第32話 呼び出された理由
どう説明しようかしら……。
私は精霊の庭で当初の問題に立ち返っていた。
手紙を出してもらったのだから、結果を伝えなければならない。けれどこう、ラフィオンががっかりしないように伝えたいのだけれど、上手い案が思いつかないのよね。
「ごめんなさい、せっかく手紙を出してもらったけれど……っていうのは、もうすごく暗くてだめよね」
私が落ち込んだことがはっきりとわかってしまう。もっと「気にしていないわ」という感じにしたい。だけど軽い用事でラフィオンの手を借りたと思われては、彼も気を悪くするかもしれない。
「ありがとう手伝ってくれて。私もちゃんと手紙を受け取れたみたい。でも変えがたい運命だったらしいの。ラフィオンには迷惑をかけてしまったのに、こんな結果になってしまって……。やっぱり暗いわね」
これはもう、嘘をつくべきかもしれない。
少し前までメソメソとしていたけれど、ラフィオンと話せるようになったせいか、前よりも絶望的な気持ちにはならなくなったおかげで、今なら天寿を全うしたわ! と喜んでみせることができるもの。その方がラフィオンも喜んでくれるわよね?
「よし」
決めた、と思った瞬間。
……私はラフィオンに呼ばれた。
目の前で、光を浴びていたエリューの姿が無くなる。
代わりに見えたのは、どこかの家の中。狭さと、以前見たラフィオンの部屋とは違うから、私室ではないんだと思う。
そしてさっきのずぶ濡れの姿からは一転、身綺麗にしたラフィオンの姿があった。
「これ、マーヤか?」
ラフィオンは間違いなく私の方を見ていた。
そっと手を差し伸べて、私を掌の上に乗せるような仕草を……てことは、光る球みたいに見えてる?
『え、私どう見えているの?』
「半透明の球体……だな」
『あら。そうしたら他の人にも見えちゃうようになったのかしら?』
そうすると、この状態でいるのは危ないかもしれない。ラフィオンの側から離れられないもの。きっとそれは何だと不審がられてしまうわよね。
「いや……鏡を見てみろ。映ってない」
『あ、本当だわ』
壁にかけられた小さな鏡。そこにラフィオンの姿が映っているけれど、掌の上には何も見えない。
ほっとしながら、ラフィオンに尋ねた。
『何かあったのラフィオン。それとも、何か話したい?』
「あ、うん……話と言うか。聞きたいことと、して欲しいことが……あってだな」
ラフィオンは歯切れ悪く言った上で、話が漏れ聞こえるのを警戒してか、心の声で会話を進めてきた。
『まずさっきの火焔鳥。あれは君が召喚したんだよな?』
『そうよ。ケティルができるって言うから。前に森の中から脱出しようとしてケティルに会ったこと覚えている? その時、ゴーレムの体を維持するためにケティルから力をもらったのだけど、それでちょっと私、冥界に通じやすい体質になったみたいなの』
……くれぐれも、他の人の召喚に応えて、悪化させたことは言わないようにしなければ。
『それで、火喰い鳥の遺骸を使えば、冥界を通じて私が名前を知っている精霊の仲間を呼べるって、ケティルが言ったの』
『なるほどな。あの鳥を呼び出したのが、マーヤだと思われると大変だから、どう言い繕おうかと思っていたんだ。それなら、適当に言い逃れできそうだな。召喚魔法使いは他にはいないから』
あ、私アラルと一緒に蛇の中から出て来てしまったものね。
ものすごく不審なゴーレムよね……。
『言い訳できないような状態にしてしまって、ごめんなさいラフィオン』
『謝らなくていい。むしろ助かったんだ。討伐する方法が他には無かったからな。俺も実際に相対するまで、相手を甘く見過ぎてた。もっと準備や計画を練っていれば……』
ラフィオンはやや悔し気だ。けれどその表情も、次の話をしようとする時には、やや言いにくそうに照れたものになる。
『それで……もう一つなんだが……。これから王子達との話を、マーヤにも聞いてほしい』
『私が?』
『召喚のことで、言い繕うために協力してほしいのと……。できれば一緒に聞いて、気づいたことがあれば教えてもらえたら』
私は飛び跳ねそうだった。
ラフィオンが、私を頼ってくれてる!
とても嬉しかった。そのために、衣服を替えたりしてからすぐに私のことを呼んでくれたんだろう。
『もちろんよラフィオン! 私が協力できることならなんでも!』
『うん……』
『でも、どうして?』
正直、今までラフィオンが私にこういった頼り方をしてくれることはなかったというか。……まぁ、できなかったけれども。
だからラフィオンは今まで、自分で色んな問題に対処してきたはずだ。
今日はどうしてか、不安になってしまったのかしら?
『召喚に関しては……できれば、精霊の君の意見も聞いてみたかったんだ。それに、君は貴族だろう? 未来の君は俺よりも年長で、だから何か気づいたことがあればと……』
『任せてラフィオン! 私は頭のいい方ではないし、違う国の人間だからアルテ王国については詳しくないけれど、それでもできるだけのことをするから!』
ラフィオンの言葉で、私はなるほどと察した。
たぶん正式な騎士になってから、貴族としての振る舞いとかを求められるようになってきたのではないかしら。それで、一番真似をしたい親が側にいないから、私に頼ってくれたんだわ。
彼のためにできることがあるのは嬉しい。
あとで悲しい報告をしなくてはならないのだもの。少しでも役に立って、恩返しをしておかなくては。
『そうしたら、万が一のことがあるから、ここに入ってもらえるか?』
『わかったわ。隠れるわね』
私はラフィオンの襟元に隠れて、サリエル王子達がいる部屋へと向かった。
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