5. ある罪人の記憶

 そのメールは、今までと明らかに内容が違った。



***




「なあ、どうすんだよ……!死にそうだぞ!」

「例の医者には電話したのかよ!」

「手に負えないから救急車すぐ呼べってよ……!」

「それができたら苦労しねぇっつの!」


 床には、まだ少年とも呼べる体躯が転がっていた。虚ろな瞳は空を見つめ、顔には生々しい傷。左目を確実に潰しているそれは、床にできた染みを上書きするようにダラダラと血を流し続けている。

 浅い呼吸を繰り返し、体に力は入らない。彼に残された時間は、もはやほとんどなかった。

 ……彼は聞いていたのだろうか。命を救う方法が、次第に死体を隠す方法に変わっていったのを。


 いとも簡単に、自らの命が投げ捨てられた事実を


「な、なあ、この倉庫からちょい離れたところに湖が──……



 ***



 メールボックスに残された、送信者名も、送信者のアドレスも、日付すらもよく分からないメール。……「ある罪人の記憶」というタイトルに、怪奇な文面。

 俺にも意味がわからないまま、電子掲示板の一番上に情報が載る。「意味がわかる人、います……?」と、問いかけるように補足しておいた。


 まだ、誰からも反応はない。

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