第27話 ちょっとだけ冒険してみたけど?
手紙を! 送った!!
「ばんざーい!」
ラフィオンにそう教えてもらった私は、精霊の庭に戻ってから一人でくるくる踊っていた。
「これで私、寿命が延びるわー!」
目的を達成した喜びは強かった。
……強かったけれど。三日後、すぐに不安にとってかわった。
「……手紙ついたかな?」
『さー?』
近くを浮遊していた鳥型の精霊が、私のつぶやきに相づちをうってくれる。
ええ、わかるわけがないわよね。
それに多少ばらつきがあるとはいえ、三日だと一か月くらいしか経過していない時もある。もう少し時間がかかるかもしれない。
そう思った私は、さらに三日待った。
ラフィオンにも呼ばれないから、何か月経ったかわからないけれど、少なくとも二か月は経過しているはず。
特に何かが起こった様子はない。記憶が変わった感覚がないの。
念のため、エリューに保存をお願いしていた記憶を見つつ、自分の記憶に変化がないかを確認してみたのだけど……。そのままみたいなのよ。
「はぁ……」
ため息をついてしまう。
手紙、届かなかったのかしら。運んでいる人が燃やしちゃったとか。海を越える時に、船が……とか。途中でヤギが食べてしまったとか。
悪い想像ばかりしてしまって、止まらない。
こんな時にはラフィオンに呼ばれて、何か仕事をすると気が晴れるのだけど。
「ラフィオン、私のこと必要なくなったのかな……」
ラフィオンに会えないのも寂しい。
ゴーレムなんてそんなに強い召喚物でもないみたいだし。この間は私と同時に、ケティルを呼び出していた。
しかも会話していたのよね……。見ていて、少しケティルに嫉妬してしまったわ。
「私ももっとお話したいのに」
舞踏会の日は、とても沢山話せて嬉しかった。
手の甲に口づけられた時は、ちょっと……恥ずかしかったけれど。
でもラフィオンは、たぶん感謝の表現でそうしただけだと思う。だから手紙のことを教えてくれた日も普通に対応してくれたのでしょう。
それいにしても、どうやったらケティルみたいに話せるのかしら。
「エリュー。召喚主と話そうと思うと、力が強くないとだめなの?」
『おやおや今度は会話がしたいときた。先日、お前が卵のままでいられるようにした時に、人の姿で顕現して話もできたと言っていたのに』
「いつでも話したいのよ。そっちは危ないとか。わかったわって返事をした方が、ラフィオンもやりやすい時があるでしょうから」
エリューはあきれ顔だったが、それでも知っていることは話してくれた。
『そうだねぇ。現世に生まれたら、召喚主とは話せるのだけどね。卵が……ということになると、先日のように何かきっかけが必要だろうね。それでも召喚主とだけになるとは思うけれど……』
「きっかけ……」
お話しできるのが召喚主だけなのは問題ない。
『あとはそうだね、召喚主との結びつきが強ければ……あり得ないことではないだろうね』
結びつきって、魔法的なものよね? でも強化する方法なんてよくわからないし。名前を知っているだけではダメだというなら、私にはもう思いつけない。
あとはきっかけね……。
その時、日に何度かある召喚の呼びかけ、が耳に届いた。
いつもは答えない。
けれど今日はふと思ったのだ。
私、ラフィオン以外に召喚されて、経験を積んだら……何かきっかけがつかめるかも?
だから思いきって、初めて別な人の召喚に応じてみたのだけど。
……あら? ここって地下室かしら?
暗い。石積みの壁がむき出しで、壁にランプがいくつか掛けられて明かりを確保しているみたい。
そして壁には、いくつもの長櫃が立てかけられている。蓋のないそこには……え。人の形をした人形がいっぱい?
目の前には二人の男性がいる。
片方は少し長めの金の髪を結んだ人。もう一人は茶色の髪の魔法使いらしいローブを着た人。
「手を上げてみせろ」
茶色の髪の男性に言われて、逆らう理由もないので右手を上げてみる。
……ん? なんか変。ものすごくうごかしにくいの。
糸が手に絡まって、身動きしにくいみたいな感覚。それでも水平になるくらいには、手を動かしてみせた。
この体は変な感じがするわ。しかも時間が経つごとに、暗いものが染みついてくるような…。
「やりました! こちらは成功ですね」
茶色の髪の男性は、人がよさそうな顔をほころばせたが、金髪の男性は悔し気に言葉を吐き出した。
「くそ、なんでこっちは成功するんだ!」
召喚をしたというのに、少しも嬉しくないみたい。
「しかしこちらの死体で実験して成功したのですから、今度は本命を……」
「何度やってもそうじゃないか。どうして他の死体なら上手くいって、俺のカトリアーナは……!」
そのまま二人は話し込む。というか金髪の人を、茶髪の人がなだめているようだけど。
……は?
死体? 死体って言ったの!? うそおおおお!
叫びたい。でもラフィオンにきつく禁止されてるの。絶対、人前では勝手に動いちゃいけないって。
世の中には精霊を捕まえて、閉じ込める方法もあるから、私がそんな目にあわないようにって言われている。
私も捕まりたくない。でも無生物の土の塊の中ならまだしも、人の死体の中なんていやああ! 早く、早く魔法よ解けて!
強く強く願っていたら、ふっと視界が暗転してくれた。
精霊の庭に戻った私は、深く息をついて、草原に寝転がった。
元令嬢としては大変はしたないけれど、そうしたくなるくらいにひどい体験だったのだ。
『マーヤお疲れ?』
『何か衝撃的なことでもあった?』
いつものように、妖精型の精霊や光の球状の精霊が寄って来てくれる。
心配してくれてありがとう。でも愚痴っていいかしら?
私は精霊達に、先ほどのひどい体験を話した。すると、
『あ、それ私もやったことあるー』
『俺もー』
「え、そんなに体験者がいるの!?」
びっくりした。あの召喚者達は、何度も死体に精霊を召喚していたらしい。
『なんでか知らないけど、入った先も気持ち悪かったんだよな』
『おかげで、一瞬で出て来られた』
「私も気持ち悪かったわ……」
こんなに沢山の精霊が体験しているのだから、あの召喚者達は何度も同じことを繰り返すんだろう。うっかり応えてしまったら、同じ目にあいそうだ。
「もう冒険なんてしない……」
あんな怖い目にはあいたくないもの。
でも、この体験にはオチまであった。
『おやマーヤ。お前は冥界の精霊でも目指しているのかい?』
エリューにそう言って笑われた。
「ひえええええっ! まさかそれ、あの召喚のせい!?」
ケティルの仲間になるコースになっちゃいそうなの!? もうちょっと明るい精霊がいいわ!
なんとか冥界精霊への道を回避したい私は、その日一日光の精霊になる子を、側から離さなかった。
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