16. 発端

 キース・サリンジャーは、俺……ロデリック・アンダーソンのメル友だった。

 2015年の夏、仕事に関する愚痴の後、連絡が途絶えたかと思えば未来の日付から「殺されるかも」なんてメール。

 その数日後、異動が決まったと平気な様子のメールが来て何があったと尋ねても心当たりなんてない、と。


 そして、それから数週間後、キースの友人からメールが来た。受信ボックスに残っていた俺のメールから連絡先を知ったらしい。


「キースが失踪した。何か知らない?」


 嫌な予感がして、その相手がキースから聞いたっていう街の名前を聞いた。

 ……正直、驚いた。俺もよく知っている街だったからな。……マンチェスターからバスに乗って1時間くらい……と、そいつ……「カミーユ」は、馴れ馴れしく伝えてきた。

 さらに、俺の部屋でもラップ音だの金縛りだの、怪奇現象が起こり出す。そんな中でメールボックスを覗くと、自動的にひとつのメールがピックアップされた。


「巻き込むつもりはなかった。奴らが目をつけている。とにかく逃げろ」


 アドレスは表示されず、送信者欄に「Levi」とだけ表示されるというホラー。しかも空白のメールとか文字化けメールも大量。

 途方に暮れてると兄さんがやって来て、弟が悪夢にうなされたりして大変だとか何とか。

 ついには、二度と会わないと思っていた弟も含めて3人で話し合うことに。


「……行くべきだと思う」


 意外にも、弟……正確には義弟のロバートは乗り気だった。


「メール見せてもらったけど、僕には何かを伝えたがってるように見えるし」

「ロッド、キースくんは大事なお友達なんだよね?」

「……一番メールしてたし、一番勇気くれたのはあいつ」

「じゃあ、俺とロブで行ってくるから、ロッドはここで待機しててくれる?」


 その後、ノエルっていう別のメル友がその街在住だと発覚し、アドバイスを受けて色々書き留めることにした……ということになる。


 俺は普段童話作家もしているが、作風が全く違うからペンネームは伏せておく。

 やけにオカルト系を受け入れるのが早いと思われるかもしれないが、俺の育った国では幽霊に住民票が出る……と言えば、国籍も察しがつくだろう。

 ……実際、幽霊のような存在には心当たりがありすぎる。


「で、でも怖いな。俺は幽霊苦手だし」

「……僕がついてる」


 ロバートは、仕事で世話になった教授が亡くなって傷心していたらしい。

 俺が32になった今でも、ロバートが甘えたなのは変わらないし……兄さんの、怖がりも同じように変わらない。


「じゃあ、僕は準備してくる。……兄さんも来て」

「あっ、うん。またね、ロッド!」


 ロバートが玄関から立ち去り……ローランド兄さんはそのまま霧のように消える。


 ……ローランド・ハリス。享年21。

 過労により15年ほど前に列車事故で死亡している。……未だに彼は、自分の死を受け入れることが出来ない。


「……ここらで、ちゃんとしないとかもな」


 兄さんよりだいぶ老けた顔が、パソコンのモニターに映っていた。

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