第25話 お菓子の家?お菓子の城を所望する。

 寮が出来てから数日後、俺は雇用した面々の戦闘訓練の様子を見にいくため、歩いて近くの平原に向かっている。


 寮が出来たときの皆の驚きは凄まじいものだった。しかし、中に入ってからの驚きはそれを軽く超えていた。


(なにせ、俺が想像する日本式の寮だからな。ここの人間達から見たら異質で仕方ないだろう。結局あの日は寮の中の案内と、各設備の使い方説明で終わってしまった。)


 俺は数日前のことを思い出しながら足を進める。


(次の日から順々に入居が始まったわけだが、あの騒ぎは今思い出すだけでも頭が痛い……。特に、ゲコリーナだったか。奴は地下に作った大浴場に住むとか言い出すし。俺も寮に住むと言ったら、やれ部屋の場所が、誰が隣の部屋にするか等々議論が噴出するし。あとは、あれだ。寮の名前を決めろと言われたのも困った。)


 もうすぐ訓練場所が見えてくる頃だが、俺の脳内愚痴はとどまることをしらない。


(ネーミングセンスない俺に考えさせるなと、声を大にして言いたい。やけくそで決めて来たから、着いたら盛大に告知してやる。後悔するが良い!)


 俺が訓練場所に着くと、今は模擬戦闘をしているみたいだ。人垣ができている。


 俺が近づくと、人垣が割れて、道ができる。モレナが近づいて来て話し始める。


「ユタカ様、ちょうど始まったところです。こちらに席を用意していますのでどうぞ。」


 案内されて行くと、そこには簡易的な椅子とテーブル、飲み物が用意されていた。


 ありがたく、よっこらしょと座り込む俺。

 椅子が低くて腹がつかえるが、そのまま飲み物を飲む。


 こちらを伺っていた周りの視線も、俺が座って飲み物を飲んだことで、模擬戦闘に戻っていった。


(やれやれ。わざわざ寛いだ姿を見せないといけないのが面倒だ。まあ、これでも一応雇用、被雇用の関係だから仕方ないか。)


 俺も模擬戦闘に視線を移しつつ、モレナに話しかける。


「モレナ、この模擬戦闘で順列付け、グループ分けをするんだったよな?」


「はい、単純な戦闘能力だけでなく、戦闘スタイルも加味して小隊を編成しようと思っています。」


「うむ、平均的な隊より、特化型の揃った編成で頼む。」


 俺は頷きながら答える。


 目の前の戦いはちょうど勝負がついたところのようだ。二人とも鈍器を装備して戦うスタイルだ。

 一人が立った姿勢で手に持つハンマーをピタリと、座り込むもう一人にすんどめしている。


 どうやらこの世界では鈍器を使うのがスタンダードなスタイルらしい。


(そういえば、シルシーもハンマー使っていたよな。重魔素での身体強化と相性がいいんだろうな、多分。)


 俺は勝った方の女性、確か名前はリードマリーに、一言声をかける。


「素晴らしい戦いだった。」


「はっ、ありがとうございます!」


 これが今回の俺の仕事らしい。


(やれやれ、柄じゃないんだがな、こういうのは。)


 俺は自分も食べるついでに魔法陣で、黒飴を大量にテーブルを出して、戦った二人へ飴をあげる。そして次の模擬戦闘に視線を戻す。


 負けた方の女性が何故か一瞬うつむき、すぐに、目に力が入り唇を引き結んだ表情で顔を上げるが、俺の視線にはその様子は映らなかった。


 次もハンマーを使い、重魔素の身体強化メインの戦いだった。モレナに聞いた話だとどうやらハンマー使いは、35名中、21名いるらしい。モレナもハンマー使いとのこと。

 武器の用意が楽なんだと言っていた。壊れても、木と石で自作するらしい。


 このモレナを抜いた20名を二つに分け、メインの歩兵小隊にする予定だ。

 しかし、単純に一小隊10名で分けるのではなく、少数精鋭とその他に分ける。

 この世界は、魔素があり、食糧摂取での戦闘能力の強化もある。個人の力量差が前の世界に比べて著しい。それを加味しての編成となる。


 そうこうするうちに、20名のハンマー使い達による模擬戦闘が終わった。

 俺は勝者に声を掛け、戦ったもの達全員に黒飴を下賜し、モレナがそれぞれの戦いをチェックした。


 次に、二人だけいる弓をメインで使う者達が腕を競い合う。

 的が用意され、互いに五射づつ的に矢を打ち込んでいく。

 どちらも外さない。


 仕方ないので、距離を離して再度勝負をするらしい。俺はその様子を黒飴を舐めながら眺める。

 どうやら勝負がついたようなので、言葉を掛け、黒飴を渡す。


 次は魔法陣を使い、武器がナイフやショートソード等の者達が戦う。これがまた10名いる。


 皆、善戦しているように、素人の俺の目には映る。だいたい皆、手のひらに「射」の神象文字を描いた遠距離からの軽魔素の撃ち合いになっている。


 これはすんどめが効かないので、ある程度様子を見てモレナが戦闘を止めている。


 しかし、それでもやはり傷を負うものが絶えず、その度に俺が『癒』の魔法陣を傷に描いていく。

 いざとなれば『戻』も使う気でいたが、運良くそこまで重傷を負うものは出なかった。


 四組、8名が終わったところで、モレナが俺の方に来て言う。


「残った4名がこの中で最も強い4名になります。魔法陣をサブで使う細剣使いのミレーナ、籠手を装備しているガンゾール。この二人の人間族と、蛙人のゲコリーナ、蟷螂人のマンルーです。ミレーナとゲコリーナ、ガンゾールとマンルーの組み合わせで良いですか。」


「ああ、それでいい。あと、そうだ、皆、聞いてくれ。」


 俺はちょうどいいからと、こちらに注目が集まっているうちに皆に向かって声をはる。


「皆が住む寮だが、名前を決めた。黒水寮(コクスイリョウ)とする。」


 何故かシーンとした後に、誰からともなくざわざわと声が上がる。


「黒水寮か、それじゃあさしずめ、うちらは黒水隊か」「黒水隊、いいな」「黒水隊か、格好いいかも……。」


「静粛に!」


 モレナが一喝した後にこちらを伺ってくる。


(由来はコーラなんだが……。まあ、いいや、なるようになれ。モレナがこっち見たのは、黒水隊の名称も追認しとけってことだよな。)


 俺は咳払いしてまた、声をはる。


「君たちは、これより栄光ある黒水隊の一員となる。これよりの模擬戦闘は黒水隊の最強の座を決めるものとなるだろう。しかし、それはいつでも変わりうるものだ。皆、励みたまえ。」


「黒水隊、万歳!」


モレナが叫ぶ。何故か、黒水隊の面々もそれに合わせて声を上げる。


「万歳!黒水隊、万歳!」「黒水隊に栄光を!」


「黒水隊、最強の座をかっさらえよ、ミレーナ!」「ガンゾールも負けるなよ。」「ゲコリーナもマンルーもしっかりな!」


「では、これより模擬戦闘を再開する!ガンゾールとマンルー、前へ!」


 これが、後の世の歴史に残る黒水隊の名称が決まった瞬間であった。

 デブイユタカのコーラ愛が詰まった名称が。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る