第13話 腹一杯で寝るのは健康に悪い?だが、その幸福感にまさるものはない。
肉と塩むすびを食べ終わる頃には夕方になっていた。
気を失っている間に、時間が大分たっていたらしい。
こちらの文化では、日が沈めば基本的には皆寝てしまうそうなので、昨日に引き続き今回もテリータの家の客間を借りて寝ることにする。
(昼間、意識を失ってたけど、俺、寝れるのかな。そろそろお風呂に入りたいな……。そういや、色々魔法のこと検証しようって思っていたんだった。バタバタしちゃって全然そんな暇なかったな。魔法陣で怪我を勢いで治しちゃったけど副作用とか大丈夫かな……)
俺はつらつらと今日あったことを考える。しかし、くちくなったお腹を抱えているうちに、意識はとおのき、そのまま眠りについた。
翌日、俺はまた一人で村の外の荒れ地に来ていた。
朝はまた米を魔法陣で出し、村人達と総出で米パーティーをした。
今日はテリータと延び延びになっていた魔法の検証をしたかったが、テリータは昨日の事後処理が忙しそうだったので、遠慮して一人で試せることをしてみるつもりだ。
「一人だと独り言が増えるなー」
俺は重魔素の回転をあげながら呟く。
「テリータが居ないから、テリータの使える神象文字を見せてもらって、二文字以上の漢字の魔法陣の存在の有無を確認するのは後回しだな。とりあえず、あれから試すかー。」
俺は意識的に重魔素の回転を押さえると微量の軽魔素で『米』と書き小さな魔法陣を完成させる。
魔法陣は光ることなく消える。
米も出てこない。
俺は何度も軽魔素の量を変えて、試していく。
何となく、はじめにリリーヌーが火を出したときの十倍から二十倍くらいの軽魔素の量で魔法陣が発動するのを確認出来た。
ピカッと光りポンッと現れた手のひらサイズのミニ米俵を拾う。
「ふーん。米を出すのに魔力の必要な量の制限はあるんだね、やっぱり。これだと、村人に魔法陣を教えるだけじゃ彼女達が食べていくのは難しい、か。」
俺は次に、米俵以外の状態でも出るのか確認することにする。
「とりあえずは炊き上がった「米」を意識して描いてみますかー」
俺はこんなときのために借りてきた木皿の上に、イメージを膨らませて魔法陣を描く。
「艶々と光り輝く粒。しっとりと水気を帯び、ゆらゆらと立ち上る湯気は米の芳醇な薫りに満ち。一粒一粒がピンと立ち上がり、自らを主張すると共に、共に立つ米粒達との調和に溢れた立ち姿。出でよ炊きたてご飯!」
一人なのをいいことに、テンション上げ上げで魔法陣を描ききる。
ピカッと光り木皿の上に一抱えぐらいの大きさの米俵が現れる。
「うわっと」
重くてよろける俺。
「えー。米俵だ。ご飯出てきたら食べる気満々だったのに。」
がっくりしながら米俵をおろす。
「こっそり先に『箸』と魔法陣を描いて男性用の箸を準備していた俺がバカみたいじゃないか」
愚痴りながら、俺は嫌なことに気づいてしまう。
「まさかねー」
俺は嫌な予感を覚えつつ、女性用の赤い箸をイメージして、『箸』の魔法陣を書く。
小さくピカッと光り、男性用の箸が出てくる。
「嘘だろ、おいおい。」
俺は灯油をイメージしながら『油』の魔法陣を描く。
ピカッと光り、サラダ油が出てくる。
次々と色々な油をイメージしながら魔法陣を描いていく。辺り一面にサラダ油が水溜まりのように出来ていく。
俺はサーと血が引く。
「これは、やってしまったかも。オリーブオイルが出せないじゃないか……。塩だって、岩塩とかでも食べたいのに。芋は?さつまいも、里芋、長芋は?」
俺は焦りながら『芋』の魔法陣を描く。
ピカッピカッピカッ。
ひたすら出てくるのは、じゃがいもばかり。
「あああー。」
俺は思わず膝をつき、地面を握り締めた拳で叩きつける。
「芋はこの世界に無い可能性が高いのに。もう、焼き芋も、芋鍋も、とろろも食べれないのかーっ。」
俺の慟哭の叫びが荒れ地に響き渡る。
どれくらいたっただろうか。俺は再び立ち上がる。もちろん、気持ちの整理もつかないし、胸に渦巻く後悔と悲しみは消えない。
しかし、自分を納得させねば先に進めないことを、前の世界でいやと言うほど経験してきた俺は無理やりポジティブに自分を納得させていく。
「デブイユタカ、こう考えろ。これがもし、じゃがいもじゃなく、さつまいもや里芋しか出なかったのなら、俺はポテチが食えなかったんだ。ポテチが至高。ポテチが至高。ポテチが至高。そうさ、じゃがいもでよかったんだよ。はじめにじゃがいも出した。だから俺はこれからもポテチが食える。ポテチが食えるんだ、俺はやれる俺はやれるぞ!」
俺はしっかりと地面を踏みしめ、叫ぶ。
「ポテチこそ、至高ーっ!」
はあはあと荒い息を整えつつ、ふと呟く。
「うん、最初に出した芋がじゃがいもだったら、じゃがいもしか出てこない?最初に米俵出したから、『米』と描いても炊いた飯は出ない?」
俺は、高温の青い炎を意識して、軽魔素多目に『火』と描く。
魔法陣の上に、大きめの赤い炎が出る。
「これって、もしかして、この世界ではもう『火』と描いても赤い炎しか出ないんじゃ。」
俺は魔法陣を軽魔素の線で崩して火を消す。
「俺が、この世界で初めて使う漢字のイメージで、出てくる物が固定されちゃう可能性がある、ってことだよな。気軽に新しい漢字とか使ってたら……」
俺は自ら気づいてしまったことで、新たなる悩みを叫んでしまう。
「俺のこれからの選択次第で、食べられない物がでてきちゃうじゃないかーっ!」
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