第29話 闇鍋、それはスリルとサスペンス。

 出陣を宣言した俺。

 周りは慌ただしくも素早く冷静に対応をはじめる。


 もともと、各契約した集団用に渡す食糧はむこう3ヶ月分は備蓄がある。

 実は魔法陣で『倉』も作成済みである。しかも何個も。


 俺の出す、潤沢な食糧はこの地域の戦力を飛躍的に増強している。飢餓に悩まされている帝国の軍相手なら、防御に徹すればまあ、負けることはないだろうと、テリータが言っていた。もちろん、ラキトハから科学の件を聞いたのは想定外だったが。テリータには無理はしないように伝えておく。


(敵が科学の力を使っているというのなら、しっかりと確かめなければ。)


 しかし、どちらにしろ、情報は必要だ。本当に科学を使ってくるならどのレベルの技術力かは非常に重要な情報になるが、この世界の人には判別は難しいだろう。


(自分の目で見て確かめなければ。)


 もし敵に転移者がいるのなら、油断は出来ないと気を引き締めながら、考える。


 そして行軍の準備であるが、俺たちの方は行軍中の食べ物は、俺がいればどうとでもなる。

 野営は、広場で各自が寝泊まりしていた物をそのまま流用する。各自、自分の集落や集団からコレー村まで来るのに使っていたものだから、持ち運びにも問題はない。


 唯一揉めたのは、ラキトハがついてくると言ったことぐらいだ。


 俺は丁重にお断りしました。

 足手まといだし。

 しかし、巡礼教団で各地をまわり、周囲の地理に明るいという進言を受けしぶしぶ同行を許可する。妹を探したいという熱意に負けたわけでは決してない。


 こうして俺とラキトハと35名の黒水隊は、報せを受けた次の日、コレー村をあとにすることとなった。


 道中は特に大きな問題もなく。

 ラキトハは確かに役に立っていた。俺のオタサーの姫という第一印象では、周りの取り巻きたちに全てを任せっぱなしかと思ったが、野営のおすすめポイントやら、水場の位置やら、細々としたこともしっかり把握していた。


 そして一番の活躍を見せたのは、ゲコリーナであった。


 行軍中にふらっと消えると、すぐに手に鳥やら食べられる小動物を捕って来る。

 当然、本当の軍隊ならそんな勝手なことは許されないのだが、俺はそこまでこだわることはない。何より、ゲコリーナの目的は食糧の確保という、素晴らしいものなのだ。誰が止めよう。


 一度その狩りの様子を見させてもらった。


 無音で歩くゲコリーナ。木の枝に保護色の鳥がとまっている。自然体のまま、忍び寄るゲコリーナの口から、舌があり得ないぐらい伸びる。

 狙いたがわず鳥にあたる舌。その瞬間、舌の唾液が鳥に絡み付き、ベトベトに変化する。そして、一気に引き寄せていた。


 蛙の要素が強い顔は表情が非常に読みにくいがそれでも俺の目には少し得意気に見えた。


「当てて、唾液が固くなるげこ。そしたら引っ張るげこ。簡単げこ」


 とゲコリーナ。


 ちなみに、いやいやそんなのお前だけだから、と思ったのはどうやら俺だけらしい。黒水隊の他のやつらは普通の顔をしてそれを聞いていた。

 蛙人の生態はここらでは比較的有名なようだ。


 こうして、行軍中の飯に貴重なたんぱく質も供給され(唾液まみれだが)俺たちは順調に行軍をすすめた。


 そうして、郡都へとたどり着いた。


 そこは煙と炎の支配する、戦場であった。


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