第42話 珍味よりもB級グルメがいい。何よりも量。

 俺と黒水隊の皆は、王都を見下ろす丘の上まで来ている。


 眼下には雄大な都市が広がっている。

 しかし、ここからでも、その破壊の跡が伺える。丘に吹き付ける風には煙の臭いが混じり、戦場の生々しさを伝える。風は、そのまま、俺たちの間を吹き抜けて行く。


 ラキトハ姉妹は隠し寺院に食糧とともに置いてきた。ラキトハ姉の傷は完璧に治っているが、心の方はだいぶ消耗していたようで、妹が付き添っている。



「ここまで接近しても、都市に動き一つないですね。敵の姿も見えません。」


 モレナが話しかけてくる。


「理由はわからないけど、もともと正面突破するしかないんだし、良いんじゃない?行けば誰か出てくるだろ」


 俺はお気楽に答える。


「そうでげこ。罠ならぶち破ればいいげこ。」


 後ろからゲコリーナの声がする。

 ガヤガヤと同意する黒水隊の面々。


 俺たちはそのまま、丘を下り王都に進軍する。

 王都の門が開いたままになっている。そのままくぐり抜ける。


「ひとっこひとりいないな。住民は皆殺しにされたにしても、遺体もない。」


 俺はキョロキョロしながら呟く。


 かつては賑わいを見せていたであろう大通りも閑散とし、石畳は所々割れ、家屋も倒壊しているものが多い。


 足を取られないように、割れた石畳を進んでいく。


 曲がり角を曲がった先に、大きな瓦礫の山ができている。


 瓦礫の山の手前に、真っ暗なコートを目深に被った小柄な人影が瓦礫の一つに座って足をぶらぶらさせている。


 近づいてみると、幼い少女のようだ。

 俺は声をかける。


「お嬢さん、こんなところでどうしたの? お母さんとお父さんは?」


「ユタカ様!」


 モレナが俺の服を引っ張ってくる。


「えっ?」


「あれは敵です!」


 黒いコートをひるがえし、少女はびょんと瓦礫から飛び降りると、声も高らかに話し始める。


「我は帝国軍皇太子親衛隊四天王が一人、万機のターナー。そなたが郡都スクトリアで我が軍を破ったという魔導師ですわね! 待ち構えていたかいがあったわ。ここでその首、もらい受ける!」


「あいつは、帝国軍の虐殺幼女! ユタカ様、ゲコリーナ達と先に。ここは僕と一般隊員達で抑えます!」


 モレナがそういうと、ハンマーを取り出し構える。

 一気に走りだし、ターナーに急接近するモレナ。

 突撃する勢いのまま、横凪ぎにハンマーをターナーに叩きつける。


 高らかな衝撃音。


 踏み込んだ足が石畳を踏み割り、豪速で振られたハンマーが砂塵を巻き起こす。


(やったか!?)


 俺がそう思ったのがフラグだったのか。


 砂塵が晴れる。


 ターナーの腰かけていた瓦礫から伸びる機械の腕が、モレナのハンマーを受け止めていた。 

 ハンマーの巻き起こした旋風でターナーのコートのフードが捲れている。

 ターナーの少女としても華奢で小さな体に到底不釣り合いなほど巨大で禍々しい機械仕掛けの何かが、少女の頭に絡み付くように接続されている。

 機械の一部は明らかにその頭蓋骨の中にまで到達している様子だ。


 ターナーが手に持つ指揮棒のような機械仕掛けのタクトを振るう。

 その動きに合わせ、モレナのハンマーを掴んだまま、背後の瓦礫がガシンガシンと音をたて、変形を始める。


 瓦礫は、人の形を模したしかし歪な機械人形へと姿を変える。


「お前達の骨が折れ、肉の潰れる音で、セレナーデを奏でてあげますわ。」


 ターナーがタクトを振り上げる。


 その動きに合わせ、ターナーの背後に積み重なっていた瓦礫が、次々に歪な機械人形へと変形を始める。


「さあ、死神を恋人にして差し上げますわ!」


 ターナーがタクトを振り下ろし、変形を遂げたおぞましい姿の機械人形達が一斉に襲いかかってきた。


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