28. ある罪人の記憶
「姉さん、呼んだ?」
呼んだつもりはなかった。ただ、話をしたいと少し思っただけで彼はやってきた。
……見たくはない。哀れで悲惨なあの子の姿を、これ以上見ていたくなんかない。
「ローランド、私のことはいいわ。ロデリックかロバートのところにでも行ってなさい」
「ロッドのところにはよく行ってる。ロブもたくさん呼んでくれてるし……」
ごく普通の青年にしか見えないような、素朴な笑顔で……壊れたナニカは、語る。
「ご苦労なものね……」
人のために……なんて殊勝な気持ちは、残念ながら私には持てないわ。……私に流れているのは、あの醜い男と同じ血。
「…………やれやれ。君はずいぶんと変わってしまったようだ」
著名ブランドの椅子に腰掛け、彼は呆れたように告げる。
「ロナルドとよく似ている。さすがは兄妹と言ったところか」
「……やめなさい」
「おっと、済まない。私はもう、以前のように君を愛したりはできないのだよ」
「そうよ。私は変わってしまった。でもね、貴方に愛されようとも思ってない」
私は、私のやりたいことをするだけよ。
だから、邪魔をしないでちょうだい。
「……姉さん、用事がないなら俺は行くよ?」
「勝手になさい」
「うん、またね!」
ローランドが、煙のように姿を消す。
「おや、いいのかい?」
背後からの声に、思わず眉をひそめた。
「貴方も失せなさい」
「はは、かつての夫に酷い言いようだ」
「……貴方を夫だと思ったことは一度もないわ」
「けれどね、ローザ」
「……ローザは、死んだのよ。兄に殺された哀れな女がローザ。それでいいじゃない」
ニタリと、男の顔が醜悪に歪んだ。
「そうだね。そして……夫に愛されなかった可哀想な女でもある」
……ロジャーは、
ロジャーは、そんなふうに笑わなかったわ。
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