第8話 ブドウ糖派ですか、カルメ焼き派ですか?もちろんどっちも派です。

 ポテチ祭りは夕方まで続いていた。


 何度か追加で芋を所望されたので、快く魔法陣を書いてあげる。たまに油の魔法陣も。


 ついでにじゃがいもはお湯で茹でても食べれることを伝えておく。


 茹でたじゃがいもには塩じゃ味気ないかと思い、近くにいたシルシーに声をかける。


「シルシー、バターはある……」


「ただいま持って来ます!」


 俺の声を遮り食いぎみで答えるシルシー。そのまま走り去る。


 俺はポカンとしてその後ろ姿を見送る。


(そういやさっきも鍋を奪われたよな。そういう性格?)


 すぐに走って戻ってくるシルシー。


 手には桶。中にはバターがあるようだ。


「シルシー、ありがと……」


「いえいえいえ!とんでもないです!」


「このバター、塩って入ってい……?」


「塩は使ってません!」


「ああ、うん。」


 俺はなんだか疲れてしまい、近くに来たテリータに、じゃがバターの存在とか、バターに塩足すことを伝えて丸投げする。


 しばらくすると、村の有志数名によるじゃがバターが振る舞われ始める。


 俺も、もちろん、ガッツリといただく。


(ポテチだけだと小腹は膨れても、腹の足しにはやっぱりじゃがバターだね!)


 俺はついでに、あれも試してみるかと重魔素を回転させていく。


 俺の指が光出す。さっきから何度も『芋』やら『紙』やら『油』やらを書いているので周りも慣れたのだろう。作業中のものたちは眩しさにやられないようそっと目を反らし、ちんまりした子供たちや食事中の者や手が空いている者らは興味深そうにこちらを見ている。


(確かにこんな娯楽の少なそうな環境だったら、子供には魔法使うのが娯楽になるか。こっちを見てる大人たちは知らない漢字を覚えたいとかかね。)


 俺はそんなことをぼんやり考えながら、空いている木皿を手に取り、軽魔素で、まずは『豚』と書く。そのまま、隣に『肉』と書き足し、円で魔法陣を完成させる。


 いつもならすぐに眩しい光が発生するのだが、何か様子がおかしい。


「あれ、光らない?」


 俺は木皿を覗き込む。

 木皿に書かれた『豚肉』の神象文字が崩れるようにバラバラになっていくのが見える。


「え、崩れるの?」


 次の瞬間、近くにいたテリータが叫びながら走ってくる。


「危ない!」


 駆け寄ってきたテリータが俺の手から木皿を、バシッとはたき落とす。


 地面に落ちる木皿。


 そのまま、軽くパンっと音がして木皿がはぜる。


 俺は粉々になった木皿に驚いて、固まってしまう。


「怪我はありませんか、ユタカ様?」


 テリータがこちらを見ながら聞いてくる。


「ああ、大丈夫。しかし、いったい今のは何だったんだ……?」


 疑問が頭の中で渦巻く。


 テリータは俺の様子を見て、声をかけてくる。


「ユタカ様、お話は私の家でしましょう。」


 テリータはシルシーに調理場と周りの片付けの采配を任せると、俺の腕を掴み、村長邸へと連れていく。


 されるがまま、テリータについていく俺。


 家に入り、最初にテリータと会った部屋へ通されると、向かい合って座る俺とテリータ。


 テリータは周りの耳がないことを確認した様子で、話し出す。


「ユタカ様、先ほどの神象文字ですが、あれは魔法が成立しなかった時にたまに起こる現象なのです。魔法の失敗にも何種類かありまして。一番多いのは魔力量が足りなくて神象文字が消えてしまうことです。これは起こす現象に必要な軽魔素の量が足りない時に起きます。」


 俺は神妙にテリータの説明をきく。


(うんうん、リリーヌーが魔力が足りなくてって言ってたやつだね。)


「後は神象文字が形が間違っている時なども同じように消えてしまいます。しかし、まれに先ほどのように、魔法陣が破裂することがあるのです。」


 俺は身を乗り出す。

 テリータは話し続ける。


「破裂する場合のはっきりした原因はわかりませんが、何らかの魔法の理に触れてしまった時に起きると言われています。それでお伺いしたいのですが。ユタカ様はあの時、何を起こそうとして魔法陣を描かれたか、教えてもらえますか。」


「あの時は、豚の肉と二文字書いて豚肉を出そうかと。肉も食べたくて。」


「二文字!そして調理場から薄々は思っていたのですが、やはりユタカ様は神象文字が読めるのですね!」


「ああ、皆は神象文字読めないって言っていたよね。」


「その通りです!ユタカ様も神象文字が読めることをおおっぴらにされるときはお気をつけください。それはとてつもない価値のある知識ですから。そして二文字の神象文字ですか……」


 思い悩むテリータ。


「もしかして魔法陣の神象文字って一文字限定だったりするの?」


「すいません、わかりません。そもそも誰も読めないので、今使われている神象文字が何文字の物かもわからないのです。」


「あーなるほど。そうだよな。でも、それなら使って見せてくれれば俺が何文字かわかると思うぜ。」


「確かにそれは確かめられそうですね。まあ今日はもう日も暮れます。今日は我が家に泊まって頂き、明日以降検証していきましょう。ユタカ様もあれだけ魔法陣を描かれたのですからさぞお腹も空かれたでしょう?」


「え、小腹は空いたけどポテチやじゃがバター食べたし問題ないよ。魔法陣描くとお腹空くの?」


「ええ。お腹も空きますし、そのまま使いつづけれはみるみる痩せてしまうと言われています。昔の英雄で、豊満な体躯を誇った魔導師様が敵の大群に一人で挑み、その魔力を振り絞って戦い、最後はガリガリに痩せて亡くなられたという有名なお話があります。」


「そ、それは壮絶。でも結構魔法陣描いたけど、俺は本当に何ともない。俺って痩せにくい体質だからかな。」


「さ、さすがユタカ様ですね。おっしゃる通りなら、痩せにくい体質のおかげで、魔法陣が使いたい放題になられている可能性が高いですよ。」


 目をキラキラさせ、そんなことを言うテリータ。


「あー、そこら辺も明日以降検証だな。」


(前の世界では何しても痩せない体質だったけど。ダイエットなんて敵以外の何者でもない感じだったし。それで、他のひとが痩せちゃう魔法使用でも、俺って本当に痩せないのか?でも確かに腹が減る感じはなかったしなー。これで魔法陣使いたい放題なら、何か異世界転移定番の、例のあれ、そう、チートみたいだ。)


 テリータの話しに考えさせられる俺。


(痩せにくい体質がチートって、何か複雑な気分だけど。)



 俺はモヤモヤしながらも、そこでテリータとの魔法講義も終了となる。

 俺はその後は客間に案内され、そのまま一晩泊まらせてもらった。

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