第46話 〆はラーメン
(額に『目』と描いた時のガンゾールの様子がおかしかったのは、こういうわけか。)
俺はようやく納得した。
世界が二重写しのように把握できる。
光と影、表層と深部。それらが対ではなく、一体となって俺の脳に叩き込まれてくる。
相変わらずリュウガインは不可視のバリアーで、押し潰そうと盛んに腕を振っている。
(あの腕についている腕輪が発生装置か。どうやら本人の認識によって、弾く対象を選択できるバリアーみたいだな。どんだけSFなんだか。)
俺は首を振りながら、ささっと、バリアーの表面に『固』の魔法陣を描く。
(不思議と正解が見える。)
そのまますたすたと歩き出す俺。
「え、おい、どうした、壊れたのか。動けよ動け!。ステータスオープン!」
突然、言うことをきかなくなったバリアーに慌てふためき、ステータスを開くリュウガイン。
俺はその様子をちらりとみて、立ち止まる。俺の額の『目』はリュウガインのステータスまで見通す。
(ふーん。ステータスでトンデモ科学の武器とか兵器を出すのか。獲得した魂とか、消費する魂とかも見える。リュウガインを転生させた神様にとっては敵の女神への嫌がらせ&魂を効率良く集められて一石二鳥ってとこなのかな。)
俺はそんなことを考えながら、固定された不可視のバリアーに『砕』の文字を描く。
パリンと、ガラスのような音をたてて、バリアーが砕け散る。
俺が両腕を前に伸ばす。
ちょうどゲコリーナが腕の中に落ちてくる。
「意識を失っているだけだね」
俺はそっとゲコリーナを足元に横たえると、『守』の魔方陣で囲む。
俺の方も不可視のバリアーを発生させ、ゲコリーナが囲われる。
リュウガインの方を振り替える。
なにやら必死にステータスを操作している。
リュウガインの目の前にガトリングがゴトンと唐突に現れる。
(情緒の欠片もない登場の仕方だなー)
俺はそんなことを考えながら左腕に『盾』と描く。
リュウガインは王座から飛び降りるとガトリングをこちらに向けてハンドルを回し始める。
高速で飛来する無数の弾丸。
俺は額の『目』が教えてくれる場所に、正しい角度で『盾』を置いていく。
逸らされ、周囲へと飛び散る弾丸達。
俺はゆっくり歩きながらリュウガインの方へ近づいていく。
(この『目』の魔方陣、めっちゃ腹へる。)
俺は盾を小刻みに動かしながら左手の平に『餡』と描き、こっそりこしあんを頬張る。
「あー。うまいわ」
その様子を見たリュウガインが切れる。
「何食ってんだよ、この豚が! くそっ。」
埒が明かないことを悟って、リュウガインがまたステータス画面を弄り始める。
(あー。それやっちゃうの。後先考えてないなー)
俺はこしあんをクチャクチャしながらも、『盾』に『収』の文字を上書きする。
何故かどや顔でこちらを見て叫ぶリュウガイン。
「死ねよ、化けもの!」
天井からぬるっと核ミサイルが現れ、俺の頭上に落ちてくる。
「いや、爆発したらリュウガインも死ぬんじゃない?」
俺はそんなことをいいながら、リュウガインを見て、『目』に写る情報に一人納得すると、盾を頭上にかざす。
落ちてきた核ミサイルが盾に触れる。
盾から軽魔素の光が粒子となって溢れだし、触手のように核ミサイルに絡み付く。
そのまま、盾の中へと引きずり込まれていく核ミサイル。
あっという間に飲み込まれる。
後には静寂が残る。
てくてくとリュウガインの元に歩いてたどり着く。
「もう、終わりかな?」
俺はそういうと、左手の残ったこし餡を舐めとり、手のひらに『射』の文字を描こうとする。
核ミサイルが飲み込まれていく情景が衝撃だったのか呆けていたリュウガイン。俺がこしあんをなめている間に気を取り直したのか、喚き出す。
急いでリュウガインがステータス操作をするとトラックが現れる。
(逃げるのか?)
俺がそんなことを思っていると、トラックに乗ったリュウガインが突っ込んでくる。
俺は不思議に思う。
(核ミサイルの次が3トントラック? ああ、リュウガインが転生するときにトラック転生だったのか。その時のイメージに引っ張られたか。もう、錯乱してる感じだね)
俺は綺麗になった手のひらに魔方陣を描く。そのまま、躊躇なく、リュウガインを狙い、軽魔素の光を放つ。
空間を白光が切り裂く。
「元の世界に戻りな。」
俺はリュウガインが核ミサイルを出したときに見た、彼の魂の在り方を思い起こして呟く。彼の魂は地球に紐付けされていて、死ぬと地球に再転生するみたいだった。
(だから核ミサイルなんて無茶もしたんだろうな。死ねばゲームオーバーで地球に戻るとわかってたから。ゲーム感覚でここまで来たんだろうな。)
俺の放った軽魔素の光が運転席のリュウガインを貫き、消し飛ばす。
残ったトラックが、そのまま俺に迫ってくる。
運命をも見通す『目』。
冷静にそれを見つめる俺。
「そろそろか。」
あわやトラックがぶつかるかというところで、時が止まる。
俺の『目』は何もないはずの空間に生ずる神威の気配を捉える。
止まった時の中、俺に干渉してくる存在に、あえて身を任せる。
俺は辺りが真っ白な空間に佇んでいた。
「はーい、みんなのアイドル、女神ちゃん、華麗に登場!」
俺の後ろからバカっぽい声が響く。
振り返ると、顔横ピースにウィンク、ペコリんと舌だししている荘厳な衣装の女神がいた。
「いやー、君危なかったねー。もう少しでトラックにひかれるところだったんだよ。でもだいじょーぶ。この麗しき女神様が時を止めているから君の体は無事だ! さあさあ、崇め讃えなさい。ええ、ここには君の霊体だけ連れてきたんだよ。」
「何かお間違えじゃないですかね。」
「え、君は地球でトラックにひかれて死にそうな山本三郎君(17歳)でしょ?」
「違います。」
俺は額の『目』を爛々と輝かせ、一片の情報の断片も見逃さないように、女神の様子を伺いながら淡々と答える。
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