日のお付き合いになるんですから、名前くらい知っておかなくてはいけませんよね?
「僕はテトって言います。これからよろしくお願いします。」
まず名乗るなら自分からですよね。
ドラゴン相手でも失礼のない様に心がけようと思います。
優しいけど、やっぱり怖いですし。
『人はリュウオウと呼ぶが、我に名は無い。
好きに呼ぶがいい。』
名前が無い!?
長く生きていると言っていたから、さぞ立派な名前があると思ったんですけど。
思い込みは良く無いですね。
リュウオウか、少し呼びづらいかも。
「そうなんですか、名前が無いって不便じゃ無いですか?」
呼び合う名前が無いとは本当に不便だと思うけど、魔物はそうでも無いのかな?
というか、ドラゴンはそもそも魔物なのだろうか?
いくつかの疑問が頭をよぎったけど、あまりいっぺんに聞いても困らせるだろうから、口に出すのはやめておこう。
その内話す機会も来るでしょうし。
『あまりその様なことを思ったことは無いな。
こうやって思念で任意の相手と会話もできるし、じゃれ合う相手もおらなんだ。』
表情ではあまりわからないけど、なんだか少し寂しそうな印象を受けた。
「じゃあ、これからは僕がその相手になれますね。」
少しでもドラゴンには長くダンジョンに付き合ってもらいたい。
その為には仲良くならないといけませんよね。
『うむ、よろしく頼むぞ、テト。』
「はい!では名前ですね。
リュウオウってカッコいいですけど、普段呼ぶには少し呼び辛いです。
テトとドラゴンから捩って、テトラはどうでしょう?」
ちょっと安直過ぎますかね?
『テトラか、気に入った!
今日から我はテトラと名乗ろう。
テトよ、ダンジョンの構想といい名前といい、お前はなかなかにセンスがあるな。』
気に入っていただけたようで何よりです。
ダンジョンの勧誘の時もそうだったけど、即決ですね。
「じゃあ、テトラさん。これからよろしくお願いします。」
『あぁ。
それとお前が付けた名だ、さんなど付けずとも良い。
それに畏る必要もないぞ。』
ドラゴンさん、気前が良すぎです。
安心したら眠くなってきた。
お腹が空くといけないし、もう寝よう。
「わかった。
それじゃ、そろそろ寝るね。
おやすみテトラ。」
僕は厚かましくテトラに寄り添って眠った。
鱗が少し硬いけど、いつもの就寝と違って暖かい。
今夜はぐっすり眠れそうだ。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
翌朝、僕は何時もの様に日が昇る頃には目を覚ました。
自分の作った空間に居るが、天井に窓を作っていたお陰で外の様子がうかがえる。
ちなみに、外からはこの窓を認識できない。
今日はダンジョンをオープンした最初の朝だ。
ワクワクしながら起き上がろうとしたが、いつもと違ってテトラがいるお陰で寝床が暖かい。
もう少しこのままでいようかな。
テトラの肌もなんだか柔らかくて気持ちいいし。
・・・・・・?
テトラって柔らかかったっけ?
疑問に思って顔を向けると、テトラが居たはずの場所に少女が眠っている。
僕はその少女の膝枕ならぬ太ももを枕にして横になっていた。
「あわわわわわ!?」
慌てて頭を離して後ずさる。
何がどうなったらドラゴンが少女にすり替わるんだ!?
『ん?なんだ騒がしい。
おぉテト、もう起きておったのか。』
昨日と変わらずテトラの声が頭に響いてくるけど、肝心のテトラが見当たらない。
少女も起きてしまった。
「て、テトラ!?どこ?
それから、君は誰!?
ど、どうやってここに入ってきたの!?」
パニックになりつつ少女を指差して問いただす。
いつの間に入ってきたんだ?
少女は赤く伸びた綺麗なストレートの髪を垂らしながら、白く長いワンピースをはためかせて立ち上がった。
『あぁ、すまぬ。
最近気を抜くと人の姿に変わってしまうのだ。
ほれ、我だ。テトラだ。』
少女が頭をぽりぽりと掻いていると、同時にテトラの声が響いた。
次の瞬間、少女が白い煙に包まれて大きなドラゴンが現れた。
「そんな、まさか。
さっきの可愛い女の子はテトラなの!?」
『可愛いのかどうかはわからんが、我だ。
1000年以上生きるドラゴンは皆人の姿を取ることが出来るようになるのだ。
しかし、我はまだあの姿がどうも慣れなくてな。
大体起きているときは此方の姿でいるのだ。』
ドラゴンが人の姿になれるなんて知らなかった。
それに、見た目は本当に普通の少女だった。
ドラゴンだと言われても絶対に信じられないだろう。
「そ、そうなんだ・・・。
心臓が飛び出るかと思ったよ。」
『はっはっは。お前は大袈裟な奴だな。
だが、我を可愛いと言ってくれたことは褒め言葉と受け取っておく。
さあ、今日からダンジョンを楽しもうぞ。』
そうだった。
あまりの出来事に頭から離れていたけど、今日から僕のダンジョンが一般公開されております。
沢山のご来場を期待していますが、初日となる今日は誰か来てくれるんでしょうか?
こればっかりはどうなるかわからないですよね。
それにしても、テトラって女の子だったんですね。
見た目だけかもしれないけど、胸も少し膨らんでましたし。
多分間違いないと思います。
女の子だけど、1000歳を超えてるんですよね。
なんか複雑です。
その時、部屋の隅にあったランプが赤く光った。
ここは居住スペース兼管理室。
誰かがダンジョンに入室すると、反応してランプが光る様にしてある。
「誰か入ったみたい。」
『何?』
僕は慌ててランプの下に設置した管制用のモニターへ向かった。
この《クリエイト》の凄いところは自分の作った空間を覗けるところ。
これによりダンジョンの各階層を一度に視認することが出来る。
モニターを除くと、3人の男性が映っていた。
服装からしておそらく冒険者の様だ。
「さっそくのご来場、ありがとうございます。」
モニター越しにお礼を言う。
僕のために、しっかり魔物を倒してください!
テトラに頼みたいのは山々だけど、それではテトラの反感を買うかもしれない。
説明した通りに、当初の目的に沿って運営していこうと思います。
今日はテトラと一緒に、この3人をモニターします。
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