第47話 初めての召喚
『モリー! この時間あなたがいるなら、どうか来て!』
同属性ならば、呼べば来ると言っていた。だけど私は冥界よりらしいので、モリーとは属性が違うものね。だからこれで彼女が来なかったら、ケティルを呼ぼうと思っていた。
一度呼んだだけでは、届かないかもしれない。
私はもう一度モリーの名前を口にしようとして……ふっと自分の中から力が抜けるのを感じた。
同時に、足止めをされている馬の近くで、土がぼこっと盛り上がって大きなモグラが姿をあらわした。
ふわっとした灰色の毛のモグラは、瞼を開けてくりくりとした黒い目を見せてくれる。
『モリー!?』
『呼んでくれた! やったわねマーヤ! 早速マーヤが欲しい物をあげる』
モリーは一声きゅーっと可愛い声で鳴く。
すると近くの土がぶわっと盛り上がり、ゴーレムの体を作り上げた。
すごい、モリーのゴーレムはちょっとモグラっぽくて可愛いわ! 手の先が爪っぽくなっていて、攻撃力が高そう!
『でもどうやってこの体に入ったらいいかしら?』
『あたしが呼んでもいいかなと思ったけど、マーヤって今召喚されている状態でしょう? だから無理かも?』
そうだった、ラフィオンに召喚されてる状態だったわ!
ラフィオンを見れば、モグラ型ゴーレムの姿に、やや諦めの表情を見せていた。
一つため息をついて、観念したように言う。
『マーヤ』
ラフィオンの魔力の導きで、彼が指さしたモグラ型ゴーレムの中に吸い込まれて行く。
あっと言う間に、私はゴーレムの視点になっていた。
『ありがとうラフィオン! これで戦えるわ!』
私は喜び勇んで、動き回っている馬達に向かって行った。
炎を浴びせられても、多少痛いくらいらしい馬達を、後ろから鋭い爪で薙ぎ払う。
キーッと馬とは思えない声を出して、氷ごと背中がえぐれた。
わ、なんだか本当に強いわこの攻撃!
でもえぐれた部分も、なんだか青白い粘土みたいでお肉が見えたりしなくて良かったわ……。ちょっと見た目が宜しくないものね?
馬達は、ラフィオンが庭に降りるとそちらへついてくる。
やっぱりラフィオンが目的だったの!? 叙爵されて発言権まで強くなった彼を殺したがる人は沢山いるでしょうから、犯人の候補は沢山いそうね……。
私はラフィオンに襲いかかる馬の首元を抉る。やっぱり粘土の像を削ったようになった馬だったが、首が折れた瞬間に白い泡になってふわんと姿を消す。
よし、首を狙っていきましょう。
私は次の馬に襲いかかる。
それを見た他の騎士達が、他の馬が邪魔をしないように押さえ、ラフィオンが足止めをする。
私の一撃で、馬が泡になって消える。
繰り返して行った末に、ようやく馬達は全て始末することができた。
戦闘を見届けたモリーが、ケラケラと笑う。
『片付いたみたいだねマーヤ。面白かったから、また呼んでくれていいよ』
『とても助かったわモリー! それに嬉しい申し出をありがとう! ぜひ次もご協力頂きたかったの!』
『これぐらいならお安い御用だよ。じゃあね』
モリーは短い別れの言葉を伝えて、土の中に潜った。
成人女性と同じくらいの大きさのモリ―が、どうやって土の中にするっと入れるのかしらと思ったけれど、モリーは精霊ですものね。何でもできるのだわ。ケティル達がどこからともなく現れるのと同じよね。
『ラフィオン、無事ね?』
次に私は、ラフィオンの安否を確認した。
彼はやや疲れたような表情だったけれど、どこにも傷はない。むしろ他の騎士さん達の方が、馬に激突されたりしたせいで怪我をしているみたい。
『俺は何ともないが……』
ラフィオンはため息をつきながら前髪をかき上げ、それから少し恨めしそうな目を私に向けた。
『後で話したいことがある、マーヤ』
『ええ』
今は戦闘の事後処理とか、ラフィオンはサリエル王子の安否の確認もしなくてはいけないし、犯人も探さなくてはならないものね。
周辺の警戒は、近衛隊長のトールが宮に居た衛兵や騎士を数人使って行った。そのうち二人は警備を厚くするために、他の王宮の衛兵を集めてくるそうだ。
その間の補助にと、ラフィオンは召喚術でまたあの黒い影のような蝶を出現させて、王子の宮の周辺をとりまくように待機させていた。
それからラフィオンは、サリエル王子の元へ行った。
「あ、終わったんだって? ラフィーが狙いだったって聞いたけど」
一階の居室の一つで、ソファに寝そべっていたサリエル王子が言うと、ラフィオンがうなずいた。
「叙爵すれば攻撃はあるかと思いましたが……。予想より早すぎました」
「そうだねー。僕等も王宮内じゃなくて、ラフィーのために王宮外に借り上げた屋敷に君が行く途中で、襲撃があると思っていたからね。ちょっと油断したかなー」
なるほど。王子達はここではない場所でラフィオンが襲われると思って、対策をしていたのね。
「こうなると、外に行くともっとすごく何かしかけてそうだなー」
「今の襲撃を退けたことで、こちらは警戒すると思うのではありませんか?」
ラフィオンの問いに、サリエル王子は笑って答える。
「犯人があの人なら、警戒してラフィーを送り届けた後、こっそり屋敷に何かしかけておいてとんでもないことをするとか、そういう可能性もあるから」
「ですが、今の攻撃には召喚魔法が使われていました。召喚魔法が使える血筋の貴族はそう多くありません。間違いなく犯人は、レイセルド・セネリスでしょう」
「でもその後ろにいるのは、バイロ公爵だ」
バイロン公爵なら、警戒しているからこその策を使うというのかしら?
「あのおじさんは意地が悪いからね。予定通り、君の活動拠点も生活拠点も、僕の宮の中にしておくといいよ。今日はあちらに行かないで、少しゆっくりしたらいい」
なんでも……とサリエル王子が言葉を続けた。
「精霊を二種類も呼んで、ゴーレムも召喚したと聞いたよ。疲れているだろう?」
「…………はい、お言葉に甘えさせていただきます」
ラフィオンはいつもよりやや長い沈黙の後、サリエル王子にそう答えたのだった。
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