第26話 やっぱりお菓子の国がいい
ガンゾールとマンルーが進み出てくる。
ガンゾールは黒水隊では、珍しい男性隊員だ。鋳掛けの一族出身で、その両手には、指先が出ている鉄製の籠手が両手にはめられている。自作の籠手らしい。
原色を多用した服装をしている。
ガンゾールの一族は、戦争と飢餓から逃げて放浪していたところ、コレー村の噂を聞きつけてこの地方まで来た。
近隣の村や集落を回って鋳掛けの仕事をしながら二、三週間に一度ぐらいの割合でコレー村に来て、俺の出した食糧を受け取っている。
また、鋳掛け屋達は、黒水隊に人を出してくれている別の集落で、コレー村まで取りに来る余裕のない集落へ食糧の輸送も担ってくれている。
ガンゾールは立ち止まると指先をひらひらとさせる。いつの間にか、その指先にはカードのようなものが挟まれている。
表返して、絵柄をマンルーの方に向けながら、ガンゾールは口を開く。
「山のカードか、なかなかの強敵のようだ。お手柔らかに頼むよ。挨拶をするのは初めてだったかな、マンルー嬢。鋳掛け屋のガンゾールだ。」
そうしてキザに一礼をすると、いつの間にか指先のカードが消えている。
相対するマンルーは蟷螂人の女性だ。しかし、その見た目はほぼ、人間のそれと変わらない。ほぼ二足歩行の蛙といった風貌のゲコリーナとは対照的である。
自己紹介された時に、鎌と羽が意識して出し入れが出来ると見せてもらった。羽は背中に収納されていて、普段は背中の空いた服を来てポンチョのようなもので覆っている。鎌は、手首の部分を起点に、腕が開くように飛び出して出てくる。そのため、普通に指と手のひらがあり、そちらにも武器が持てるそうだ。
そのマンルーは両手にククリナイフを持ち、くるくると手のひらの中で回しながらガンゾールに答える。
「けっ、きどった野郎だね~。いっちょ揉んでやるから、さっさとかかってきな。」
モレナが二人に声を掛ける。
「両者、静粛に!それではこれよりガンゾールとマンルーの模擬戦闘を始める。両者相手に重傷を負わせないように気をつけるように。それでは、はじめっ!」
(モレナは真面目すぎるな、ちょっと)
俺がそんなことを考えていると、ガンゾールとマンルーはゆっくりと歩いて近づいて行く。
二人の距離が縮まり、最初に手を出したのはガンゾール。
鋭く一歩踏み込み、低めのストレートを放つ。
マンルーはククリナイフを交差させ、受け止める。
ガンゾールの籠手が、軽魔素の光を放って爆発する。宙に吹き飛ばされるマンルー。
しかし、マンルーは落ち着いた表情で背中の羽を広げると、空気抵抗を活かして速度を殺し、フワリと地面に降り立つ。
また、両者はゆっくりと近づいて行く。
その間に俺はモレナにきく。
「今のはなんだ?」
「籠手に魔法陣を書いたカードを仕込んでいるのでしょう。たぶん、模擬戦闘前に見せた山のカードと言っていた物かと。」
その間にも、近づいたガンゾールとマンルーは激しい打ち合いを続けている。
俺の素人目には早すぎて細かい所までは追いきれない。
ただ、ガンゾールの方が押しているように見える。
マンルーはガンゾールの先ほどの籠手の爆発を警戒しているようだ。ガンゾールの打撃を避けることが多い。その分、攻撃の手数が減っている。
相変わらず至近距離で打ち合う二人。その時、ガンゾール籠手から、ひらりと何かが落ちる。
(カードを落とした?)
ガンゾールの爪先がそのカードの端を踏むと、そこから上に向かって軽魔素の光の矢が打ち出される。
光の矢はちょうどマンルーの左のククリナイフに当たり、マンルーの体勢が大きく崩れる。
空いたマンルーの腹部に向かって放たれるガンゾールの渾身の左ストレート。しかし、マンルーは羽を広げフワリとその拳を避けると、切り上げるように右手のククリナイフを振るう。
ガンゾールは目の前に迫るククリナイフを首を動かし、紙一重でかわす。その時、マンルーの鎌が開かれる。鎌の先端がガンゾールの頬をなぞるように走り、一筋の傷が生じる。
飛び散る血。
「そこまで!」
モレナの静止の声がかかる。
ガンゾールとマンルーはゆっくりと離れる。
「はっ、色男になったじゃねえか、キザ野郎」
マンルーがガンゾールに声を掛ける。
「おやおや、傷物にされてしまいましたな。」
ガンゾールは血の滴る頬の傷を指先でなぞりながら答える。
「なんだ、はじめてかい?喰われたかったらいつでも婿にもらってやんよ。」
「遠慮しときましょう。これでも命は惜しいんでね。」
「両者静粛に!」
モレナが止めてくれたので、俺は勝ったマンルーに声を掛け、両者に黒飴を渡すとガンゾールの傷に『癒』の魔法陣を描いた。
そして、いよいよ模擬戦闘も大詰め、ミレーナとゲコリーナが進み出てきた。
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