第4話 魔力をモニョモニョしてみた!モニョモニョ系代表のマシュマロは無限の可能性に満ちている、と思う。

 俺が外で一人変な声を出していると、リリーヌーが出てきた。用意が出来たからと建物の中へと案内される。


 入り口に入ってすぐは土間のようになっており、その奥でリリーヌーが足に巻いていた布を外している。


(あれ、リリーヌー、あんなん履いていたんだ?靴がわりっぽいな。ふむふむ。室内は、土足のままじゃないんだ。)


 俺は空気を読んで、何か言われる前に同じところで靴を脱ぐ。


 その横にはやっぱりガリガリに痩せた、リリーヌーとは別の子供が桶を持って立っている。


 何だろうと思って見ていると、リリーヌーがその子供から桶を受け取り、中の水で足を拭っている。


(ああ、靴がわりの布だと足も汚れるよな。)


 俺は自分の足を示して汚れてないことを見せると、桶を断る。


 何故か桶を持った子とリリーヌーの二人して俺の足を驚いたように見ている。


(このガリガリの子供も成人してたりするんだろうか……。なんだか痛ましくなってきた。)


 俺はそんなことを考えながら、リリーヌーが足を拭い終わるのを待って、奥に案内されて行く。


 すぐに居間のような場所に案内される。


 扉はなく、カーテンのような布で仕切られた入り口を、リリーヌーが捲ってくれたので、かがんで中に入る。


 中には一人の小柄な中年の女性が敷物に座って腕を胸の前で交差させ、こちらを見ている。


「はじめまして、魔導師ユタカ様。わたしは村長代行のテリータと言います。」


「えっ、あ、はい。はじめまして……」


「この度はリリーヌーを助けて頂き、誠にありがとうございます。見ての通り、この村も他の地域同様困窮の憂き目にあっており、十分なお礼が出来ませんこと、誠に申し訳なく……」


「い、いえいえ!まず、俺は魔導師ではないんですよ!遠くから来たもので、魔法も使ったことなくて。それでリリーヌーがテリータさんなら使い方教えて繰れるって言われたのでついてきたんだ」


「なんと、そのような立派なお姿をされていながら本当に魔導師様でないとは。てっきりリリーヌーの勘違いかなにかかと。もちろんわたくしで教えられることなら何なりと聞いて下さい。」


 その時、先ほどの桶を持っていた子供がそっと部屋に入ってくる。

 手にはお盆らしき板。

 湯気の立つコップをテリータと俺の横にそっと置いて出ていく。


「ああ、ユタカ殿、白湯ですがどうぞ。」


「あ、はい。ではありがたく」


 そっと口をつける。

(ほんとにお湯だ。相当食料事情ヤバいんだな)


 一息つき、さっそく俺はテリータに問いかける


「実はお腹の辺りに違和感を感じてまして。しかも動けと念じると何かがお腹の辺りを動く気がしたんですよ。これって魔法と関係あります?」


 テリータもコップを置くと答える。


「はい、それは魔力ですね。」


(おおっ!やっぱり!)


 俺は一気にテンションが上がる。


「で、では、リリーヌーが指を光らせていたんですが、あれはどうゆうふうにするとできます?」


「はい、体内にある魔力は、複数の魔素が混ざっていると言われています。大きく分けて重魔素と軽魔素の2つが大部分を占めていて、指を光らせて、地面に魔方陣を書くのは軽魔素を使います。体内で重魔素と軽魔素に魔力を分離し、体の中心に重魔素を集めることで末端たる指先に軽魔素が集めやすくなり光るのです。ユタカ様は立派なお体をお持ちなので、特に重魔素の量は大量にお持ちかと思います。」


「重魔素!軽魔素!な、なるほど。2つを分離するにはどうするのですか?」


「やり方は人それぞれのようですね。体内で魔力を振ったり、何もしなくても魔力溜まりの外側が軽魔素が多いので、それを濃し取ったりするイメージだったり。わたしは魔力を振って軽魔素だけが飛び出すイメージで、魔力を操作して軽魔素を取り出しています。村の子供たちもわたしが魔法を教えているので、この村では同じやり方をしている人が多いです。」


 そう言いながらテリータは指を左右に振る。


「さっそく試してみてもいいですか」


「ええ、どうぞ」


 俺は目をつむり、先ほど感じたお腹の違和感を動かすイメージを思い出す。


(どれどれ、うん、動く動く。何かモニョリモニョリとしてくすぐったいのと気持ち悪いのの間くらいだが、動くぞ。)


 俺は問題なく魔力が動くのを感じると、さっそく左右に振るイメージで動かしてみる。


 お腹の肉のなかを左右に揺れる魔力。腹の肉は動いてないのに、中でまるで脂肪だけが振動しているような不思議な感触に何とも言えない微妙な気持ちになる。


「う、うぐぅ」


 思わず声が漏れてしまう。


 腹の中で魔力が動けば動くほど、何か粘っこいものが暴れているような不思議な感触である。


 そのうち、粘っこいものとは別の、さらさらとしたものが腹の中で魔力から染み出しているような感覚が出てくる。


(この、さらさらとしたものが軽魔素か?しかし、きついな。疲れるとかではないけど、微妙な感覚が気持ち悪い。)


 俺は目を開け、テリータに伝える。


「なんか、さらさらとしたものが出てきました。これが軽魔素ですか?」


「素晴らしい。この一瞬で魔力の分離が出来たのですね。はい、それが軽魔素だと思いますよ。指先に集められますか?」


「やってみます。」


 俺は再び目を閉じる。腹の中で魔力を振るのを止め、さらさらとした軽魔素を右手に集めるようにイメージする。


 思うように動かない軽魔素。軽魔素と重魔素と触れる部分が再び混ざり始めているのが感覚的にわかる。そのせいか、重魔素に引かれて軽魔素が末端の方まで来てくれない。


(うーん、右手に軽魔素が集まりにくい。確かテリータは体の中心に重魔素を集めることでって言ってたよな。やってみるか)


 俺はまず、ねばねばが増したような感じの魔力、重魔素を腹の中で真ん中にまとめるように意識する。

 重魔素は俺の意識に素直に従うようで、すぐに腹の中心にあつまり、さらに濃縮されて行く感覚がする。


(よしよし、ねばねばが増した気がするがひとまずは順調順調。)


 次に俺は軽魔素を再び右手に集めるようにイメージする。

 重魔素を腹の中心に集めたことで、軽魔素と接する部分が減ったせいか、軽魔素が重魔素に引っ張られる感覚が減っている。

 それでも重魔素に比べて操りにくい軽魔素を何とか右手に集める。


(これでどうだ!)


 俺がそっと目を開けると、自分の右手が煌々と輝いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る