3. 2016年 春 Part2

 街の噂は数多くある。どこにでもある都市伝説ばかりでも、マイナスイメージのものばかりだと土地柄を疑問に思いたくなるというもので……足取りはひたすら重たかった。




 新しい職場の建物は、外観からしてやる気がなかった。ツタぐらいは取り除いた方がいいと思う。

 玄関に入ると、警備員のやる気がなかった。僕はそこそこ上役として来たはずなのに……。

 出迎えた警察官が……とても、堅気の雰囲気とは思えなかった。


「どうも。アドルフ・グルーベです」


 プラチナブロンドの髪、サングラス、強面。そして……片腕。どこの組織から抜けてきたんだろう。声にもあまりやる気が感じられない。


「……サリンジャーさんは?」


 怪訝そうな声で聞かれる。……何となく、予想はついていた。


「僕が、キース・サリンジャーです」

「……ああ、なるほど……」


 明らかに哀れんだ声だったけれど、まあこれくらいは慣れている。


「……30でしたっけ?」

「30です」

「……そっすか」


 童顔なのは知っているから、あまり年齢については触れないでほしい。後、凝視する視線が怖い。品定めをされているような気分だ。


 ちらりと鏡を一瞥する。整えてきた金髪。明るめの茶色い瞳。小ぎれいな服装。既に浮いているのが分かったが、それでも、少し楽しみでもあった。……不謹慎かもしれないが、「せっかく来たからには何かを変えてみたい」という気持ちもあった。

 たとえ、命の危険が迫る選択だったとしても。


「一応、俺が担当というか色々教えろって言われてます」

「そうなんですね」


 舐められると分かっていても、思わず口調が丁寧になってしまう。雰囲気というものは恐ろしい。


「まあ、片腕で暇なんで」


 ひらひらと、本来なら右腕があるはずの片袖が揺れる。

 ……やはり舐められていたようだ。相槌も打てなかったが、次の言葉で固まった。


「後、俺が一番……アンタにしてもらいたいことがあるんです」


 どこからか、漂う冷気。

 思わず唾を飲んだ。ただ……どれほど嫌な予感しかしなくとも、逃げようとは不思議と思えなかった。


 そうだ。、僕は、正義を貫いてみせる。

 ……。ん?今度こそ?

 そういえば、これは何回目だったっけ……。……まあ、いいさ。伝えられればそれでいい。僕が、正しいと証明できれば……それでいい。




 ***




 レスは来ない。過疎ったサイトだしな……とは思いつつ、せめて小出しにとメールの文面を貼り付ける。


 電話でのやり取りを思い出す。


「ロバート、どうした?」

『……君に伝えたいことがあるんだ。書き留めてほしい』

「……なぁ、ロバート?」

『僕は殺されてしまったから、君が頼りだ』


 ロバートが黙り込んだ後、響いた声音は、全く別人の響きに変わっていた。

 あの野郎、速攻でやられやがった。


 メル友に弟が取り憑かれるなんて、もう笑うしかない。

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