第35話 事前に情報を仕入れましょう
さて協力はしたいけれど、私に火竜の知り合いなんていたかしら。
「竜の卵はいっぱいいたわよね……?」
竜も精霊の一種なので、この精霊の庭で卵時代を過ごして現世へ現れる。
だから私と遊んでいた精霊の中には、小さなトカゲみたいな子が沢山いた。
問題は名前をつけていたかどうか。そして名づけた子が現世へ旅立ったかどうかだ。
「でも竜って、わりと精霊の庭から旅立たないのよね」
みんな他の精霊よりもここにいる時間が長いらしく、出会った竜の卵達はほとんどがまだ辺りを漂っている。これは期待が持てない感じ。
するとエリューが教えてくれた。
『竜のことかい? あの子達は母親がいないと生まれられないからねぇ』
「精霊なのに、自然発生ではないの?」
精霊ってこう、しゅわっと空中に湧き出るように現世に生まれるものかと思った。
妖精なら花から生まれると聞いたことがあるのだけど……。
『竜は一応母親から生まれるからね』
「精霊なのにお母さんがいるの?」
『竜の体は特殊でね、とても現世の物に近いのだよ。だから現世で受肉する必要がある。
人間の子供とは違う発生過程にはなるけれど……肉体の組織を分け与えて作る、卵が必要だからね』
「たまご……」
確かに竜の卵というのは聞いたことがあるわ。竜は卵から生まれるのから、お母さんが必要なのね。
『母になれる竜は少なく、代わりに一度に複数の卵を産む。卵と言っても自分の体を核として分け与え、そこに精霊としての竜が宿るようなものだけどね。
その母竜を守るのは兄弟竜がやる。そして子竜が卵から出てくると兄弟の竜達が父代わりとなって、生まれた子竜を自分の縄張りに連れて行き、それぞれ育てるんだ』
育てる、ということは、他の精霊と違って生まれたらもう立派な精霊、というわけではないのよね? 何年もかけて成長するのでしょう。
「それなら、ここを旅立った精霊は……10年前に生まれていたとしても、まだ子供よね?」
『そうなるだろうねぇ』
竜の仲間を呼んで解決、というのは難しそう。他に手はないかしら……。
そうだ、まだエリューに聞きたいことがあったのよ。
「エリュー、教えてくれるかしら?」
『はいはいなんだい? 知りたがりのお前が来てから、私はずいぶんしゃべるようになってしまったよ。ずいぶん長い間、歌だけ奏でて暮らしていたはずなんだがねぇ』
「あの……あれこれ聞かれるの、嫌だった?」
『そんなことはないさ。お前さんに質問攻めにされるのは、永く生きる私にとってはほんの一瞬のことでしかないからねぇ』
良かった。寿命の概念がものすごく人と違いそうなエリューは、私のことをほんの一時、騒がしく鳴く鳥みたいに思ってくれているらしい。
それなら聞いてしまおう。
「人が召喚する時に、同じ属性の物があった方がやりやすいと聞いたのだけど。魔獣の遺骸とかではなくてもいいの?」
もし火竜と契約するにしても、ラフィオンと話し合って契約してくれるとは限らない。下手をすると戦って倒せということになってしまうだろう。
そんなラフィオンが楽になるよう、強い精霊なり魔獣を召喚できるようになればと思ったの。普通の方法では難しいのなら、そういう形で補助ができるとわかっていれば……。
『純粋な精霊を呼ぶのなら、その方がやりやすいだろうねぇ』
純粋な精霊……。なるほど、アラルのように炎そのものが体のような精霊とかには、その方法が効くのだろう。でも話の流れを考えると、そういう言い方をするということは。
「竜は、純粋な精霊ではないの?」
『現世の物質を核にして生まれる存在だからね。半分精霊半分は魔獣に近いものだよ』
とすると、竜には使えない。やっぱり竜を倒すための魔法に使う、という形の方が良さそう。
ただ、召喚に必要な魔獣の遺骸が簡単に手に入ればいいけれど。
名前も、私が知っている精霊のを呼ぶのなら、私が呼ぶしかないし……。さすがに会ったことも無いラフィオンに呼ばれたら、向こうも怒るものね?
でもアラルの時みたいに上手くいくかしら?
考えていると、エリューがぽつりと言った。
『それにしてもお前は、召喚される度に変な性質になっていく精霊だねぇ』
「……!? まさか私、今度は」
『冥界の性質に、炎の性質が増えているよ』
……どうやら、魔力を与えてもらったりしなくても、召喚をすると性質が相手の精霊に引っ張られるみたい。
これはいいのか悪いのか……。こうなったら、ごちゃまぜの性質になったら、中和されたりしないかしら?
「そういえばエリュー。私このまま性質が増えていったら……どういう精霊になるのかしら?」
今は人間としての人生をやり直すために頑張っているわけだけど、いずれ精霊にはなるらしいので、少し気になる。
精霊って永く生きるのでしょう? 変なものになるのはちょっと……。
それがわかっているなら、私も記憶を消してもらって精霊として現世に生まれた方がいいでしょうから、知って置こうかと思ったの。
『あまりそういう精霊がいた例がないからねぇ。下手をするとお前が最初で最後になるんじゃないのかねぇ』
なんということでしょう。エリューにも予想がつかないみたい。
……うん。正式に精霊になる時は、記憶を消してもらうことにしましょう。
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