第15話 もち。もち。もち。食べ飽きてからが勝負。
赤っ恥の検証作業を終え、村に戻る。
村では既に食事の準備が着々と進んでいた。
俺も調理している村人達にすぐに混じり、要望に応じて塩やら油を追加で魔法陣から出して行く。
今日も狩りの獲物があったらしく、メインは肉らしい。
広場の中央に仮設の大きなかまどが組まれ、村人達が数人がかりで大きな肉をゆっくりと回しながら焼いている。
俺は近くで調理している村人にきいてみる。
「なあ、あれは何の肉なんだ?」
調理している村人の女性陣は何故か顔を見合せクスクス笑い始めるが、一人が答えてくれる。
「あれは草原の先の湿地帯で獲れたビッグポーという生き物の肉です。ビッグポーは普段は温厚で草食ですが、縄張りに入るとその大きな口を開けて襲ってくるんです。数人がかりで罠で捕るんですよ。」
「へー」
俺はなぜぐずぐず笑われたのか釈然としないが、ビッグポーがカバみたいな生き物かと想像する。
(カバって地球じゃだいぶ強い方の生き物だった気がするけど、ここの村人達に獲れたのはすごいな。みな、あんなに小さいのに。)
俺はそう思いながら村人達を見回す。
(あれ、そんなに小さく見えない?初めて見たときより、大きくなってないか?)
「なあ、皆、大きくなってる?」
調理している村人の女性陣は再び顔を見合せクスクス笑い、先ほど答えてくれた女性が再び答えてくれる。
「もう。ユタカ様、なにいってるんですかぁ」
「いや、そうだよな。ごめん。」
「そうですよぉー」
俺は気まずくなってそそくさと焼かれているビッグポーの方に向かって歩き出す。
背後からは相変わらずクスクスと声が聞こえる。
(か、かなわんなー)
肉を焼く村人達に軽く声をかけて、近くで焼くのを見せてもらう。
どうやら肉を回している村人達が獲ってきたらしい。みな、ガリガリの人は一人もいない。血色も良く、腕には女性ながらうっすらとしかし、はっきり筋肉がついているのがわかる。
(あれ、こんなに逞しそうな村人いたか?)
俺はここでも疑問に襲われるが、先ほどのことを思い出して口には出さずにいる。
疑問だけがくるくると頭のなかを巡る。
仕方なく、違うことをきいてみる。
「昨日の今日で狩りに出て危なくはなかったのか?人食いの獣が出たんだろ?」
「ああ、それなら無事に討伐してますよ。襲ってきたところを返り討ちです!」
串で肉を回している村人の女性の一人が自慢げに答える。
「毎日美味しいご飯のおかげです。ありがとうございます。」
続けてお礼を言われてしまい、照れる俺。
(ご飯がおいしいと狩れるようになるものなのか……。旨いメシに勝るモチベーションアップのものは確かに無い、が。)
俺は疑問に思いながらも飯が旨いからという理由で納得してしまう。
どうやらそろそろ肉も焼け上がるらしい。
油の焼ける香ばしい香りが辺りを漂う。
いつの間にか集まり初めている村人達。この日も皆での宴会となった。
俺は切り取ってもらった焼かれた肉をご飯で包み、肉おにぎりにして食らう。
それを見ていた村人達も真似をして、その日の宴会は肉にぎりパーティーとなった。
その日の夜、皆が寝静まった頃、俺は何かを感じ、眠りから覚醒する。
辺りは相変わらず、シーンとしている。
そのまま二度寝しようとするも、何故か目が冴えてしまい寝付けない。
こうなるとしばらく寝れない自分の体質にため息をつく。
そっと体を起こし、寝ぼけまなこのまま、重魔素を回転させていく。
右手を光らせ、その光を頼りに身支度を最低限整えると、そっと部屋を抜け出す。
そのまま外へと出る。
外に出ると空を見上げる。空には、二つの月が見える。
テリータにちらっと聞いていた時刻がわかる方の月を見る。どうやら真夜中を少し過ぎたぐらいのようだ。
キョロキョロと辺りを見回す。
(何でもない、か。日が沈むと共に寝てるから、夜中に目が覚めただけかな。お腹減ったなー)
俺はせっかく重魔素を回しているので、左手に「餡」と書き、魔法陣を完成させる。
出てきたこし餡を食べながら夜の散歩と洒落こむ。
「いつでも甘いもの食べれるのは、最高だよな。手が汚れるのだけ難点だ」
俺はペロリと食べきってしまったので、おかわりのこし餡を出しながら呟く。
二杯目のこし餡をもう少しで食べ終わると言ったその時、村の外壁の壁の方から、カーン、カーン、といった甲高い音が響いてきた。
辺りが一気に騒がしくなる。
各家から、寝間着のままの村人達がどんどん飛び出してくる。
手にはそれぞれ、得物らしきものをにぎり、殺気だった様子を見せる。
急に変わった村の様子にぽかんとしていた俺だが、村人達が皆同じ方に走り出すのを見て、追いかけてみることにする。
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