第34話 見えてきた希望の光

『え、うそ。コンラート王子が来るの!?』


『そういえばルーリスの王子は、マーヤの死亡原因だったな』


 そうそう、私の死因はその王子なんです。

 けれどコンラート王子って外国へ行っていたことがあるの? 知らなかったわ……。


『アルテに逗留した後、ルーリスの王子は隣のリンゲルドに行ってから、故国へ帰るそうだ』


『リンゲルド……聞き覚えがあるわ』


 そう。コンラート王子が婚約をしていたのは、リンゲルドの王女だったはず。リンゲルドの状況が変わって、もっと武力がある国と縁づくために結婚できなくなったのよね。


 コンラート王子はご令嬢達に

「おかわいそうです」

「国の事情で引き裂かれるだなんて」

  と同情されていたものの、悲しい顔もせずに微笑んで対応していたわ。


 ……あの頃は普通の王子のように見えていたのに。

 それとも、婚約が上手くいかなくなったショックで、よくわからない意地悪を思いついたのかしら?

 私が思い返している間にも、サリエル王子の話は進む。


「コンラート王子がこちらへ到着するまでに、ラフィオンには火竜を手に入れてもらう理由は一つだ。グレーティアがルーリア王国へ嫁げるよう、後押ししてほしい。

  グレーティアの魔法は弱い。本来なら、本人同士が気に入っているのなら外国へ嫁がせても問題はないはずなんだよ。ただ……ねぇ。バイロン公爵が絶対横やりを入れてくるはずだから、それを制止できる人間にいてほしいんだ」


 サリエル王子の言葉に、ラフィオンはうなずいた。


「挑戦はします。けれど確実に成功させられるかどうか、お約束はできません。それだけはお心に留めていただければと思います」


「もちろんだよラフィー。無茶なことを頼んでいるのはこちらだからね。そうと決まれば、ラフィーはここから旅立った方がいいね。王都へ戻ってから出発すると、準備をしているのを見られたら色々と邪魔が入るかもしれないし……。なにせ相手は王位が欲しいんだからね」


 そう言ってサリエル王子は、同室していたトールから、ラフィオンに軍資金をもたせる。

 ラフィオンもそれを受け取ると、火竜のいる場所へ旅立つ準備をするため、早々に宿の部屋に戻った。


 その間、私はとても興奮していた。

 グレーティア王女は、国内で兄のサリエル王子の火種にならないように、コンラート王子を捕獲したい。私はなんとしてでも、コンラート王子には別な人と結婚してもらいたい。そうしたら婚約者候補選びなんてしなくなるもの。


 利害が一致したわ!

 絶対に協力する!

 だからラフィオンが申し訳なさそうに私に頼んできた時にも、大喜びだった。


『やっぱり君に一緒にいてもらって良かったみたいだ。このまま頼めるからな。……あの火焔鳥を呼んだのはマーヤだ。俺一人でどうにかなるとは思えない。できれば君に、手伝ってもらえたらと思っているんだが』


『なんでもするわ! だって私の死因を遠ざける一番の方法でもあるんだもの!』


『あの手紙で書いた件だな? 確かにルーリスの王子が絡んでいたはずだが、手紙を出したのは……効果がなかったのか?』


 表情を曇らせるラフィオンに、私は説明した。


『ラフィオンに手伝ってもらった手紙、無事に届いたのは間違いないの。そして手紙に書いたことを『私』も避けたのだけど……。やっぱり王子の婚約者選びに巻き込まれてしまって。友達だと思っていたのに裏切った人にも近づかなかったのに、結局崖から落ちることになってしまったのよ』


 でも、今度こそは行けるはず!


『だけどね、ルーリス王国のコンラート王子が、グレーティア王女と結婚できれば問題そのものが消えるはずなの!』


 私はコンラート王子が他国の王女と婚約していたこと。それがだめになったせいで、国内の貴族女性の中から婚約者選びをしようとしていたことを話した。


『確かにそれなら……その王子に、君が巻き込まれることはないな』


『でしょう! だから私のためでもあるの。絶対に呼んでね!』


 そう言ってラフィオンは襟元から私を摘まみ出すと、自分の目の前に掲げて言った。


『わかった、約束する。出発した後に、また呼ぶからマーヤ』


『ええ、待ってるわ!』


「今はお帰り、マーヤ」


 ラフィオンは、小さな声に魔力を込めた。

 その声を聞いて、私はすっと精霊の庭に戻って行く。


「…………よかった」


 無事に、ラフィオンに手紙の結果についても話せた。

 しかも未来について進展まであった。

 コンラート王子の婚約相手を変えてしまえばいいのよね。グレーティア王女がその気なのだから、がんばってコンラート王子の気持ちを引いてくれるはず。


 コンラート王子の婚約って、そもそもがとても受け身なものだったと聞いていたから大丈夫だと思うの。

  本来の婚約者も、年回りが近くて、相手がコンラート王子をとても気に入ったから打診が来て婚約したという経緯のはずだから。

 それがグレーティア王女になっても、問題はないと思うの。


「そういえば殴ったら執着される……というのは話すべきかしら?」


 その一件で恨みを買って、結婚までして苛めようとしたのだから、結婚をするということだけ考えるのなら、とても効果的かもしれない。

 あとでグレーティア王女に教えてねと、ラフィオンに頼んでみよう。


「でもその前に、ラフィオンが火竜と契約することだわ」


 こちらも、ラフィオンの立場を強くして兄のせいで窮地に陥れられることもなくなるし、グレーティア王女の結婚についても後押しできるしと、利点がいっぱいあるわ。

 ぜひとも成功させたかった。

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