第28話 不吉な知らせ。そう、それは米びつが空になったときの、それ。

 俺たちが山盛りの塩むすびに夢中でむしゃぶりついていると、テリーナがカテンルーを伴って黒水寮にやって来た。


 カテンルーはだいぶ憔悴したように見える。


 とりあえず俺は無言で塩むすびを差し出す。


 カテンルーの震える指が、塩むすびにかかったかと思えば、狂ったように食べはじめる。


「なんか、飲むもんを頼む。」


 俺は近くにいた黒水隊の隊員に一言かけ、もう一つ塩むすびをカテンルーに差し出す。


 空いている方の手を振って辞謝するカテンルー。


 俺は軽く肩を竦めて、差し出していた塩むすびをペロリと自分で食べる。


 差し出された飲み物を飲んで、ようやく落ち着いたのか、先ほどよりはましになったカテンルーが口を開く。 


「王都が落ちました。」


「そうか、ついにか。」


 俺は自信ありげに見えるように気を付けながら返事をする。


「噂では酷い有り様らしい。ほぼ虐殺されたとか。」


「何故だ?この国がしている戦争は要は食糧資源の取り合い何だろう?略奪じゃなく、何故虐殺までする?」


「どうやら向こうの国の皇帝が、魔法を使うものを根絶やしにするとか言う、とちくるった方針らしいです。」


「何でまたそんな……」


「それについては妾が説明しましょうか?」


 そこにはシルシーに案内されてオタサー姫、もといラキトハが一人で立っていた。


 華やかであったの深紅のフードは所々乾いた血のような黒ずんだ染みがあり、全体的に一言で言ってぼろぼろの姿であった。


「戦場から来たみたいな姿だな。」


 俺の呟きにラキトハが答える。


「そうよ。少しは労りなさい。」


 そういってどかりと座り込む。


 その姿は以前のオタサーの姫然とした雰囲気は全く無く、どこか気だるげな退廃感が漂っていた。


「あ、ああ。食うか?」


 俺は雰囲気におされつつ、ひとまず塩むすびをすすめる。


「ええ、いただくわ。」


 手には取るがそのまま食べずに塩むすびを持ったまま黙りこむラキトハ。


 俺も無理に急かすことはなく、ここぞとばかりに自分の分の塩むすびを食べ続ける。


 周りは静かにラキトハの様子を伺っているようで、俺が塩むすびを咀嚼する音だけが響く。


「はぁー」


 何故かタメ息をついて、塩むすびを食べるラキトハ。


 食べはじめると、あっと言う間に食べきり、そして話はじめる。


「妾たちは王都にある本殿で貴殿の神象文字の検証を行っていた。やつらはまさに蟻のようにどこからともなくわらわらと現れたのよ」


 そこからラキトハは王都が落ちるまでの顛末を臨場感たっぷりに語り尽くした。


 巡礼教団の本殿は真っ先に狙われ、信者も何も関係なく、そこにいただけで皆、殺されていったらしい。その過程で双子の姉とははぐれ、取り巻きたちもラキトハを逃がすために次々に殺されてしまったそうだ。


 辛くも逃げ延びたラキトハは、まっすぐにコレー村を目指したらしい。

 街道はすでに帝国の先見隊がそこかしこでうろつき、郡都に寄ることすら出来なかったそうだ。


 長い話を俺は無言で塩むすびを食べながら耳を傾けた。


 語り終わり、落ち着いたラキトハに一言掛ける。


「これでも食え。こし餡で米を包んだ、こし餡おはぎだ。甘くてうまいぞ。」


 俺はデザートに残しておいたとっておきをラキトハに渡す。


「はぁー。妾の話を聞いた感想とかはないのか。貴殿の存在は王都でも噂のまとだったぞ。帝国のやつらは必ずここを目指してくるぞ。食べ物を無尽蔵に生み出す魔導師をやつらが狙わない訳がないわ。」


「そう、そこだ。」


 俺はようやく聞きたいとこまで話が進んだので、身を乗り出す。


「なぜやつらは魔法を使うものを狙うんだ?やつらも魔法ぐらい使うんだろ?」


「ああ、それね。なぜ魔法を使うものを狙うかはわからないわ。戦力として警戒しているとかかしら?それと、帝国の兵は魔法使わないみたい。」


 俺は、ラキトハの戦力として警戒しているという発言に、何か違和感を感じた。しかし、ラキトハの話は続く。


「帝国では、科学なるもので戦うそうよ。実際、妾も見たことのない武器を帝国の兵隊が使うのをみたわ。」


「か、科学~?!」


「え、ええ、そうよ。どうしたの急に大きな声を。」


「いや、何でもない。」


 俺は何でもない振りを必死にしつつ、頭のなかでは科学というフレーズに混乱していた。


(これってもしかして俺以外の転移者がいるのか。しかも敵陣営に。)


 俺は静かに傍らで話を聞いていたテリーナ及び周りの面々に話しかける。


「テリーナ、そして皆、聞いてくれ。黒水隊はこれより出陣する。」


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