第32話 キャンプ場で食べる。いつもより美味しく感じられる。

「戦況は不利ですね。特にあの火を筒から出す敵が城壁の中に入ると被害は甚大になりますね。ユタカ様、指示を。」


 モレナが俺に話し掛けてくる。俺たちが戦場につくなり、郡都はピンチらしい。


「人命優先で頼む。」


 軍事とかさっぱりの俺はモレナにざっくりとした指示を出すと、自分のできることをする。


「わかりました。このまま密集形態で郡都へと突っ込む。先頭はガンゾールとマンルー。目の前の敵を蹴散らせ!一人たりともユタカ様の方へ通すなよ。後詰めはミレーナ。任せたぞ。ゲコリーナはあのデカ物の排除だ。ユタカ様を郡都へとお届け次第、反転、敵の殲滅にうつる。ミレーナが護衛。ラキトハ殿はユタカ様と一緒に。では、作戦行動開始だ。」


 モレナの掛け声と共に、一人戦車に向かって走り出すゲコリーナ。

 他の隊員達は俺を中心に密集形態をとり、駆け足で郡都へと進み始める。


 周りを囲む隊員の肩越しに、地を這うような姿勢で走り去っていくゲコリーナの姿が見える。

 その独特の走法は種族特有のものなのだろう。

 ただでさえ低い身長と相まって、非常に視認しにくい。

 しかも、十分な食糧で蓄えられた強大な魔素を身体強化に使い、風のように速く敵の隙間を駆け抜ける。


 一瞬煌めく刃の輝き。

 俺の常人の目には何が起きたのかさっぱりだが、ゲコリーナの通り過ぎた後には真っ二つに裂かれた敵の死体が転がる。


 もはやその動きは早すぎて、死体の生産される場所でしかゲコリーナの位置を把握出来なくなる。


 敵の集団があっという間に煌めく刃の輝きの中に消えていく。


 飛び散り始める血肉が煙のように立ち上ぼり、真っ赤な道を作る。


 敵もようやく自らがミンチの危険に晒されていることに気がつき、急いで自分達にもたらされる非業の死の原因をを探し始める。

 しかし、捉えられない。

 ただただ、右往左往する敵兵達は、ミンチとなり、血肉が舞い上がる。


 接敵するものすべてを蹴散らし、ゲコリーナは戦車に肉薄していく。


 ついに戦車をその煌めく舌装剣(ゼッソウケン)の刃の届く範囲に納めると、高く高く飛び上がるゲコリーナ。


 ようやくその姿を捉えた敵兵達は銃を向けるが、高く舞い上がったゲコリーナは太陽の中に隠れ、容易に狙いを定めることは出来ない。


 それでも発射された弾はほとんどが的外れ。時たま直撃コースの物があっても、常人離れしたゲコリーナの舌装剣によって易々と弾かれて行く。


 戦車は砲塔の旋回もままならない。

 なにも出来ない内に、跳躍の頂点に達したゲコリーナが、身体を小さく丸め、垂直落下して襲いかかる。


 ようやく砲塔に設置された機関銃が火を吹くが、高速で繰り出された舌が縦横無尽に振るわれ、その舌装剣ですべての弾はいなされる。


 そして無傷のまま、ストンと戦車の上に降り立つゲコリーナ。


 戦車の外で機関銃を操っていた敵を、舌の一振りで血肉に変えると、舌装剣を腰に戻し、戦車のハッチへと近づく。


 上に乗られていることが戦車の操縦者に伝わったのか、むちゃくちゃに旋回して、ゲコリーナを振り落とそうとする。


 しかし、その時にはすでにゲコリーナの強靭な舌がハッチの取っ手をしっかりと握りしめている。


 蛙特有のしなやかで柔らかい舌で一気に身体をハッチまで引き寄せると、そのまま重魔素をもともと強靭な両足の筋肉に集中させる。


 数倍の太さに膨れ上がる両足の筋肉。平泳ぎのような動きで足がハッチの真上から下に向かって振るわれる。


 とどろく爆音。


 粉塵が舞い上がり、その塵が晴れると、そこにはペチャンコに潰れた戦車と、つまらなそうに佇むゲコリーナの姿があった。


「入口を蹴破ろうとしたら、全部潰れたげこ。脆すぎげこ。」


 ゲコリーナが戦車をスクラップにした頃、俺たちは城壁の穴の所に到着していた。


 途中の敵兵達は周りのハンマー兵達が気持ちいい音を立てながら撥ね飛ばしていた。


 今はちょうどガンゾールが火炎放射器を持つ敵兵に近づいていく。





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