第18話 交渉に、ゴーレムは必要ですか?

 ラフィオンも、この交渉には乗り気ではないらしい。


「なんの変哲もないゴーレムですが……」

「そうかい? とても人間ぽくて、楽しそうだったんだ。見たことはあるんだけど、家よりも大きなゴーレムばかりでね。とても気軽に遊べる大きさじゃなかったんだ。あのゴーレムぐらいの大きさなら、この部屋の中に入るだろう?」


 ふうん? ゴーレムってあまり見ない召喚術なのかな?


「それにさ、ゴーレムは秘密を外に漏らすことがない、良い護衛でもあるからね。毎日だとラフィーが魔法の訓練ができなくなるから月に一度でもいいんだけど、数時間側に置いて僕を守れと命じてくれると、楽になる。むしろ君の従者としての仕事は、それだけでいいよ」


 サリエル王子は微笑んだ。


「僕はゆくゆくはラフィーに騎士として仕えて欲しいんだ。だから基本的に一日中、そちらの訓練をしていてほしいからね。交換条件だよ」

『まぁっ、ラフィオンすごい!』


 私は万歳したかった。

 あのまま男爵家にいるよりも、ずっといい。しかもおうちの人と関わらなくても、自分で生きていける職に就けるのよ! しかも王子の近衛騎士になれるなんて、将来安泰。

 でもその間、ずっと王宮で王子の側にいることになるみたいね。

 ラフィオンにとっては安全だけれど……もしかして王宮から手紙を出すと、目だったりしないかしら?

 家族になら問題なくても、異国の見知らぬ貴族の令嬢に出すのは……。王子にも不審に思われたりしないか心配になる。


「早ければ、ラフィーなら三年で正騎士になれると思うよ。今は正騎士になれる魔法使いが少なくてね。その後は、魔獣の討伐があればついて来てもらうことになるよ」


 魔獣の討伐は、アルテ王国の場合は貴族の義務。サリエル王子も討伐に出かける。ラフィオンは正騎士になった時点で、サリエル王子について行くことになるらしい。


 ということは、外へ出た時にどこかで手紙を出してもらえばいい?

 それならラフィオン、私も全面協力するわ! あなたの安心できる生活と、私の運命を変えるためにも!


 結局、断り切れなかったラフィオンは、庭に出てゴーレムを召喚することにした。

 王子の出した条件は、ラフィオンでも破格のものだと思ったのだろう。ラフィオンは賢い子だもの。私よりもしっかり考えた上で決めたのでしょうから、これが最前だったと思うわ。


 庭に出たラフィオンは、王子の部屋に近い花壇などがある場所から遠ざかり、木立の中の地面が露出した場所にしゃがみこむ。

 そこでも何かを悩んだ後「大きければ、余計変なことは出来ない……か?」とつぶやいて、王子といつも一緒にいる、トールという青年と同じくらいの背丈のゴーレムを作製。そして心となる精霊を召喚した。


『わ!』


 目の前で召喚されたせいだろうか、この召喚術というのが近場の精霊を引き寄せるのか。ラフィオンの近くにいた私は瞬時にゴーレムに引っ張られ、気づけば一体化していた。


「……俺の言葉が聞こえるか? 少しだけ指先を動かしてみろ」


 ラフィオンがこそこそと話しかけてくる。

 内緒話がしたいのねと思い、私は右手の親指をくいくいと動かして見せた。

 そうしたらラフィオンがますます声をひそめた。


「マーヤ、王子の興味を引き過ぎないように、俺が命令するまで動かないでくれ。普通のゴーレムは自主的に動かないんだ」

『あ、やっぱり』


 私もゴーレムにそういうイメージは持っていたの。だけど自分で動けるし、ラフィオンを守らなくちゃと思って、つい指示されていなくても勝手にしていたのよね。

 ラフィオンは、私に普通の召喚魔法のゴーレムでいてほしいのだろう。わかったわ。大人しくします。


 了承の気持ちを伝えるために、私はもう一度親指をぴこぴこ動かした。

 ラフィオンが苦笑いする。


「お前は不思議な精霊だな……。冥界の使者と仲間だったり、本当はかなり高位の精霊が、気まぐれに俺のことを助けてくれているんだろう?」


 私、そんな誤解をされてたの?

 あれはお友達だっただけなのよ? でももっと強い精霊になるつもり。

 マーヤ・ロディアールの修正された人生に一度は戻りたいけど、その後はまた精霊になるのだし、その時には、今の精霊の人生としての続きをすることになるのだもの。どうせなら強い精霊でいたいわよね。

 上位の精霊とかにいじめられたりするのは嫌だわ。

 でも私、何の精霊になるのかしら……。


 まずは王子の命令の実行だ。

 これでラフィオンは、衣食住と安全な場所を確保できる。魔獣だらけの森に捨てられることはない。

 頑張って王子の護衛のお仕事をしましょう。


「あの方はこう、悪い人ではないと思うけれど……気をつけて」


 ラフィオンはまだ心配なようで、最後までそんなことを私に言っていたのだった。

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