第10話 初戦闘! ゴーレムってどう戦うの?

「無駄だマーヤ。上空から見ただけだが、けっこうこの森は深……ぐぇ」


 あらやだ。下がり過ぎて木と背中でラフィオンを圧迫しすぎちゃった。

 ちょっと離れたけれど、でも私は声が出せないしどうしましょう。

 と思ったら、もう一度潰されては困ると思ったのか、ラフィオンが観念して背中に捕まってくれた。肩がないので、腕の接続部あたりに手を回してしがみついてくる。


 よしよし上手くいったわ。

 妹を何度か背負った経験があるので、ラフィオンを背負うのも上手くできた。

 しかもゴーレムの体だからか、ほとんど重さを感じない。これは素敵だわ。


 私は歩き出そうとして、きょろきょろと周囲を見回した。

 どっちへ行ったらいいのかしら。変にラフィオンが後戻りすることになっても困るし。

 するとラフィオンがまっすぐ前を指さした。


「あっちだ。向こうへ行けば、少なくとも魔獣の死骸から遠ざかれる」


 ラフィオンは、私が行く先に迷っていたことに気づいたらしい。さすが私の召喚主だわ。

 その時ふと、日の光に気づいて空を見上げる。空の高い場所に太陽がある。そういえば昔、館に出入りしていた傭兵が、太陽を目印に移動すると酷い目にあうと言っていなかったかしら。

 だから探せと言われたのは、昼間には暗く見えるけど……赤い月。

 いつも南に見えるからという月が見えないということは、太陽と重なっているのかしら。


『じゃ、しばらくは太陽に向かって歩こう』


 月が見えたら、そっちに従えばいいわよね。

 私はさくさく進み始めた。

 さすがに走ることはできない。歩いてても、木の根につっかかって転びそうになるし、そうでなくとも、張り出した枝に何度も頭をぶつけた。

 ……痛くなくて良かったわ。


 そのうち「ふ、ふくく」と後ろから声が聞こえて来た。

 ラフィオンが体を震わせて、笑いをこらえている。


「お前、本当におかしな精霊だな。召喚主を背負って逃げるゴーレムなんて、聞いたことない」

『私も聞いたことがないわ』


 考えてみれば、ゴーレムになる精霊は何も知らない状態だ。おんぶなど知らない。だから支持されなければできないし、召喚魔法使いも、ゴーレムに自分を背負わせる人がいなかったのではないかしら?

 ただそれだけなのではないかしら、と思うの。

 何にせよ、ラフィオンが笑ってくれて良かったわ。子供は笑顔が一番よ。


 より気分が軽くなったので、私はさらに一生懸命歩く。でも、逃げないよりはマシという程度だったみたいなのよね。

 何かに気づいたように後ろを振り返ったラフィオンが、私に叫んだ。


「マーヤ敵だ!」

『敵っ!?』


 足を止めて振り返れば、私達をこそこそと追いかけてきているは灰色のドブネズミを巨大化したような魔獣がいた。

 ひっと息をのむ。


『やだネズミ大きすぎいやああああ!』


 可愛くない、歯もなんだかギザギザしてる。目が真っ赤でギラギラしてて怖い!

 食べられたら死んじゃう! ……って、私、人間じゃないんだったわ。


 誰にも聞こえない悲鳴を上げたりしていたら、少し冷静になってきた。

 私、人間チガウ。それに噛まれても痛くない。

 よし、ラフィオンを逃がさなくちゃ。

 私はしゃがんで、ラフィオンに降りるよう示す。ラフィオンも察して降りてはくれたんだけど。

 どうしよう。戦い方がわからない。

 とそこで、私は足下に転がっていた、いい太さの枝を見つけた。これを使おう。

親指だけ分かれた、手袋みたいな形をしている手で、枝を拾った。


「マーヤ? お前戦う気か?」

『ラフィオンは下がってて。というか今のうちに逃げてね』


 だって私、戦闘初心者なの。うっかり負けちゃったら、またラフィオンは一人で放り出されちゃう。

それにラフィオンが疲れ切ってるみたいだし、魔力の持続力的に、どれくらいの間私が戦えるかわからないもの。

 これで分かって欲しいなと思いつつ、逃げろと後ろ手に手を振って、足を止めたネズミの前に立つ。


 枝を振りかぶったところで、あ、だめだと思った。

 叩いただけじゃ、ネズミはそのまま突進していくかもしれない。そうしたらラフィオンまでまっしぐらだ。

 だって土の体より、ラフィオンの方が美味しそうに見えるでしょう?


 私はぐっと枝を抱えるようにした。

 ネズミが走り出す。

 近づくと、私よりも体が大きいことがわかった。こわい。でも今さらよ。


『てええええい!』


 枝をまっすぐにつき刺すように、私は突進した。

 ネズミは急に止まれない。

 そのまま枝が突き刺さり、ネズミは悲鳴を上げて逃げて行った。


 やった! 勝ったわ!

 思わず振り返って、ラフィオンに万歳してみせる。

 ラフィオンが呆然とした顔をしていたんだけど、やがて破顔した。


「すごいよお前、こんなゴーレム見たことないぞ!」


 ラフィオンの言葉に、私はとても誇らしい気分になった。

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