第5話 2つの魔素を操作してみた!ドーナツとコーヒーって互いを引き立てる。苦味と甘味の積層構造が無限の螺旋へと昇華していく感。

「やった!光った!」


 俺は歓声を上げる。


「おおお、何と濃厚な光。神々しいまで深みと、見たこともないほどの濃さを持った光……。」


 テリータも驚愕に目を見開き、感嘆を漏らす。


 俺が気を抜くと、右手の光が消えてしまう。


「あっ、消えたー。失敗失敗。」


 テリータが口を開く。


「さすがのご立派な体躯だけあって素晴らしい魔力量ですね、ユタカ様。そこまで濃い光は、これまでの人生で初めて拝見しました。」


 俺は疑問に思っていたことを聞いてみる。


「テリータ、そういえばリリーヌーも言っていたけど、何で体の大きさが魔力と関係あるんだ?」


「おお、その説明はしてませなんだな。魔力は体の中でも、特に肉に宿ると言われております。特に重魔素が肉と親和性が高いと言われておりまして、ユタカ様のように体躯の大きく、大量の肉を保持された体をお持ちの方は大量の魔力を体内に宿し、また重魔素の操作に優れているそうです。」


 いったん白湯で喉を潤し、再び話始めるテリータ。


「ですので、偉大な魔導師様達は皆さまご立派なお体をお持ちなのです。ユタカ様は噂に聞くそういった魔導師様がたよりもさらにご立派な体躯をされているので、我らもユタカ様をてっきり高名な魔導師様かと。実際、魔力は素晴らしい量をお持ちのようですね。」


「な、なるほどね。このお腹も役に立つことがあったのか……」


「ええ、ええ。大変素晴らしいことですよ。その魔力の多さが光の濃さに表れていますね。魔力量が多いほど、軽魔素の量も多いので、この分、集めたときの光が濃くなるのです。」


 俺は自身の腹を片手で撫でながらテリータの話を聞く。

 テリータの話に、これまで良いことがなかった自身の体についての称賛と賛美が溢れていることに、釈然としないものをどこかしら感じながら。


 しかしそんな俺の気持ちは、魔力を操る楽しさに勝る訳もなく。



「さっきは途中で消えたからまたやってみる。」


 俺はテリータにそう伝え、再び目をつむり、集中する。


(まずはお腹のお肉の違和感に意識を集中して……。これだな。次に、これを振るように動かす。)


 そこで俺はふと閃く。


(うん、待てよ。これって要は軽いものを分離するんだろ。だったら回転させた方がいいんじゃないか?)


 俺は、魔力を遠心分離器にかけるイメージの方が効率的じゃないかと思い付く。


(さっそくやってみるか。ほーら、まわれまわれー)


 俺の腹の肉の中で魔力が回転を始める。


 回転を始めた魔力はどんどん加速され、速度が上がっていく。


(おお、振るより違和感少ないぞ。場所が動かないからだな。快適快適。)


 高速で回転を続ける俺の魔力。

 速度が上がるにつれ、魔力が腹の中で球体に収束していく感覚がある。


 その回りにはすごい勢いで軽魔素が分離していく。

 先ほど振っていたときとは比べ物にならない速度で溢れるように軽魔素が分離していく。


 あまりの勢いに心配になった俺はそっと薄目を開けて見る。

 特に集めようと意識をしていないのに、両手両足の四肢がすでにうっすらと光っている。


「うわっ、光ってる」


 思わず漏れる俺の驚き。


 テリータも、唖然としているのか、口を大きく開けて、驚嘆の表情で俺の様子を見ている。


(このまま軽魔素、集めてみちゃう?)


 俺はテリータの様子を尻目に、魔力の回転を維持したまま、軽魔素を右手に集めるようにさらにイメージする。


 重魔素に比べると、イメージに対する軽魔素の動きのレスポンスは悪い。しかし、それでも全身の四肢に滞留していた軽魔素が一気に右手に流れ込んでいく。


 先ほどとは比べ物にならないほどの輝きを見せる右手。


 あまりの光量に俺は目をすがめながら右手を見る。


 右手全体が太陽かと言うぐらい、眩しい。


 テリータはあまりの眩しさにか、己の両手で顔を覆い、しかし、涙を流しながら俺の右手を指の隙間から見つめ、何か呟いている。


「これほどの光!神話の時代の再来と言ってもおかしくはない……。創生の神話で、神々が己の手を太陽のごとき光で満たし、あらゆるものを産み出したと言われているが。ユタカ様はまさか創生の神達のように……」


 俺は、ふとした思い付きで魔力を回転させて遠心分離させ、想像以上にうまくいったことで浮かれていた。

 テリータの呟きが小声だったこともあり、何かゴニョゴニョ言っているなーとは思いつつも、大して気にもせずに、自分の魔力に夢中だった。

 俺はそんな浮かれた気分のまま、テリータに問いかける。


「テリータ、それでこのあとはどうするんだ?」


 テリータも我に返った様子で涙を拭う。


「ユ、ユタカ様、出来れば軽魔素の光を抑えていただけませんか?このまま魔方陣を書くのは威力が強すぎて危険です!」


「え、危険?!わかった。ちょっと待ってくれ。」


 俺は光よおさまれーと念じる。


 ……右手は相変わらず煌々と激しく光輝いている。


(あれ、収まらないぞ。うまく軽魔素が言うことをきかない……。どうしたらいいんだ?えーと、テリータの話を今一度思い出してみるか。確か重魔素が肉と親和性が高くて、操作しやすいって事だったよな。げんに、今重魔素を高速回転させて軽魔素を分離させている状態な訳で。てことは、重魔素の回転を抑えて軽魔素を再び重魔素と混ぜ合わせて行けばいいのかな?まあ、試しにやってみますかー)


 俺はお腹の肉の中心で高速回転させている重魔素に意識を集中する。


(速度を変えて見るか)


 俺が意識をすると、重魔素の回転が緩んでいく。

 すぐに周囲に分離していた軽魔素がお腹の方に寄ってきて、回転の緩んだ重魔素と結び付いていくのが感じられる。


 俺は試しに再び重魔素の回転を上げる。


 今度は軽魔素が分離していく。


 それに合わせ、右手の光も弱くなり、強くなる。


(おおっ!上手く操れてるんじゃね?すごくない?)


 俺は思い通りに光量変える右手に嬉しくなり、しばらく重魔素の回転速度を変えて遊んでしまう。


 しばらくして、じっと待っているテリータに気づく。


 遊びに夢中になっていて、テリータを待たせていたことが、急に気まずくなり、急いで重魔素の回転を抑えると、右手の人差し指だけが光るようにしてテリータに話しかける。


「あー。ゴホンッ。こんな感じかな?」


 テリータはじっと俺の手を見たあとに言う。


「ちょっと外に出ましょう。」


 そういうと立ち上がり、テリータは部屋の外に向かう。

 俺も重魔素の回転を止め、光を消すと慌てて追いかける。


 部屋の外で待っていたテリータに先導され、俺たちは外に向かった。


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