10. 幕間

 やばそうな事態に巻き込まれているとはいえ、他にも仕事はある。締切はギリギリまで粘る方だが、今まで1度も超過したことはない。……今後のことを考え、今回は早めに原稿を送っておいた。メルヘンなことを考えるのには想像以上に頭を使う。

 と、編集者から確認の電話……かと思ったら弟からの電話だった。


『あ、ロッド兄さん、送ってくれた原稿読んだよ』


 そんで、いきなり編集者みたいな台詞で始めやがった。勘弁してくれ。

 パソコン画面から目を離し、煙草を吸い殻の溜まりに溜まった灰皿に押し付ける。


『読んでて思ったけどさ、キース性格悪すぎない?』

「そりゃあお前がモデルだから……」

『どういう意味!?』

「そのまんまだよ」


 俺は一応小説家だが、今回みたいな仕事……仕事?は初めてだ。ノンフィクション風のフィクション……とも言いがたいのに、ドキュメンタリーとも言いがたい。

 あとロバート、こいつ自分の状況ちゃんとわかってんのか?


『警察官にしてはアドルフに舐められ過ぎだよね』

「警察の制度調べるのだるかった」

『そんな理由なんだ……』

「後年齢はお前の童顔さ考えて引き下げた」

『童顔なのは変えてくれない辺り流石はロッド兄さんだよね!』


 頼む、いい加減気づけ。こちとら気が気じゃねぇんだよ。

 相談は特になく、失礼な文句ばかり出てくるが、まあロバートはそんな奴だしそこらは慣れた。


『後さ、サーラって誰?』

「お前がいつも言ってる女への愛をイメージして出した」

『僕ジャンヌに対してこんなに気持ち悪いかな!?』

「正直もっとキモい」

『やっぱり交遊関係の狭さは世間をどう見るかに出るんだね……』

「殴んぞ」


 ちっちゃいとこにしか文句が出ないあたり、内容にはさほど気にすることがないらしい。……ただ、記憶は混乱しまくっている。

 ……とりあえず、こちらも本題に入った。


「カミーユさんは何て?」


 接触してるなら、よく話してそうだと思った名前を伝える。……ちなみに、そいつともメールで付き合いがある。


『来ると思った……。あのね、「流石はお兄さんだね。粘着質かつ世間知らずなのに口だけいっちょ前なあたり、特徴が完璧!」……だって。腹立つ』

「いちいち言われたこと覚えてるから粘着質って言われんだろ」


 ロバートの居場所は、まだ検討もつかない。死ぬなよとは言ったが、どうなるもんか……。

 ……正直、下手に触るわけにもいかねぇし。下手に動いたら危険だってことぐらい分かる。


『……あ、ロー兄さんが呼んでる。またね』


 ……行けたのか、あの人。

 それとも……元から行ける人だったのか。


「おう。あ、この前貸した本読んだか?」

『クロード・ブラン訳の『咲いた花~』かな?』


 いや、それお前が好きな本だけどな。

 話合わせとくか。


「それ。英訳はジョージ・ハーネスのが先だけどな」

『まだ冒頭だけど、王と賢者の子供っぽいとことか無神経なとことかちゃんと書いてて面白い』


 おい、お前レポート書いてただろ。しっかりしろよ。


「あー、あいつ確かに無神経だよな」

『ロー兄さん待たせるしここらへんで。『旅鳥の唄』もちゃんと読んでよ!』


 ……まあ、ちょっと昔に比べて、だいぶ仲は良好になったとは思う。ガキの頃と変わらない憎まれ口が懐かしかった。

 とりあえず、積んだ本の山をかき分けて本棚に向かう。……なるべく自然に合わせておくに越したことはない。


 ……と、背後でメールの着信音が鳴り響く。

 差出人は不明。

 タイトルは、また……


「ある罪人の記憶」

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