第40話 かき氷とわたあめ。ふわふわであまあま。
辺りは斬り倒された敵の遺体が散乱している。
その中央に氷の柱の中に閉じ込められたように佇むラキトハ姉。
俺は急いでラキトハ妹に駆け寄ると、話しかける。
「おい!凍りついたのはどれくらい前だ?」
ラキトハはこちらを振り返り瞬きして答える。
「あ、あ、ユタカ殿……」
「しっかりしろ!、いつだ!」
「え、15分ぐらい、です。」
俺はそれだけきくと、次は切り殺された敵の遺体に近づく。
その背に背負われたタンクに手を触れる。タンクからノズルまでホースで繋がり、ノズルの根本には銃のような機構がついている。敵の千切れた腕からそっとその部分をはぎ取る。
ノズルの先端が壁を向いていることを確認して、ゆっくりトリガーを操作する。
ノズルから液体が噴出する。
液体窒素よりもだいぶ粘性の高そうなどろどろのものが噴出する。壁にぶつかり、どろどろのものが凍りつく。
「液体窒素じゃないのか。過冷却されたジェル……みたいな何かだな。毒性があるかはわからんな。」
俺はぶつぶつ呟きながら急いでラキトハ姉を閉じ込める氷柱の所に戻る。
俺のその様子を無言で見守るラキトハ妹。
俺は、そっとラキトハ妹の手をとり、氷柱に触れていた部分にただれや水泡が出来ていないか確認する。
「霜焼けになりかけているけど、他に症状はない、か」
俺は急ぎ霜焼けに『癒』の魔法陣を描くと、いよいよ氷柱に向かう。
「ラキトハ、これからこの氷を融かす。離れていてくれ。」
「! た、助かるのですか?!」
「……努力は最大限する。」
一瞬喜色に染まったラキトハの顔が俺の返答を聞いて強張り、しかし無理して笑顔を作って口を開く。
「ありがとうございます。」
俺は無言で頷き、自身の腹に意識を集中される。
(『熱』の魔法陣じゃあ熱くなりすぎる気がする。氷を溶かす。ん、氷を解かす?あれ、氷を融かす?)
高速で回転をする重魔素を腹に抱えたまま、ふと、固まる。
(どれが正解だ?)
俺はあわてて近くに転がる氷の欠片を3つばかり集めて、急いで3つの文字を試してみる。
背中に感じるラキトハ達の視線が痛い。
結果的に、『融』の文字が正解だった。
俺は改めて、ラキトハ姉を閉じ込める氷柱に向き直り、その根本に軽魔素の光で『融』の文字を描く。
そして、氷柱を囲むように、円で大きく魔法陣を閉じる。
発動する魔法陣。
溢れた軽魔素の光が氷柱を包み込むように立ち上る。
光の粒子が合わさり、手のひら大の無数の光の玉になる。光の玉は氷柱へと引き寄せられ、光が触れた場所から、徐々に氷が融け出す。どろどろのジェルのようなものが辺りに広がっていく。
「ねえ様……」
ラキトハ妹の声を背に、俺は魔法陣に魔素を追加していく。さらに溢れる光の粒子。
ほどなく、すべての氷が融ける。
支えるものが無くなり、そのまま倒れこむラキトハ姉を、スッとミレーナが背後からあらわれ、支える。
そのままジェルの池の外まで運ぶと、ゆっくり地面に横たえる。
俺は急いできく。
「呼吸はあるか?! 心拍は?」
顔をあげ、チラリとラキトハ妹に視線をやり、無言で首を振るミレーナ。
声にならない悲鳴をあげるラキトハ妹。
「まだだ! ミレーナ、裏返してっ!」
ミレーナに指示する。
俺は重魔素を極限まで回す。体に満ちるすべての軽魔素を意識して、急いで『戻』の文字をラキトハ姉の背中、心臓の上に描く。
魔法陣が完成する。
渾身の魔素を込めた魔法陣は、部屋を埋め尽くさんばかりの光を放ち、辺りが白く染まる。
俺は初めて『戻』の魔法陣を使用した時を越える、急激な空腹感に苛まれる。そして、そのまま一気に意識を失ってしまった。
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