第43話 わんこそばの様式美。にゃんこそばのこれなの感。
ハンマーを構えた黒水隊の一般隊員達が、迫りくる機械人形に次々にハンマーを振るう。
俺の大量の食糧で極限まで強化された隊員達の渾身の一振りを機械人形達は後退りしながらもしっかりと受け止めている。
「ユタカ様、早く!」
一回り大きなターナーの腰かけていた機械人形と激しく打ち合いをしているモレナが、叫ぶ。
俺は後ろ髪引かれる思いで、しかしミレーナに強く腕を引かれ、路地に向かって走り出す。
俺のすぐ後ろを追いかけていた、俺がこっそり同士と呼んでいた黒水隊の一般隊員の少女。俺たちが路地に走り込むと、路地の入口でくるりと身を翻し、何も言わずに俺たちを追いかけてきた機械人形達を迎え撃つ。
「同士よ……、モレナ、皆も。死ぬなよっ!」
俺はその後ろ姿に向かって思わず叫んでしまう。
「……同士って誰げこ?」
すかさず入るゲコリーナのツッコミ。
ミレーナが無言のままその肩に手を置き、首を振り告げる。
「時間勝負。急ぐ。」
路地を駆け抜ける俺たち。
先頭のガンゾールが叫ぶ。
「行き止まりだ! 飛び越えるぞ。マンルー!」
「へいへい。」
走る速度をあげ、先行するガンゾールが、壁の前でくるりと振り返り、左右の手を組んで腰を落とす。
すぐ後ろを走っていたマンルーが、ガンゾールの組んだ手を踏み込む。
体を伸ばし、腕を振り上げるガンゾール。
マンルーが高く高く跳ね上がる。
背中の羽を広げ、空中に停滞すると、マンルーが叫ぶ。
「十時の方向、赤い屋根の上にゲコリーナを飛ばしやがれ!」
そのままゆっくりと自身は赤い屋根を越え、指定した方向の別の路地に降下していくマンルー。
マンルーの指示を聞き、僅かに体の向きを変えたガンゾールに向かい、ゲコリーナが走り寄る。
同じように高く飛ばされるゲコリーナ。
僅かに指定された赤い屋根から逸れ、そのまま落ちそうになる。
ゲコリーナは落ち着いた様子で空中でその舌を伸ばす。屋根にその舌先をペタりと張り付け、自らの体を屋根に引き寄せる。
「5度戻すげこー」
次に俺の前を走っていたミレーナは、そのまま自身の足に重魔素で筋肉を増強すると、足元の石畳を割る勢いで踏み込み、高く跳ねる。
高さが足りないっかと思ったその時、するするっと伸びたゲコリーナの舌がミレーナを捉え、屋根まで引き寄せ、屋根の向こうの路地へと放る。
再度、両足を魔素で強化したミレーナは、派手に音を立て、路地に着地した。
「ユタカ様も早く!」
「むりむりむりー」
思わず叫びながらも、やけくそでガンゾールの組んだ手を目指し駆け寄ると、足をかけて飛び上がる。
ガンゾールが魔素で筋肉を強化し、一瞬二倍近くまで膨らむ両手足。
「うぉぁーーーー。」
ガンゾールの渾身の雄叫びと共に、俺の、やや他人よりすこーし大きめの体が、天高く舞う。
耳元を駆け抜ける風。勢いよく流れる風景。
一気に加わった加速度のせいで激しく揺れる俺の腹。
その後の、ふわりとした浮遊感。
「おちるっーー!」
俺の頭が落下でいっぱいになっているところに、ねちゃっとしたものが、俺の顔面に張り付く。
急激に横方向にかかる加速度。首から持っていかれる。
「もがががが……」
(しぬ、しぬしぬしぬ……)
息の出来ない苦しさと、首が折れそうな横の加速に意識を持っていかれそうになっていると、てゅぽんと音を立てて、俺の顔面を覆っていたものが外れる。
目の前には路地の石畳。
正に、顔面から激突コースの俺の足を、まだ空中にいたマンルーが掴み、くるくると俺の体ごと回り始める。そのまま落下のエネルギーを回転エネルギーに変え、下で待ち構えているミレーナに向け、ぽいっと放る。
無事、ミレーナにお姫様抱っこされる顔面べたべたの俺。
ガンゾールやゲコリーナもすぐさま合流してくる。
無言のミレーナから、俺も無言のまま下ろされ、心持ちよたよたしながらも、路地を走りだそうとした時、急にミレーナに突き飛ばされる。
「うわっ。いてて……。お姫様抱っこが嫌だったんなら口で言ってくれー」
転んだ俺が、思わずそんな事をミレーナに言いながら振り向くと、ちょうど俺がいた場所目掛けて、壁から無数のトゲが突きだしていた。
「敵。任せて。」
ミレーナが細剣でトゲに斬りかかる。
あっという間に細切れにされるトゲ。地面に落ちたそれは、さらさらと砂のようになると、蠢いて一所に集まり始める。
砂が徐々に盛り上がり、やがて人の姿を取り始める。
その姿はついに非常に細身の女性の姿となり、口を開き、名乗りをあげる。
「帝国軍皇太子親衛隊四天王、微小機のモルドレッド。ターナーもたまにはまともな情報を寄越す。あなた、遊んであげる。」
モルドレッドがミレーナを見下ろしながら指差す。
「ミレーナ。参る!」
ミレーナが細剣を構え、モルドレッドに向かい突撃する。
「ユタカ様、行くげこ。」
その様子を、こけたまま眺めていた俺の背中に、しゅるしゅると伸びてきたゲコリーナの舌が張り付く。強引に引っ張られ、俺は路地の奥へと運ばれていった。
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