第39話 柿は干すと甘くなる。干されたダンジョンのお味は?

「総員、警戒体制!ゲコリーナ、強行偵察頼む!」


 モレナが叫ぶ。

 軍隊の立てる、独特の音が聞こえたらしい。


 ゲコリーナがモレナの声に反応して飛び出す。

 高くジャンプし、高速で前方に向かうゲコリーナ。


 俺たちは今、平原に向かって林を進んでいた所であった。

 この林を抜けると、しばらくしてダンジョンに着くらしい。


 ゲコリーナがすぐに戻ってくる。


「前方、ダンジョンの入口、敵が占拠してるげこ。見つからなかったので、一当てせず、帰還げこ。ダンジョンの外に居るのは補給部隊げこ」


 モレナが答える。


「すでにダンジョン中に入り込んでいるか。装備の特徴は?」


「不思議なタンクが沢山あったげこ。郡都で見かけた火を吹くやつに似てたげこ」


「ゲコリーナ、タンクに何かマークは?」


 俺はゲコリーナにきく。


「ピカピカの容器でマークはないげこ。でも、洞窟の周りの戦闘の跡は所々氷があって、凍りついていたげこ。」


「巡礼教団の魔導師が氷の魔法陣を使ったのか?だいぶマイナーだぞ。」


 モレナが首をかしげる。


「もしかして、液体窒素か?」


 俺が呟く。


「それは何ですか、ユタカ様?」


「いや、要は凄い冷たい液体なんだが。ただ、戦闘で使うようなもんじゃない。確かにかかったら火傷みたいになるけど、殺傷力は火炎放射器や銃の方が圧倒的だし。それに、氷のように固まらないから。」


 俺が話すが、あまり理解できていない様子のモレナ。


「要は、液体を浴びなければいいんですね。」


 その口からは脳筋な回答が。


「よし、突入する。ダンジョン内は5名1組で3部隊突入。私、ミレーナ、ガンゾールをリーダーに編成。ゲコリーナとマンルーは残りの隊員とユタカ様の護衛で残れ。」


「了解げこ。」「ちっ、了解」


「では、ユタカ様、行ってきます。」


 そういうと、林を抜けて、突撃していく。


「まったく余計な……」


 マンルーが悪態をついている。


「寒いのはお互い苦手げこ。」


 なんだかゲコリーナがやんちゃな妹を宥める姉みたいだと、場違いなことを考えながらモレナ達を待つ、

 だいたいこういうときは俺たちも襲われるものかと思って最初は警戒していたが、特に何もなく、ミレーナが戻ってくる。


「制圧完了。モレナ、呼んでる。」


 俺は急ぎミレーナについていきながらきく。


「ラキトハはいたか?」


「いた。けど。」


 言葉を濁すミレーナ。ダンジョンに着く。辺りには敵補給部隊の亡骸が。すぐに通路に入るが、通路内も敵の死体が散乱した状態になっていて、とても話している余裕が無くなる。

 時たま凍結した場所もあり、また通路に飛び散った諸々で足元が滑る。


 足を緩めないミレーナに、足場の悪さもあって、俺は着いていくのがやっとになる。


 俺は嫌な予感を胸に急ぐ。


 ダンジョンの奥、開けた場所に出る。

 松明が灯され、神殿のような雰囲気の漂うその場所。石を削って作られたのだろう、荘厳な装飾が施されたその場所にラキトハはいた。


 ラキトハ妹が、氷漬けにされたラキトハ姉に泣きすがっていた。




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