第31話 side とある弓兵の1日 後編

 郡都スクトリアの城塞の上から俺はじっと敵の様子を見る。


「誰も鎧を着ていないぞ。ただの焦げ茶の布の服か……?それに、あの筒はなんだ?」


「ふ、副長!あれ!」


 俺を呼ぶ声に顔を向ける。一人の部下が指差す先には、ずんぐりとした化け物がいた。

 敵兵が周りに歩みを合わせている。


「副長!化け物ですぜ、ありゃ。」


 ファインが上擦った声で言う。


 こいつ、部下の前で動揺するなよな、と思いつつ、皆に言い聞かせるようにファインに答える。


「周りに敵兵が見えるな。それじゃああのずんぐりした物も敵ってことだ。敵はどうするっ!」


「「殺します!」」


 皆が声を揃え答える。


「よろしい。」


 その時、敵の化け物が火を吹いたと思ったら、城壁が激しく揺れ、ズドンと轟音が響き渡る。


「じょ、城塞に穴が空いています!」


 下を覗いたものから報告が上がる。


「狼狽えるな!来るぞ、全員、弓構え!通常威力だ!」


 わらわらと空いた城壁の穴に目掛け、殺到する敵兵達達。

 その筒をこちらに向け、パンパン音をさせながら向かってくる。


 俺は敵が十分近づいたタイミングで掛け声をかける。


「放てー!」


 一斉に下方向に向かって放たれる矢。


 数本は敵に刺さるが、大半がそれてしまう。


「副長!だめです!やつら半透明の盾みたいなもので防いでいます!」


「狼狽えるな!再度構え!通常威力!」


 俺はここにいない隊長を信じて、隊員達に弓を構えさせる。


 その時、近くで鏑矢の鳴る音が響く。


「副長!攻撃の合図です!」


「全員、放てー!」


 俺は今まさに城壁の穴にたどり着く敵達に向かって矢を放たせる。


 敵兵達はそのタイミングに合わせて、手にもった強化プラスチックの盾を頭上に掲げる。

 俺の隊の放った矢はその盾にほとんど弾かれてしまう。


 しかし、それはエルビー隊長の狙い通りであった。城壁の穴のこちら側に待機していた第三、第四小隊。豊富な食糧で賄われた重魔素をフルに使い、最大限まで引き絞られた弓。

 その後ろには鏑矢を放ったエムロードの姿が見える。


 エルビー隊長の掛け声に合わせ、盾を頭上に掲げた敵兵達の横から無数の矢が襲いかかる。


 その矢は、極限まで引き絞られた弓の反動で、敵兵達に突き刺さり、そして貫通して行く。

 穴だらけになる敵兵達。その後ろでは貫通した矢が刺さって止まり、針ネズミのようになって倒れる無数の敵兵達。


 エルビー隊長が掛け声をかけ、弓兵達が道を開けると重装備のハンマー兵達が内側から城壁の穴に殺到する。


 敵もその筒を向けパンパンと音をさせながら攻撃するが、十分な食糧で重魔素を使って身体強化し、金属の鎧で身を固めたハンマー兵達は怯むことなく襲いかかる。


 時たま、ハンマー兵達の鎧の隙間に、敵の攻撃が当たり倒れ伏す。しかし、多くのハンマー兵達が敵兵をその強化されたハンマーで、ひりつぶして進む。


 それはまさに純粋な暴力の奔流となって城壁の穴から溢れ出す。


 同時に、城門が開かれ、数少ない重装騎兵が出撃する。


 城壁の穴に気をとられた敵兵の横っ腹に一当てし、撹乱する重装騎兵。

 このまま突破するかと思ったその時、敵の戦車が旋回し、主砲を重装騎兵に向けると、味方もろとも砲撃を放つ。


 跡形もなく吹き飛ぶ敵味方。


 その威力を目の当たりにし、さしものハンマー兵達も怯み始める。

 豊富な食糧を重魔素にかえ、衝撃には強いが、それでも防ぎきれない攻撃だと肌身で理解させられる。

 ハンマー兵が怯んだ隙に、敵は新しい兵種を投入する。


 タンクのような物を背負い、手には太めの筒。新しい敵兵達が進み出ると、それ以外の敵が後退する。


 タンクを背負った敵達が一列に並び、その筒をハンマー兵に向ける。

 筒から放たれる炎。

 その火炎が、ハンマー兵達に襲いかかる。


 出現する阿鼻叫喚の火炎地獄。いくら身体強化しているとはいえ、筒から放たれた燃える液体を浴び、火だるまとなってはハンマー兵達もどうにも出来ず、苦しみ悶え、転げ回って死んでいく。


 そのまま城壁の穴に向かってくる敵達。


「副長、やばくないっすか。」


 ファインが弓を放ちながら言う。


 俺は答える。


「いいから、一人でも殺せ!俺たちが一人でも殺せば下の連中が助かるんだ。」


 矢を放ち続ける俺の隊員達。


「副長!」


「今度はなんだ?!」


「十時の方向に新たな集団です!旗を掲げています。全面、黒の旗です。あ、あれは、見たこともないほど大きな腹の男がいます!もしかして噂の……。」


 デブイユタカと黒水隊。戦場に到着する。






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