第7話 じゃがいもはミネラル、ビタミン、食物繊維が豊富な野菜。つまり、いくら食べても太らない!(大嘘)
目の前には山盛りの芋。
「じゃがいも、だよな?」
俺はかがみ、一つ手に取る。
ゴツゴツした手触り。
「芽も出てないし、よく見るじゃがいもそのものだ」
「ユ、ユタカ様!先ほどの神象文字はいったい!?それにそこにあるものは何ですか!?じゃがいもとおっしゃいましたか?」
「え、ああ。これか。これはじゃがいもだな。途中まで軽魔素の線引いちゃったから、試しに書いたら出た。」
「試しって……。あんな神象文字は見たことがありません。これは大発見ですよ!それでじゃがいもとは何するもの何ですか?」
「何するって。ああ、じゃがいも見たことがないのか。もちろん食べるんだよ。芋は知ってるだろ?」
「食べ物!!しかもこんなにたくさん!芋と言うものなのですか。初めて見ました。」
テリータはそう言いながら、食べ物と聞いて、ゴクリと喉を鳴らしながら視線は俺の持つじゃがいもに釘付けになる。
(芋、無いのか?そういや、腹空かせてるんだったか。)
「あー。良かったら食うか?」
あの後、テリータの家から使用人を呼び、総出で調理場へじゃがいもを運んでもらう。
どうやら村の共同調理場らしき場所に案内される。
近くには井戸。火はかまどっぽいものが数口ある。
さっそく火を起こしておくことをシルシーにお願いする。
シルシーと言うのは、テリータの家で最初に足を洗う用の桶を持っていた女性だ。今回の調理を手伝ってくれるらしい。
そしてまわりにはどんどん村人らしき人が増えて来ている。どうやら皆、食べ物があるという噂につられて来たらしい。
どう見ても子供に見えてしまうような小さくてガリガリの人ばかりだ。しかし、見た目に反し、ほとんどが成人した女性らしい。
あまり周りばかり気にしても仕方ないので、俺は調理をすることにする。
テリータに調理方法を伝える。
「まずは芋を洗って芽を取り、皮を剥く」
テリータは素早く頷くと、指示を飛ばし集まって来ていた村人数人に井戸から水を汲ませ、洗わせ始める。
そのまま別の村人に家からナイフのようなものを持ってこさせると、洗い終わった芋から流れ作業で、別の村人達が芽を取り皮を剥き始める。
何処からともなく用意されていた大きめの木皿に剥かれたじゃがいもが山積みになっていく。
(おお、さすが村長代行、人使いすごっ。そして空腹だからか、皆の動きが素早すぎる……)
「あー。次は芋をうすーく切るんだが……」
テリータが剥かれたじゃがいもを取り、いつの間にか持っていたナイフで、薄く輪切りにする。
「こうですか?」
手際の良さにちょっと唖然としながら俺は答える。
「そ、そうです」
(なんか気圧されて敬語になっちまった……)
俺の肯定の返事を待っていたかのように、俺の後ろにナイフ片手にまな板らしき木の板を構えていた女性陣が次々に剥かれた芋に群がる。
あっという間に大量のスライスさせたものが出来ていく。
その速度に少し焦りながら次の指示をテリータに伝える。
「次はキッチンペーパーで水気を取るだが……」
「何ですかそれは?」
テリータが首をかしげる。
(あー。あるわけないか。よし、それなら)
俺は急いで体内の重魔素を回転させていくと、右手の人差し指を光らせた、地面に文字を書き始める。
書き終わり、円で囲んで一歩下がる。
カッと眩しい光が辺りを煌々と染める。
「キャッ!」
作業に集中してこちらを見てなかった村人数人が驚いたのか悲鳴が上がる。
(あっ、やべ、刃物使ってる人いた……)
俺は焦りながら怪我した人がいないか確認する。
どうやら皆大丈夫らしい。
ホッとしながら、先ほど書いた魔法陣の跡地に戻る。
そこには大量の紙と興味深そうにそれを眺めるテリータ他数名がいた。
紙を手に取ってみる。
(うーん、質の悪いわら半紙ってとこか?)
