第16話 精霊として強くなったの?

 さて、帰って来ました精霊の庭。


 今回は本当に気疲れしたし、緊張の連続でどうなるかと思ったわ……。

 でもラフィオンは無事に保護してくれる相手を見つけたし、あそこは家まですごく遠いところだったはず。

 休めば、魔力というのも回復するわよね? しかも王子に拾われて顔と名前を覚えられたんだから、あの冷血漢な父親だってラフィオンを無下にはできないでしょう。


 ラフィオンの話からすると、父親は強い魔法使いの子供、というのにこだわっている。自力で戻って来た上、王子と知己を得た子供を殺させたりしないと思うの。きちんと凶行に走った兄を制止してくれる……と信じましょう。


 なんにせよ、ラフィオンの安全が確保できたわけで。

 次はもうちょっと和やかな時に呼んでくれるかもしれない。そうしたら、ゆっくりと……私の故国に、運命を変えるための手紙を送ることを頼めるんじゃないかしら。


 うん。早くどうにかはしたいけど、まずラフィオンのことが心配だもの。

 問題の日まで八年あるんだから。時間はあるわ。

 むしろ今の状況だと、ラフィオンが手紙を出そうとしても父親とかに検閲されそうで怖いわ……。せめてラフィオンが安全に手紙を出す状況を整えたい。


 アルテ王国の魔法使いに、何も知らない私が目をつけられるのだと考えたら、ちょっと怖すぎるもの。

 だって八年前の私ってラフィオンより年下よ?

 突然よその国の人から手紙をもらうだけでも驚くのに……。あ、それどころじゃないわ。私の方もお父様に検閲されかねない。下手をすると手紙が読めない?


 その辺りについても考えなくちゃ。まずはラフィオンの状況改善を優先で。

 次に呼んでもらえたら、その辺りを筆談で話し合えたらいいな。


「よし。ラフィオンのことはひとまず置いて」


 精霊の庭の泉の上で、寝た状態で浮いていた私は、起き上ってエリューに報告した。


「聞いて聞いてエリュー! ケティルに会えたの! 抱きしめたらすっごくふわふわ!」


 お別れが寂しかったけれど、ケティルにすぐ会えて本当に良かったわ。

 私はエリューの木にしがみつき、いかにケティルの毛がふわふわだったかを報告した。

 こんなに素直に楽しかったことだけ報告できるのも、ケティルのおかげよね。私だけじゃ、無事にラフィオンを安全な場所まで送り届けられなかったもの!


『おや、もう会ったのかい』


 みんなのお母さんなエリューは、私の話を優しく聞いてくれる。


「ちょうど召喚先で会ったの。ケティルは冥界の使者って呼ばれてる精霊になったみたいで、お散歩とお食事の途中だったんですって。それで私の召喚主が危険だったから、安全なところまで一緒についてきて、消えないように魔力もくれて……」

『ああ、だからだね。マーヤの精霊としての質が少し、変化したのは』

「質?」


 エリューの言葉に首をかしげる。


『そう質。前はまっさらな状態だったのに、今は冥界の精霊の要素が強くなったね。お前がケティルと名づけた精霊から、力をもらったせいだろう』


 なるほど。私は精霊として、ケティルに近くなったということかな?

 私も犬っぽい精霊になるのかしら。可愛くてもふもふしてて強かったわね……と考えた私は、続けてケティルのお食事風景を思い出した。


 大変綺麗にお召し上がりでした。血も骨も残ってなかったもの……。だけどネズミの悲鳴とか、血の匂いを思い出す。そして謎のケティルの福音香の匂いとか、ちょっとこう、お仲間になるのははばかられるというか。

 私もああなってしまうのかしら? だとしたら、精霊として旅立つ時には人間としての記憶を捨てるしかない? あのお食事を受け入れるにはそれしかなさそう。

 でもでも、記憶を捨てるのはなんだか嫌だわ。


「あの、エリュー。教えて欲しいのだけど」

『なんだいマーヤ』

「私はこのままだと、ケティルみたいになってしまうの? 精霊の質が似て来たのなら……」


 あの食事、しなくちゃだめ?


『他の精霊になりたいのかい? 基本的には、自分の本来の質の方が強く出るはずだよ。例えば光の質の精霊だけど、冥界の力にも影響されにくくなるとかね』

「え、それって強くなれるってこと?」

『まあ強くはなっただろうね。他者の魔力を卵のうちから貰えば、基本的な魔力も上がることになるだろう。今も少し、お前は魔力が強くなっているよ。それにケティルの同族の精霊からは、友好的に接してもらえるだろう』

「すごいわ、ケティルのおかげで私、強いゴーレムになれるのね!」


 私の力が上昇して、ケティルの仲間にはもしかしたら力も貸してもらえるだなんて。

 ということは私、前よりもラフィオンのことを自分の力で守ってあげられるようになった、ということよね?

 期待に胸をふくらませる私に、エリューが注釈を入れる。


『理論的にはね。今回は上手くいったみたいだけど、毎回お前の魔力が増えるわけではないと思うよ』


 仕方ないわ。世の中には当たりはずれというものがあるのですもの。

 ただ、と思う。


「私、どれくらいの間は卵でいられるのかしら?」


 次の召喚で、ラフィオンの状況が落ち着いているとわかればいいのだけど……。また危機に陥った時に呼ばれたとしたら、手紙を書いてもらえるようになるまで、まだかかるということよね?


『どうしてもというのなら、方法はあるがね……』

「方法はあるの? それなら安心ね!」


 エリューがそう言ってくれたので、私はひとまず安心して。


『しかしマーヤ……』

「そうしたら戦闘の練習をするわ! 今度こそ沢山ネズミが来ても、倒すの!」


 木の棒を振り回すことにした。

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