第24話 side 蛙人 ゲコリーナ参上
「ゲコリーナはゲココ帝国所属、月光騎士団次席、減光の八重刃と呼ばれる騎士でげこ。」
私は目の前の巨大な魔導師に挨拶をする。
目の前の魔導師は隣に立つコレー村の村長らしき女と、こそこそ何か話した後に、こちらを向いて答える。
「俺はデブイユタカだ。よ、よろしく」
(見た目は立派だが言動は微妙げこね。落ち着きのなさ、すぐに返答しない?出来ない?無礼と捉えかねない行動。それも強力な魔導師として、意識して行っているわけではないげこな。)
私はデブイユタカと名乗った魔導師を見定めようと注視しながら考える。
(仮とはいえ、今後仕え、この舌装剣を捧げる相手。しかも大量の食糧支援という、今の世で破格の支援を行っている、祖国存亡の鍵を握る相手げこ。慎重に対応していかなければ。)
私は腰回りに下げた八つの舌装剣(ゼッソウケン)に触れ、気を落ち着けさせる。
(どうやら目の前の魔導師は蛙人の表情は読めないげこね。こうした情報を集め、食糧を回収に来るもの経由で騎士団に伝えていくのも私の仕事げこ。)
私は魔導師の反応を見るためにあえて晒していた表情の変化を止め、注意深く次の雇用者が魔導師と挨拶する様子を見守る。
(リーダーと言われていたモレナというものは力量は大したことないげこ。あそこに見える蟷螂人も地力では私がうわてげこね。まあ蟷螂人は隠し手が多くて有名げこ。油断は出来ないげこね。)
私はそれとなく周りのもの達の力量を計り、頭に刻み付けていく。
(あそこでこっそり何か食べている少女は要注意げこ。見てると悪寒がするげこげこ。)
私はそっと視線をそらす。そのタイミングで、今日の所は挨拶が終わったらしい。
そして、明日、村の外に集合するように言われて解散となる。魔導師は去っていき、モレナが近づいてくる。
食事のことや、村の広場のどこに野営するかを伝えられる。
その日は飢えに苦しむゲココ帝国から見ると、かなり盛大に夕飯は振る舞われた。珍しい料理が、しかも大量に並べられ、誰も制限されることなく食事をとっている。
私も久しぶりに力が滾るまで食事を取ることが出来た。
(私の戦闘スタイルは飢餓の時も影響が少ないことが最大のメリットだけど、力が張っていて悪いことは一つもないげこ。これだけ食べられるなら悪くないげこげこ。)
私は心行くまで珍しい料理の数々を堪能し、膨れた腹を抱えて、その日は広場の片隅で簡易的な幌だけ張って野営して寝た。
翌日、村の外に集合する。
どうやら今、各地から集まっているもの達は全て並んでいるらしい。
村人が次々に食糧を持ってきて積み上げている。
(あれは昨晩食べた美味しいやつげこ)
魔導師がくる前にモレナが敬礼の練習をさせたがるが、何人かが親切丁寧に現実を教えている。
それでもモレナに掛け声を掛けさせてあげるらしい。
私はどこかしらけた様子でそれを見ていたが、掛け声の時にするポーズだけは伝えておく。
(臨戦体勢のポーズだけど、構わないはずげこげこ。)
話が纏まった頃に魔導師が手に木の棒を持って登場する。
その身に、直視するのが憚られるほどの魔力を纏っている。
無言で仁王立ちになり、何故かこちらをみてくる魔導師。
(同族に見られて緊張しているげこ?それで私と蟷螂人の方を向いたげこね。魔力は凄いけど、肝の小さい男げこ。)
その時モレナの掛け声がかかり、皆気を付けの姿勢を取る。私も蟷螂人も事前に申告していたポーズをする。
(蟷螂人も首狩りする時の姿勢げこね。)
魔導師はそのまま無言で魔法陣を描き始める。
(あの棒はマジックウォンドの類いだったげこ!あんなに長いのは初めての見たげこ。あんなに長いのに、魔素がしっかり地面まで届いている……。やはり魔導師として規格外なのは間違いないげこね。)
私は固唾を飲んで魔導師の姿を見つめる。
どうやら巨大魔法陣を描くらしい。
(あんなに巨大なのは無謀げこ。人間業じゃないげこ。あの膨らんだ腹のなかには、一体何人分の魔導師の魔力が詰まってるげこー)
私は神話の時代に聞くような常識外の光景を前に、思わず、げこげこと声が漏れてしまう。
そして、一切疲れも見せずに真円の巨大魔法陣を完成させる魔導師。
(大きすぎて分かりにくいけど、見たことのない神象文字げこー。)
そして更なる驚きが私を襲う。
(ま、魔力を継ぎ足しているげこー。)
魔導師はそのマジックウォンドを魔法陣に触れさせ、自身の魔素を急速に魔法陣に注ぎ始める。
衰えることを知らない魔力の奔流が、魔導師からその輝くマジックウォンドを通じて、巨大魔法陣へと注がれ続ける。
偉丈夫な姿とも相まって、その様子は私の目にさえも神々しく映り始める。
モレナに指示を飛ばす魔導師。
その声は、意外にも低くて渋く、権威を滲ませて辺りに響き渡る。
その次の食糧を運ぶようにという指示に、私の身体も自然と反応してしまい、周りの者につられて身体が動いてしまう。
近づいて感じられる魔導師の魔力の奔流は凄まじく、獣の本能で少なからず畏怖を覚えてしまうほど。
思わず反らした目線の先では、巨大魔法陣から立ち上る軽魔素が揺らめく粒子となり、何かを形作っている。
創世を思わせる光景は神々しく、美しく。思わずそのまま見入ってしまう。
呆けたように佇む私の傍らでは、モレナを筆頭に大量にあった食糧を次々に魔導師に届けられ、すぐさまその偉大なる腹へと納められていく。
そして、ついにその時がくる。
魔法陣による創造の時が終焉し、私の目の前には見たこともない建物が存在していた。
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