「あー、この紙で芋の水気を取るんだが。」
それを聞くとさっそく紙に興味深そうにしていた数人が、手に取り試していく。
最初は破れたりと上手くいかなかったようだが、すぐに手早く芋の水気が拭き取られていく。
俺は次に火の番をしているシルシーのところに向かう。
テリータもついてくる。
「次は深めの鍋に油を入れて火にかけてくれ。」
何処からともなくさっと深めの鍋が出て、村人からシルシーに渡される。
テリータが言いにくそうに話し掛けてくる。
「油とは、動物の油ですか?村全体で小瓶一杯くらいならあるかとは思いますが。」
「ああ、なら大丈夫」
俺はテリータに答えると、シルシーから鍋を借り、だいぶ手慣れてきた手順で魔力を操り、鍋の底に軽魔素で、『油』と書く。
(よし、地面じゃなくても書ける。)
鍋を水平にすると、魔法陣を完成させる。
鍋の口から、上に向かって煌々とした光が一瞬カッと光る。
光が収まった後、俺が鍋を覗くとそこにはなみなみとサラダ油が満ちていた。
「よし!じゃあシルシー、この油を火にかけてくれ。あまり強火だと燃えるから……」
「お任せください!」
シルシーが被せぎみに答えると、鍋を奪うようにして温め始める。
「テリータ、後は水気を取った薄く切ったじゃがいもを、熱した油に入れて、火を通して、色が少しこんがりしたら取り出すんだが。」
「わかりました。」
テリータは今度は大きめの木のフォークのようなものを村人たちに用意させる。
さらにその間に、別のかまど数口でも火の準備をさせていく。
俺の後ろには、空の鍋を手にした村人が数人、無言で並んでいる。
後ろを振り向くと目が合う。
にっこりと鍋を差し出してくる村人。
俺は察して、次々に。神象文字で油を鍋に出していく。
その間にも、テリータの指示でどんどん芋が揚げられていく。
俺は余っている、わら半紙の上に揚げたものを置いていくようにだけ伝える。
「テリータ、最後に塩を振るのだが。」
悲しそうに首を降るテリータ。
「すいません、そのような高級品はうちの村には……」
俺は空いている木皿を借りると、神象文字で『塩』と書き、小さめの円で囲む。
小さくピカッと光り、皿には塩が盛られた状態になる。
テリータの目がこれまでにない感じで見開かれる。
「なんと、あれだけの塩、計り知れない値段になりますよ!?」
何故かこれまでで、一番動揺した様子のテリータ。
俺は動揺したテリータは放って置いて、手の空いてそうな村人に、塩を揚げ終わった芋に振りかけていくように伝える。
しばらくすると、そこには大量の揚げられ、塩を振られた芋が無数の皿に山脈のごとく鎮座する景色が生まれた。
その時、背後からリリーヌーの声が平場に響く。
「ポテチがっ。いっぱいのポテチが……」
どうやら調理場へ来ていたらしいリリーヌーが唖然としている。
俺たちの周りをこれまで見掛けなかった村人達が囲んでいる。いつの間にか村人総出で集まってきたようだ。子供とおぼしき、ちんまりした様子の者達もいる。
魔法陣で生まれた塩で、さっきからずっと心ここにあらずのテリータに声をかけ、皆に食べるように伝えてもらう。
テリータは、はっとした様子で状況を把握すると、ごほんと咳を一つ、村人たちに話始める。
「皆の者!ここにおわすは、偉大なる魔導師ユタカ様である!ユタカ様は村の仲間であるリリーヌーを助けてくれたばかりか、飢えに苦しむ我が村に食べ物をもたらしてくれた!皆の者!心して食せ!」
そうしてテリータが片手をあげる。
村人達からウォーという雄叫びのような歓声が上がり、ポテチに人が殺到する!
「これは!」「なんと美味しい!」「この世の物とは……」「おいしいよおいしいよ」
そこかしこから驚き、喜びの声が上がる。
俺はテリータの突然の演説に気恥ずかしくなりながら、ポテチを喜び貪る村人達の姿に不思議な達成感を感じる。
そうして小腹の空いた俺も村人たちに混じり、ポテチを貪りはじめる。
「うん、普通のポテチだ。塩味もいいね」
両手にポテチをつかみ、交互に口に運びながらそんな独り言が漏れた。
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