第30話 side とある弓兵の1日 前編

「これより、第二軍は戒厳下の戦時即応体制に移行する。それに伴い、諸君ら弓兵部隊も六時間サイクルで半数が即応待機となる。情報によれば敵は神出鬼没、あり得ない行軍速度をしているとの情報も来ている。すでに王都は落ちたが、その惨状は諸君の耳のも新しいだろう。敵は女子供構わず虐殺する鬼畜の所業、何としてでも、我が軍都を守らねばならない。諸君の働きに期待する。」


 そう言って、お偉いさんは去って行った。


 隊長のエルビーが弓隊の皆に声をかけ、最初の即応待機の面子を決めていく。第三小隊と第四小隊を最初の即応待機にさせるらしい。


 副長である俺はそれを聞きながら、遺漏がないか気を配る。


「ギーブ、第一小隊と第二小隊の指揮を頼む。」


 エルビーが俺に指示する。


「イエス、マム。もう一つの指揮はご自分で?」


「ふむ、何か提案が?」


「はっ、エムロードにお任せしてはいかがでしょうか。」


 俺は他の隊員に混じって弓の整備をしている第三小隊の小隊長であるエムロードを見ながら答える。


「弓のセンスは隊長には劣り、寡黙ですが、周りの助力を得られる男です。うまくやるかと。」


 俺は答える。


「わかった。任せよう。」


「イエス、マム!」


 俺はエムロードを呼びに行き、打ち合わせを行った。



 そしてその後、最初の半待機の時間、俺は第一、第二小隊のやつらと飯を食べていた。第二小隊の小隊長であるファインが手にもった物を食べながら話しかけてくる。


「副長、しかし、この餅ってやつはすごいですなー。」


 ファインが餅にかじりつき、みょーんとのばしながら話し続ける。


「おい、垂らすなよ。」


 俺は笑いながら答える。


「へい。でも、副長だってこんなもの、食べたことないでしょ?携帯性と保存性に優れ、しかも旨い。食べ方もいく通りもある。汁物に入れてもいいし、焼いても良い。出来すぎてませんかね。」


「何が言いたいんだ?」


「いや、ちょっと小耳に挟んだんすけどね、とある村で、神話の時代の偉大な魔導師が蘇って食糧を配ってるとか。」


「ふーん。そうなのか。その食糧がこれだと?」


「そうっす、そうっす。だって、こんなの見たことないじゃないですか。」


「だが、実際にそんな奴がいたら、お偉いさんがたが放っておかないんじゃないか?」


「何でも、その村で、自らの配下に大量の食糧を食べさせて、ちょー強くしてるって噂っすよ。上の人らもビビって様子見してるんじゃないっすかね。それに、今のままでも実利があるっす。何もしなくても、うちらのようなとこまで食べ物が回ってくるぐらいですし。」


「そんなに賢明かねー。まあ、日和ってるのはあるかもしらんな。」


 俺たちがそんな下らない話をしていると、交代の時間がやってくる。


 俺は小隊を二つ連れ、エムロードと交代するために城壁の狭間に向かう。


「ギーブ、着任します!」


 俺は敬礼して定型の掛け声をする。


 エムロードも返礼して答える。


「エムロード、指揮を譲ります!」


 あとは軽く雑談をかわす。


「どうだ、様子は?」


「風が強い。嫌な感じだ。」


「ほう、それは気を付けよう。今日の飯は旨いぞ」


「わかった。それじゃあな。」


 そう言ってエムロードは隊を連れてさっさと去っていく。


 ファインがそれを見ながら言う。


「相変わらずっすね。しかし、嫌な感じっすかー。敵さん、来ますかね?」


「来るだろうな。ファインの勘の鋭さ、異常だからな。」


「この風、火矢を射たれたらやばそうっすね。」


「ああ。さあ、配置につけ!警戒を厳に!目を光らせろ!敵を最初に見つけた奴には、一杯奢るぞ。」


 俺は隊員達に、げきを飛ばす。


「敵です!13時の方向!」


 俺が言い終わらないうちに、隊員から声が上がる。


 すぐさま俺も視線を飛ばす。


「接敵を確認、警報をならせーっ!さあ、お前ら、気合いを入れろ。生き残って飲むぞー。」


「奢り、忘れないで下さいね!」


 警報を響かせながら、そんな声に皆、笑いながら配置につく。


 すでに続々とわいてくる敵達。


 警報をきき、臨戦体制を整える味方達。


 郡都スクトリアでの戦いが始まった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る