第11話 生クリームとあんこ。どちらもいい。混ぜてもいい。

 朝からおにぎりパーティーで、腹一杯満足した俺は、今、村の周りの荒れ地に来ている。


 どうやらこの荒れ地は、もともと畑だったらしい。

 テリータに聞いたら、麦を作っていたそうだ。しかし、原因不明で麦が育たなくなり、放棄されたと言っていた。


「何でこんなんなったんだろなー」


 俺は荒れ地の土を手に取り、眺めながら独り言を呟く。


「俺は畑仕事とかしたことないし、植物は朝顔ぐらいしか育てたことないからな。見ても、さっぱりわからん。」


 俺はパラパラと土を落としながら呟く。


「村に井戸があるってことは地下水はあるはずだし、少し行けば森もあるしなー。あっ、でも、森でも食べ物ないからリリーヌーが行きだおれたのか。」


 リリーヌーと出会った時のことを思い出しながら、ぶつぶつ言いながら周囲の散策を続ける。


「リリーヌーも、テリータも、シェルツェの母親も、食べてるときはとびきりの笑顔だったよな。」


 風が吹き、乾いた土を巻き上げる。土ぼこりの臭いが荒れ地に満ちる。


「俺の魔法陣で、食べ物いっぱい出してあげるのは簡単だ。」


 俺はテリータが、戦争の話をしていたのを思い出す。


「多分、どこもかしこも飢餓になってて、食べ物の奪い合いで、戦争している感じがする。そんな時に俺が大量に食べ物出してたらって考えちゃうよな。」


 俺は足元の小石を蹴飛ばす。

 俺はもとの世界じゃ誰にも相手にされてこなかった。


 家に引きこもって一人で居るばかりで、必然性、独り言も多かった。


(こっちに来てから、今まで誰かとずっと一緒にいたんだよな。こんなに誰かと居たのって、いつぶりだろう。)


 俺は村の壁の方を振りかえる。


(俺、この村の人たちのこと……)


「このまま、ってのは俺の気持ち的に、なし、だな。」


 俺がまだ、独り言を呟いていると、リリーヌーの声が聞こえてきた。


「ユタカ様ー。どこにいますですー?」


 村の壁を回り込んでリリーヌーが姿をあらわす。


「ユタカ様、見つけたーです。テリータ様が探してたですー。」


「何かあったのか?」


「とにかく来てくださいですー!」


 俺は焦った様子のリリーヌーに急かされ、テリータの家へと急ぐ。


 テリータの家の前に駆けつけると、そこには怪我をしている人の姿が何人もあった。


「テリータ、何があった!?」


 俺は怪我人へと手当てをしている人の中からテリータを見つけると、声をかける。


「ユタカ様!ご無事でよかった。村の外に人を襲う獣が出たようです。ユタカ様も村の外に行かれていたので、何かあったらとリリーヌーに迎えに行かせました!」


 手早く手当てに手を動かしながら答えるテリータ。


「テリータ、怪我の治療には魔法陣は使えるのか?」


「……多分、としか。伝説では魔法で怪我を治しているお話はあります。しかし、その神象文字は失われています。」


「うまくいくかわからんが、やってみても、いいか?」


「……一人、重症のものがいます。このままでは、助からないぐらい。彼女なら。」


 俺は重魔素を回転させながら、テリータの示した重傷者のもとへと急ぐ。


 地面に倒れたままの重傷者のもとには、手当てをするものはおらず、家族とおぼしき子供が二人、取りすがって泣いている。


 恐る恐る、怪我をしている女性の様子をみる。


 彼女の腹に大きな穴が空いている。すでに意識はなさそうだ。

 出血が続いている。


「治療する!どいてくれ。」


 俺は子供たちに声をかける。


 泣きじゃくりながらも、一人の子供は離れる。姉なのだろう、離れた方の子供が、弟とおぼしき、まだ取りすがっているもう一人の子供を抱き抱えるようにして、怪我人から離してくれる。


 俺は右手の指で、怪我人の腹の怪我の上の部分に、急ぎ『治』と書く。

 円を閉じ、魔法陣を完成させる。


(これで、うまくいってくれ!)


 そんな俺の願いも虚しく、『治』と書かれた軽魔素の文字は崩れて消えてしまう。


 俺の様子を見守る怪我人の子供とおぼしき姉弟から、声にならない慟哭を感じる。


 俺は焦りながらも、次に軽魔素で『癒』と書き、魔法陣を閉じる。


 息をつめ、見守る。


『癒』の字はピカッと光る。


 俺は勢いこんで怪我の状態をみる。


 出血が僅かに減っている。しかし、腹には相変わらず大きく穴が空いたまま。


(どうして、どうして、うまくいかない?魔法なんだろ!もっと一瞬で治ってもいいだろ!)


 俺は焦りながら考える。

 背中に子供たちのすすり泣く声が響く。


(ふーふー。落ち着け落ち着け。『治』は発動しなかった。『癒』は発動したが効果が低い。多分、こっちはRPGで言えば初級の回復魔法みたいな感じだと思う。中級以上の魔法は、やっぱり複数の文字を使う気がするが、俺が今やると書いたものが壊れる。だから彼女には使えない。何か、何かいい文字ないか。)


 俺はとりあえずの時間稼ぎに『癒』の文字を描き魔法陣を閉じ続ける。


 ピカッ、ピカッと光り続ける怪我人の腹。

 俺の魔法陣が発動する度に僅かながら回復はしているようだが、腹の大穴から流れ出す血が完全に止まることはなく、怪我の穴が塞がることもない。


 怪我人の状態は、一進一退の状態となっていた。





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