第46話 王宮内戦闘!
「無事に叙爵までこぎつけられて、本当に良かったよー」
王宮内を歩きながら、サリエル王子は上機嫌でラフィオンに話しかけていた。
「王宮にさ、火竜に乗って降りてきてくれたのは本当に効いたねー。運よく父上や、ちょうど王宮に来ていた諸侯も目撃することになったから。おかげで君への叙爵についても、爵位についてちょっと議論があったぐらいで、こちらの提案はおおよそ通ったからね」
「爵位は……高すぎではないかと、今でも思っていますが」
ラフィオンはそこが心配なのかしら。
先ほどは堂々としていたのに、今はちょっと所在ない感じ。でも、男爵の子供で次男となれば、爵位など無いも同然。騎士は諸侯や王が直接召し抱えるものだから、やっぱり貴族の端くれとはいえ、下に見られやすい立場だ。
王や王子の命令、という大義名分がなければ、貴族達は彼らの話なんてまともに聞いてはくれないだろう。
私の故国ルーリスだって、そんなものだものね。
でなければ身分の上下が定まらなくて、右往左往する人が増える。
身分差が明確に決まっているという習慣が根付いてしまっている以上、もしそれを壊したいのならば多大な努力と時間、もしくは革命が必要になってしまう。
サリエル王子は、そういうところも不安に思って、ラフィオンの爵位を高くしたようだ。
「代わりに一代限りだよ。それなら伯爵でも問題ないだろうということになった。男爵の子が火竜を呼べるだけで伯爵に、というのは反発する貴族が多くてね。
君への不満になって、君の発言力が弱まってしまっても困るし。それに次の代の王は僕だ。僕が改めて正式な伯爵家として認定すれば、一代限りということもなくなる。」
なるほど一代限りだったのね。
でもラフィオン本人にだけ与えられるものだから、という理由であれば、火竜を召喚できる魔法使いに褒賞を与えて、王家の味方として留めておくんだ、と言えるものね。
「一代限りというのは、他の貴族達にもいい餌になるからさー。それよりも下位の貴族は、君と結婚で結びつきができれば、火竜の召喚ができる血筋を自分の家に入れられると思うだろうし。
上位の貴族もね、自力でそれだけの名誉を勝ち取った君に、永続的な爵位を与えるって餌で、自分の懐に取り込もうと好意的に扱うだろうしー」
そこでサリエル王子が、ニヤッと笑って言う。
「お嫁さんを選び放題だよね、ラフィー。とりあえずは……」
サリエル王子は、衛兵が開いた白塗りの扉の向こうへ足を踏み出し、王宮の渡り廊下を歩き始めてから続きを口にした。
「それでも、バイロン公爵の一派には近づかないで欲しいけどね」
「御恩を頂いたことは忘れませんし、あちらは兄が与している可能性が高いので」
「そういえばそうだってねー。……君に対抗するため? ってわけじゃないんだよね。どうも君のお父さんの代からのようだから」
ラフィオンがうなずく。
サリエル王子の政敵は、父王の従弟バイロン公爵だ。グレーティア王女が結婚させられるかもしれない、と言っていたのもその公爵なので、関係者とは縁を結んでほしくないことだろう。
レイセルドもバイロン公爵の仲間になっているようだけれど……。父親の代からなの?
「ええ……そうです」
答えるラフィオンも、どこか歯切れが悪い。
「なんでか理由は知っているのかい?」
サリエル王子に問われて、ラフィオンが応えあぐねていた時だ。
広い庭の間を突き抜けるように作られた渡り廊下は、壁のない列柱回廊になっている。
もうすぐサリエル王子の宮に到着するというところで、不意に左手側から氷雪が吹きつけた。
振り向けば、庭に氷をまとった青い馬が数頭現れている。
馬たちはいななきを上げて、ラフィオン達に向かってきた。
「早く殿下を!」
一緒にいた近衛隊長のトールが、サリエル王子を早く宮の建物の中に避難させる。
その間にラフィオンは召喚を行った。
「来い、冥界の息吹!」
ラフィオンのすぐ手前にある地面から、黒い煙が吹き出した。
煙というより……小さな蝶?
真っ黒な蝶達は氷の馬の足に絡みつき、その動きを止めようとする。でも二匹だけしか足止めできなかった。
残り五頭は、回廊へ突入してくる。
サリエル王子は避難させられたようだ。残った騎士達が馬に向かって剣を抜いた。
けれど剣では馬達を覆っている氷を打ち砕くこともできない。
騎士達は剣から、魔法を使う方向に転換した。
庭へ誘導して炎を浴びせるものの、溶ける速度は遅い。
それにしても、前は召喚がなかなか上手くいかないと言っていたのに、今はケティルの他にもいろんな召喚魔法が使えているみたい。とはいえ、この影といいケティルといい、なんか冥界系ぽい精霊が多いような気がするのだけど。
……もしかしてラフィオンって、私と同じく冥界体質に偏っているのではないかしら。
だめだめ。私もじっと見ている場合ではないわ。
まずは召喚実験!
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