11. ある罪人の記憶
嫌な予感、なんて言葉じゃ表せなかった。
本能なのか、虫の知らせとやらなのか……そのメールを開くのにやたらと時間がかかった。
……最悪な方向で、予感は的中した。
***
「……何で、逃がしたんだ」
男が、低く呟いた。
「逃がしたわけじゃない。……不用心で残念だったね」
もう一人が、静かに呟く。
「彼は外では生きられない」
「どうだか」
「……彼が壊れる様は見ものだろうけれど」
「……まさか、壊すつもりで」
幾度かの応酬の後、奴が下卑た笑みを浮かべた。思わず息を呑む。……敵に回しては、いけない男だとは知っていた。
「立場をわきまえていないね」
「何を言って……」
「対等な関係だとでも、思っていたのかな」
「……まさか」
「ちょうどいい、そろそろ死のうかと思っていた」
「……成程……」
「君は、前に私が羨ましいと言ったね」
「確かにお前の方が頭はいい。戦闘能力で常に勝っていたのは私だが」
「……ああ、確かにそうだね。実戦でなら」
ぞわりと、全身の毛が逆立つのを感じる。
……この男は、自分の欲望のためなら……
他人を犠牲にすることを、利用することを、厭わない。
「……君に、私の名前と肩書きをあげよう。もう死ぬ男のものだけれど」
こいつは、昔から僕を見下していた。
あの戦場で恋人を殺された恨みを……敵に向けさせた。
僕が右肩を負傷したのは、彼が僕の狙撃の腕を褒めた後で……
知っていた。彼は最初から、
「欲しかったんだろう?『ハリス家長男』の肩書きが」
この外道はいつでもそうだった。人を意のままにしようとする力を持っている。
手を汚さず、裏で操る男だ。
「……私も舐められたものだ」
ただで負けるものか。
……お前が、それを選択するなら、
「全てを奪うと、言ったね」
お前が捨てた名前の男に、お前は殺されるだろう。
何度でも、奪い返す。
……何度でも、殺してやる。
勝つのは「私」だ。
***
誰と誰の会話か、何となくわかる。詳細はおろかどんなシチュエーションなのかすら分からないけれど、思い出したくもない、関わりたくもない相手の顔がまざまざと浮かぶ。
誰よりも嫌いなクソ兄貴の影が、嘲笑っているように思えた。
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