第22話 パンがなければ……。
巡礼教団が去って数日後、隣村からの訪問者があった。
テリータと知り合いらしいその使者は隣村の村長の娘らしい。
テリータの家でだらだらとポテチを食べていた俺は、シルシーに呼ばれ、テリータとその使者の話し合いの場へと移動した。
俺が、二人が話し合っているというテリータの私室につくと、見知らぬガリガリに痩せた少女がムシャムシャとおにぎりにかぶりついているところだった。
邪魔をしたら悪いなと思い、俺は無言でテリータの隣に座る。
(おにぎり、うまそうだな……。俺の分はないのかな)
ちらっとついてきていたシルシーの方を向くと、ふいっと目を逸らされる。
俺はこっそりとため息をついて、目の前で消えていくおにぎりに視線を戻す。
俺もだいぶこの世界に馴染んだのか、少女に見える目の前の使者が、多分成人しているんだろうな、ぐらいのことはわかるようになってきた。
(きっと二十代くらいか。ここら辺じゃ珍しくない茶色の髪だけど、短髪にしているのは珍しいかも?)
目をらんらんと輝かせておにぎりに貪りつく姿はかなり野性味のある様子だ。
(ああ、最後のおにぎり……)
おにぎりをすべて食べ終わったのか、使者がようやく俺の存在に気づいたようで、居住まいを正して挨拶をしてくる。
「はじめまして!僕はモレナって言います。コレー村の隣のシュナ村の村長の娘です。偉大な魔導士様にお願いがあって来ました!」
(僕っ子か。しかも、お願いする相手の目の前でおにぎり食べていたのはスルーする方向ですか。面白い。)
「俺はデブイユタカ。ユタカでいい。」
「ユタカ様!どうかどうか、僕のシュナ村に、食糧を分けて下さい!もう、村人達は餓死寸前。このままでは体力のない小さな子供から順に死を待つばかりの状況で……」
「いいよ。」
「!」
俺のあっさりとした承諾に、モレナは絶句している。
しかし、すぐにその顔は喜色に染まり、そのまま何故か泣き出してしまう。
俺は突然の涙に動揺して隣のテリータに視線を送る。
テリータが話し出す。
「あー、ごほんっごほん。モレナ、もちろん、ただではない。それはわかるな。」
涙を流していたモレナもテリータの言葉に涙を拭い、顔を引き締める。
「もちろんです。ただ、シュナ村にはこれといった特産品もなく、金子もろくにありません。」
うつむくモレナ。
「それぐらいわかっているさ。なにせ隣同士の村だ。事情はさほど変わらない。」
「では、何かあるのですね!何でもやります!教えてください。」
そこで再び俺の方を向くモレナ。
「あー。代価に、シュナ村の手練れの者を何人か雇いたい。」
俺は前々から考えていたことを口にする。
(戦争とかある世界、自営する力は絶対に必要だ。それに食糧も農業、牧畜が目処が立たない現時点で、狩りをするしかない。そして、俺の魔法陣は食べ物を出して皆を強化するのがベストだと思うんだよね。強い人間が増えるのが効率的な気がする。)
「何人ぐらいをお望みですか?」
「シュナ村で無理のない範囲でいい。ただ、人数と働きによって渡す食糧は増やそう。」
俺は答える。
しばしうつむき、考えていたモレナは、決意したように面を上げると、口を開く。
「では、僕を雇って下さい。シュナ村では一番の剣の使い手です。そこらの人間の三人分、いや五人分の働きをします。」
「ほー。」
俺は隣のテリータにきく。
「彼女、強いの?」
「ええ、確かにシュナ村では一番かと。」
「わかった。よし、採用!」
「ありがとうございます!」
テリータがそこで話に入ってくる。
「では実際の細かい契約の相談をしましょうか。」
こちらをちらりとみるテリータ。
「あー。じゃあ俺はちょっと何か食べるかな。」
俺はそういうと後はテリータに任せて部屋から出ていく。
こうして、俺が異世界に来てはじめての部下が出来た。
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