第35話 カレー、カレー、カレー。それは幸せの反復。
カレーはさすがの実力を発揮している。
作るそばからあっという間に無くなる人気ぶり。
作ってくれている方々も交代しながら食べているようだ。
(隠し味で、砕いた黒飴入れたからマイルドになったわ。食べやすい。だが、俺は辛口派。自分用に辛口のも作って貰わねば。)
そんなことを考え、俺も片手間にカレー粉を魔法陣で出しつつ、しかし、スプーンを口に運ぶ手は止まらない。
誰よりも食べていると自負。
「昔の偉い人は言った、カレーは飲み物。」
俺のそんな呟き。
「至言」
ミレーナがボソッと答える。
(雑談に答えたよ、この子!?)
俺は驚きを顔に出さないように、カレーと共に飲み込む。
よく見ればミレーナの前に盛られたカレーも俺に負けない速度で消滅している。
(くっ、こんなところに伏兵がいたとは。うかつだった!)
俺はスプーンを握る手に力を込め、食べる速度を上げかけるが、危うい所で押し止める。
(待て待て、待つんだユタカ。今一番大切なことはなんだ。早食いや大食いの動画を撮ってるんじゃない。ましてやカレー愛を誇示する事で満たされる自尊心のために早食いして、カレー様を味あわないなんて、冒涜だ。)
俺は一つ、ぽんっと腹を叩き目をつぶって気持ちを切り替える。
(俺がいて、カレー様がいる。他はすべて些事。カレー様に真摯に向き合い、心から味わい尽くす。俺がすべきはそれだけ。)
俺は心を新たにし、目を開く。
ちょうどミレーナがおかわりしている。
「あっ、俺もおかわり! 特特盛りで!」
さっきまでの自省はどこかにぶっ飛び、結局、爆速で食べ、おかわりを頼んでいた。
そんなこんなで、俺の作るカレー粉はどんどん町の各所に運ばれ、カレーが量産されていく。
まさにカレーテロ。町中がカレー臭くなった頃、郡都のお偉いさんから使いの人が来る。
使いの人もどこかでカレーを食べたらしい。口の周りにカレーをつけながら、郡都の城への召喚の要請を伝えてくる。
畏まった様子が、口許のカレーで台無しだ。
俺は食べ足りなかったが、仕方ないので行くことにする。
「とりあえず、ミレーナは道連れ決定。」
思わず漏れる本音。
無言のまま、ミレーナがじとっとした目を向けてくるが素早く視線をそらす。
すぐにモレナとラキトハも来て、四人で郡都の城へ向かうことにする。
道すがらそこかしこでカレーの炊き出しがされ、皆が幸せそうにしている姿が目にはいる。
(お、あれは鶏肉のカレーだ!後で俺のカレーと交換お願いしてみよ。)
俺が提供しているものに肉がないので、場所場所で様々なアレンジが急速に広がっているようだ。
俺はうんうんと頷きながら、おにぎりを取り出して、歩きながら食べ始める。
モレナが聞いてくる。
「塩むすびですか?」
俺は一口食べて、断面を見せながら得意気に答える。
「カレーの具がインしているのさ。」
カレーのフレーズに反応したミレーナが首をぐりんと音がしそうな勢いでこちらを見てくる。
俺は無言で持っていたもう一つをミレーナにあげる。
無言で受けとるミレーナ。そのまま食べ始める。
確かに俺はこの瞬間、ミレーナと何かを共有した気がした。
「そう、強いて言うならそれはカレーなる絆。」
俺がそんなことを呟いているのを、首をフリフリモレナが肩を竦める。
何故かラキトハもじっとこっちを見ているので、もう一つ隠し持っていたカレーの具にぎりをラキトハにも差し出す。
「いくつあるの……」
そんなモレナの呟きが聞こえた気がするが、構わずにラキトハに差し出す。
「妾は結構。」
言葉少なに断るラキトハ。
しかし、目はカレーの具むすびから離さない。
ゆっくりそーっとカレーの具むすびを左右に動かすと、釣られるようにラキトハの目線が動く。
思わず、ふっと笑ってしまう。
ラキトハに睨まれる。
「悪い悪い、笑ってすまない。お詫びにこのカレーの具むすびをあげるから」
「はぁー。わかりました。もらってさしあげましょう。」
文句を言いつつ、しかめつらしい顔。だが、実は美味しそうに食べているのがわかる。
「全く、おにぎりばっかり。」
そんな呟きを背に、城が見えてきた。
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