59. 忠告

 サーラから何も起こる気配がないと連絡が来て、気は進まないが兄さんと相談することにした。

 少し動揺していたが、に笑う兄さん。

 ……俺の前では、まだ狂ったままか。


「どうしたのロッド?」

「……兄さん、もう1人に協力を頼んでて」

「どんな人?俺が連れてったらいい?」


 ニコニコと笑いながら、望んでいた答えをくれる。……けど、その行動自体は望んだものじゃない。やっぱりいつもと、似たような感じだ。


「えーと、サーラって人で……まあ、とにかくそれで人手は増えるし、ロバートも助け」

「待って」


 ふと、瞳に影が差した。どっちかの名前に反応した気がするけど……どっちだ?

 どこか虚像を写していたかのようなターコイズブルーが、俺を見据える。


「…………ロッド。その人はこっちに来るべきじゃない」


 引きつった笑顔から、痛みに喘ぐような声が漏れていく。


「さらに外側から見れることは絶対ある。その視点を手放す必要なんかない」


 しっかりとした口調が、懐かしかった。思わず涙腺が緩む。涙を堪えつつ、伝えたい言葉を──


「兄さん、俺、ずっと謝りたかっ」

「お前もかロッド。時と場合を考えろスットコドッコイ。いつまで頭ん中でガーデニング続けてんだ」


 確かに、正論だ。今はそんな場合じゃない。頭ではわかってたし、今もわかってる。……まあ、ちょっとショックだけどわかってる。

 ……そういや昔、うちの兄貴にはよくこんな口聞いてたな……。……あの野郎相手と同じ対応は複雑だけど……。


「……離れた立場から見えることもある。そうだな……どこか、場所のわかるところに……」


 ぜえ、ぜえと、呼吸が乱れていく。

 ……苦しそうな姿に、思わず顔を背けた。


「……!兄さん、アドルフって人に会うのは……?」


 レニーとレオナルドはサーラを知っている。

 その兄弟は、「アドっさん」という呼び名から察するにアドルフと接触している。

 何より、サーラもアドルフもコルネリスと因縁がある。


「……アリだな。アドルフに伝えるか」

「メールは俺からも送れる。……ええと、兄さんは……」


 突如、俺を見る瞳に燃えだした憤怒。

 兄さんは頭を押さえ、呻く。


「…………ああ、くそ。あの野郎……!!」

「兄さん?」

「ロッド、メールを送ったら派手に動くな。お前は安全圏にいなきゃ役たたずになる」


 ……ん?それって今は……


「……俺、役に立ててる?」

「はぁ?何分かりきったこと聞いてんだ。脳内ガーデニングは程々にしてそろそろ花屋にでも出荷しろ」

「す、すいません」


 めちゃくちゃ久しぶりに怒られた気がする。

 軍服に血の染みが広がっていく。痛みからか、兄さんは片膝をつく。

 ……兄さんに狂っていてほしい相手がいるんじゃないのか、これ。


「……ッ、とにかくだロッド。なんかあっても考えてから動けよ」

「……考えて違ったら?」

「動かないのも自己責任に決まってんだろ。豚小屋でエサ待ちするのは気楽でいいだろうけどな」

「すいません」


 こめかみに青筋の浮かんだ笑顔のまま、兄さんは肩を押さえる。


「……?怪我……?」

「気にしなくていい。……呼ばれた。行ってくる」


 そのまま裂け目に身を投げ、兄さんは姿を消した。……心配する暇すらくれなかったけど、仕方ねぇよな。

 すぐさまサーラに電話をかける。


「えーと、すみません。あの……行ってほしい場所があるんですけど……」


 通話中、メールの着信音が響く。

 パソコンの方で確認しようと、モニターを見る。




 見るな




 画面が、真っ黒に覆われた。

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